工事現場でお腹を空かせた茶トラの子猫に「おいで」と声を掛けたら 2代目看板猫に就任、今では花屋の人気者に
兵庫県尼崎市にある「花の店 すかし屋」では、オーナーの池田雅道さん、康子さん夫婦の飼い猫・茶トラの「はる」(メス、4歳)が、花を求めるお客さんを店先で出迎えている。5年前、人気者だった初代看板猫の白猫「ゆき」(オス、19歳で没)が天国へと旅立ち、悲しみに暮れる日々が続いた。それから2年が過ぎたころ、ふと夫婦の前に現れたのがはるだ。以来、はるは夫婦やスタッフ、お客さんたちに再び笑顔をもたらしている。先代のゆきのこと、はるとの出会いなどについて、池田さん夫婦に話を聞いた。
雅道さん 初代看板猫のゆきと出会ったんは今から24年前。近くの商業施設の駐輪場でどしゃぶりの雨の中、鳴いていたのを僕が拾ったんです。生後2ヶ月くらい。目やにや耳だれがひどくてね。白猫なのにドロドロやった。そのままほおっておかれへんし「来るか?」と声をかけたら「にゃー」と返事したので保護して病院で検査や治療を受け、店で飼うことにしたんです。
康子さん ゆきはとにかく人懐こくて賢い子でした。ふつうの猫なら怖がる大きな音や散歩中の犬にも全く動じないマイペースな性格。子どもに乱暴になでられても「しょうがないにゃー」といった顔をしながらされるがまま。老若男女、誰にでも優しかったです。それゆえお客さんや地域の方々の人気者になり、ゆきのファンは年々、増えていきました。
雅道さん 店が忙しくなってきたなと思ったら、ぱっと出てきて、お客さんの足元でごろんとするんですわ(笑)。お花を選んでいただいた後、花束にしてお渡しするまでに少し時間がかかるでしょう。ゆきはお客さんが時間をもてあまさないよう接客してくれて、何度も助けられました。
康子さん そんなゆきが老衰のため天国へと旅立ったのは2017年9月のことでした。19年間、花屋の看板猫として、私たちと一緒に過ごしてくれました。私も夫もスタッフも、ゆきがいなくなった喪失感は相当なもので、しばらくの間、何も手に付かないほどでした。
雅道さん お客さんの接客もできるあんなに賢い子にはもう二度と出逢われへんやろなと…。また猫を飼いたいけど、どうしてもゆきと比べてしまうやろし、それはかわいそうやからやめておこうと。それで猫が恋しくなったときは、妻と一緒に猫カフェに行ったりしていたんですよ。
康子さん それから2年が経った夏でした。近くの工事現場で生後3ヶ月くらいの子猫が鳴いているのを夫が見つけ、夜中に餌を置いておいたら、朝、なくなっていて、店のすぐそばまでその子がやってきたんです。相当お腹が空いていたのか、ミャーミャー鳴き続けていました。警戒心の強い子でしたが、私が「おいで」と声をかけると、トコトコとやってきました。それがはるです。
雅道さん めぐり逢いというか、これも縁ですよね。ゆきがいなくなった店はなんだか寂しくて、お客さんから「保護猫を譲り受けてみては」とよく言われていたんです。でも、なかなかこの子という子とは会えなくて…。はると出会ったときは、妻が病気するなどいろいろあった時期でもあったんです。でもいま振り返ってみると、かわいい子猫のはるが私たちの元にやってきてくれたことで、妻もスタッフもみんな元気を取り戻すことができました。
康子さん ゆきがいなくなってから、どうしても埋められなかった心の隙間を、はるはふさいでくれました。保護したあと病院へ連れていくと、獣医師さんから「茶トラはオスが多く、メスは珍しいから大切に育ててあげて」とも言われて。はるは、誰にでもフレンドリーだったゆきとは違って少し臆病なところがあり、常連さんには甘えますが、自分にあまり関心を向けられると逃げるし、逆に知らんぷりをしていると寄ってきます。慎重な性格なので、店の外に出たりしないし、決して商品に手を出したり食べたりすることもありません。はるがデビューすると「やっぱりこの店には猫ちゃんがいないとね」と喜んでくれる方が多かったです。
雅道さん 深夜まで仕事しているときなんか、はるがそばにいてくれるだけで仕事がはかどります。猫がいるのといないのとでは、仕事への励まされ度が全然違うんですよね。妻と喧嘩してギスギスしたときなんかも、この子がいると和んですぐ仲直りできます(笑)。
康子さん ゆきがいなくなって5年も経つのに、今もゆきのことを偲んでくれるお客さんもいるんですよ。はるはそんな方も笑顔にしています。2代目看板猫として、これからもずっと元気でいてほしいです。
【店名】「花の店 すかし屋」
【住所】兵庫県尼崎市塚口町2-33-9
【インスタグラム】@sukashiya
(まいどなニュース特約・西松 宏)