人間が怖い…心を開かず、ガクガク震える毎日 元保護犬がドッグランデビューを果たすまで
山口県で保護された元野犬の真っ黒のかわいいワンコ。人と目を合わすことができず、すぐに隅に隠れてしまうことから保護団体では「スミオ」と名付けられていました。
2021年12月、そんな「スミオ」を迎え入れることにした里親さんは「いつかニコニコ笑って優しい子になりますように」と「にこまる」と命名し、一緒に生活することにしました。
しかし、里親さんのお家に来ても、にこまるはガクガク震える日々……。かつて実家で犬を飼っていた経験があった里親さんですが、イチから犬を育てるのは初めてで、にこまるが心を開いてくれないことに当初は悲しささえ覚えました。
また、里親さんが子どもの頃に過ごした地域では「犬は番犬として飼う」のが主流で、今のように家族の一員として同じ部屋で過ごすのが当たり前ということにも、「わからないことだらけ」で戸惑いました。
さらに、にこまるは元野犬。どうも、人間に対してトラウマを抱えている様子で、抱っこしようとすると、にこまるはギュッと体に力を入れて震えてしまいます。その度に里親さんは「ごめんね、大丈夫だよ……」と声をかけますが、またギュッ。にこまるの悲しそうな表情を見るたびに、里親さんはまた、いたたまれない気持ちになりました。
■「にこまると楽しく過ごせる日なんて来るのだろうか」
里親さんは、にこまるがなかなか心を開いてくれないことから、さまざまな本やYouTubeなどを見て勉強。そういった情報を元にケージの位置を変えたり、接し方を変えてみたりと、アレコレ試してみました。しかし、相変わらずにこまるちゃんは心を開いてくれません。「むしろ逆効果だ」と感じることさえあり、その度に「何も前に進んでいないじゃないか」とまた悲しい気持ちになりました。「いったい、いつまでこの状況が続くんだろう。にこまると楽しく過ごせる日なんて、うちには来ないのではないだろうか」と……。
■「にこまると一緒に私自身も成長していこう」
しかし、あるときふと里親さんは気づきます。
「もしかして私は、他の犬とにこまるとを比べて、『早く普通の犬のようになって欲しい』と焦っているんじゃないか」
「自分が勝手に想像していた『幸せなペットライフ』と違う現実を前に落ち込んで、肝心のにこまるの気持ちをないがしろにしていたかもしれない」
「親や兄弟の犬と人間によって引き離され、知らない人のところに連れて来られたにこまるは、そりゃ怖くて仕方がないに決まってるなぁ」
……そう思ってから里親さんは、こう考えを改めました。
「にこまるはにこまる。この子のペースで良いんだ。心を開いてくれるまでの時間が1年かかろうが、2年かかろうが構わない。にこまると一緒に私自身も成長していこう」
里親さんがこう考えるようになってからも、やはりにこまるは、他の犬が当たり前にできることにも時間がかかりました。しかし、里親さんはそれを気にしなくなったと言います。「なんでにこまるはできないの……」から「昨日よりはできるようになったね。すごいじゃん! また少しずつがんばってみようね」と大きく気持ちが変わっていきました。
■にこまるが教えてくれた「3つのこと」
里親さんがそう思い、にこまるに接するようなってから、少しずつ少しずつにこまるは心を開くようになりました。他の犬に比べれば、今もまだまだ「できないこと」が多いにこまるですが、それでも里親さんはにこまるの成長が嬉しくて仕方ないと言います。
同時に、にこまるを迎えてからの約10ヶ月で、以下の3つのことをにこまるから教えてもらった気がするとも言います。
「焦らなくていいよ」……前述のように、にこまるとの生活に焦ることなくお互いのペースで過ごすほうが、うまくいくことを気づかされました。
「他と自分を比べて落ち込まなくていいよ」……他の犬は他の犬。にこまるはにこまる。みんなそれぞれ違うんだから、それぞれのペースで進んでいけばいいことをにこまるが教えてくれました。
「自分が思うより外の世界はとっても楽しくて優しいんだよ」……外に出ると怖がってしまうにこまるですが、それでもみんな「かわいいね」と微笑んでくれます。にこまるはトラウマからそれを受け入れられないままです。私たち人間もきっと、自分の経験や想像だけで物事をネガティブに捉えてしまうときがありますが、「それはただの思い込みで、もしかしたらそれよりもずっと現実は明るさに満ち溢れているかもしれない。だからまずは一歩踏み出してみよう」……そんな風に思わせてくれました。
■ついにドッグランデビューを果たしたにこまる
里親さんによれば、にこまるはやっぱりまだまだ怖がりなところがあるものの、当初は全くできなかった散歩もクリアするようになり、先日はドッグランデビューも果たしたそうです。にこまるは元野犬らしく、ワン友には人間よりも早く馴染み、今ではほぼ毎日楽しくそとを駆け回っていると言います。
最後に里親さんはこう語ってくれました。
「私にとって、にこまると出会えたことで得られた学びや幸せは、本当にかけがえのないものです。保護犬に興味のある方や、お悩み中の方へ何か少しでも気づきになってもらえるよう、これからもnoteやsnsを通して発信していくつもりです。ぜひ、成長を続けているにこまるに会いにきてください」
(まいどなニュース特約・松田 義人)