このままでは命が危ない!台風上陸前日の漁港で子猫を保護 奇跡の出会いだったけど…「本当に連れてきて良かった?」
不安で心細い時、理想の存在がそばにいてくれたなら…。そんなことを考えたことはないでしょうか。宮崎県へ結婚のため移住をしたライターの透谷凛さんは、知人もおらず土地勘もない場所でそんなことを考えていました。
彼女の理想とは、サバトラ柄の男の子の猫。名前も考えてあったんです。それは「ロジャー」。大好きな元テニスプレイヤーのロジャー・フェデラーから拝借しました。いつか出会えれば…そう考えていたんです。
■理想の猫がやってきた!
その日は突然訪れました。理想の猫が目の前に現れたのです。2022年9月17日、次の日に記録的大型台風14号が九州へ上陸する前日のこと。宮崎県某漁港で出会いました。釣りを楽しんでいた透谷さんと婚約者のもとに、1匹のサバトラ柄の子猫がヨチヨチと近付いてくるではありませんか。しかも、とても人懐っこい。
これぐらいの小さな子なら、必ず近くに母猫がいるはず。小一時間ほど母猫を待ったのですが、遂に姿を見せることはありませんでした。どうやら避難に遅れた子猫のよう。
台風上陸までの時間は、残りわずか。風は強くなる一方です。このままここにいたら、命が危ない…。透谷さんは持っていたエコバッグに子猫を入れ、自宅へ連れ帰ることにしました。この時、家の子にするか否かは考えていません。ただ目の前にいる子猫を避難させなくては、その一心です。
帰宅しエコバッグから出た子猫はというと、なぜか元気いっぱい。しかも、用意した段ボール箱じゃなく、ベッドの上に上がりたがるんです。ベッドの上に上がると、思いっきりくつろぐ。
「ぼく、ずっとここの家にいたよ」
いやいや、そんなはずはない。母猫やきょうだい猫のことは思い出さないの?でもでも、それが可愛い!何より、透谷さん理想のキジシロの男の子。もうメロメロです。
次の日に台風が上陸、窓を強風が叩く音にキジシロくんは少し怖い思いをしたようですが、守ってくれる人がいると分かっています。2人にピッタリくっつくんです。この様子に、このまま家の子にすることにしました。名前は透谷さんが考えていた「ロジャー」に決定です。
■隔離生活を余儀なくされ…
さて、心の準備も猫グッズの準備も出来ないまま始まったロジャーくんとの暮らし。透谷さんは今まで猫と暮らしたことはあるものの、ロジャーくんの元気には圧倒されっぱなしです。その中で気になることが…。それは左足の先にある炎症です。動物病院での診断結果はコクシジウム症と真菌。真菌は人間にも感染しますので、獣医師の指示で少しの間ケージに隔離することになりました。
ケージに入れられたロジャーくんは、何のことか分かりません。よく分からないお薬も飲まされ、せっかくできたパパとママは遠くにいます。「寂しいよ」といわんばかりに、透谷さんと婚約者を何度も何度も呼ぶんです。透谷さんはなるべく一緒にいるようにしましたが、遂にロジャーくんは自分の尻尾を噛むという自傷行為を始めてしまいました。
獣医師に相談すると、この自傷行為が続くのであれば尻尾を切る「断尾」をしなくてはならないと…。傷口からばい菌が侵入し、新たな感染症にかかるリスクが高いからです。
この獣医師の言葉に透谷さんは、悩みました。あのまま自由に走り回れる環境にいた方が、ロジャーくんのためだったのではと。しかし、自分を慕うロジャーくんの姿に、「いつか正解だったと言えるよう頑張ろう」と思い直したのです。
■強くなるために必要なこと
真菌は人間にも感染するものの、死亡に直結する病気は発症させません。そこでエプロンや使い捨て手袋で対策し、ロジャーくんとスキンシップをはかります。一部屋、ロジャーくん専用にもしました。ロジャーくんは透谷さんの温もりが嬉しくて、何度もスリスリ。まだ生後2カ月にも満たない子猫。母猫の温もりが必要な月齢だったのでしょう。
気付くとロジャーくん、尻尾を噛まなくなっていたんです。エリザベスカラーはもういりません。よく分からないお薬も、ご飯に混ぜてもらえればお利口さんに飲めます。婚約者が仕事から帰ってくると、全身で「おかえり!」って言ってくれるんですよ。
透谷さんと婚約者の関係も、今まで以上に温かなものに。ここだけの話、婚約者は典型的な九州男児で言葉数が少なすぎるんです。それがこんなにも優しい笑顔を見せる人だと教えてくれたのは、他ならないロジャーくんです。
透谷さん自身も、ぼんやり不安に思っていた宮崎県での新生活が今まで以上に楽しくなりました。「頑張らなくちゃ」と焦るばかりだったのが、嘘のよう。それもこれも、理想の猫・ロジャーくんのおかげです。
「守るべきものができると、人間は強くなる」
透谷さんの好きな外国人作家の言葉を今、彼女は噛みしめています。
(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)