人種や肌の色で職務質問? 日本人に潜む差別意識「レイシャル・プロファイリング」 目撃投稿が反響
特定の人種の外国人に対する警察官の職務質問がSNS上で大きな注目を集めている。
きっかけになったのは有限会社佐藤事務所代表で、日本語教育者・研究者の佐藤剛裕さん(@officesatojapan)が投稿した「いま駅でいかにも日本語学校の留学生って感じの人が警官二人に呼び止められて『時間がない』と言っていたので『その人、今から学校に行くところだから行かせてあげてください』と声をかけた。『私日本語教師なんですけど、職務質問のせいで遅刻する学生が多くて困ってるんです』と言い添えておいた。」というエピソード。
9月に東京弁護士会が発表したアンケート調査によると、過去約5年の間に職務質問を経験した外国人は62.9%。中でも南アジア、中南米、中東、アフリカに民族的ルーツを持つ人はその率が高く、警察官による職務質問が人種偏見に基づいているのではと物議を醸していた。
佐藤さんの投稿に対し、SNSユーザー達からは
「もしかして、警察はその時間帯を狙ってませんか。当然、学生も多い時間帯なわけだし。」
「わかります。通信制の高校の生徒も職務質問で遅刻することがちょくちょくあります。見た目…ですかね…」
「先生、ありがとうございます。授業を受ける学生さんのことを大切に考えてくださる先生がいて、学生さんは幸せですね。」
といった警察への疑念の声、佐藤さんへの感謝、共感の声がある一方
「警察官を責めないで下さい 不良不法外国人の犯罪が増加しているから職務遂行しているだけです」
「ちょっと微妙だけど、警官の行動を非難できない。不法滞在が増え新聞沙汰にはならないが、犯罪が増えてる事も事実。米国はやり過ぎだが、日本で大きなテロが起きにくいのは日頃の警官の働きも大きいんだよね。彼らの歯止めがなくなり犯罪が起これば警察が責められる。」
など不確かな情報に基づく偏った意見も見られた。
■投稿者に聞いた
佐藤さんにお話を聞いた。
ーーこのエピソードは、実際に学生かどうかわからないが佐藤さまが気を利かせた、という解釈でよろしいでしょうか
佐藤:はい、最初は実際に学生かどうかは分かりませんでしたが、わたしがちょっとした機転を利かせて声を掛けると、警官が「学校行くの?」と問いかけていてその方が頷いていたので、本当にそうだったようです。駅の改札から日本語学校がいくつかある方向に向かって、午後の授業に間に合うような時間帯に歩いていくところでした。
ーー職務質問を受けていた方の国籍、人種などおわかりになるでしょうか。
佐藤:もちろん外見で判断するのはよくないですが、おそらくネパールか周辺のバングラデシュなどの南アジア諸国の出身ではないかと思われる外見の方でした。
ーー佐藤さんがお話された際の警察官の態度、対応はどのようなものでしたか?
佐藤:私も非常勤で関わっている日本語学校に出講する日で、きれいなシャツに黒いジャケットに革靴というような、教師らしいオフィスカジュアルでいましたし、穏やかでにこやかに、紳士的な言葉で話しかけたので、その時は、大変恐縮されていました。「いま職務質問で遅刻する学生が多くて困っているんですよ」という言葉にもうなづいていました。
たぶん、ボロボロのファッションで最初から喧嘩腰に警官に食ってかかっていたら力づくで取り押さえられていたことでしょう。そのあたりは、現場の警察官も我々市民に対しても態度や身なりなどから素性を探りながら対応を変えてくるので、情意的な側面にも配慮をしたある種のコミュニケーション・ストラテジーが必要になってくると思います。
ーー特定の国籍、人種の方が職務質問をうけやすい現状についてご意見をお聞かせください。
佐藤:まず明らかな事実として、すでに外交問題、国際的な人権問題になっていることは皆さんにあらためて知っていただきたいと思います。アメリカ大使館がは日本の外国人に対する職務質問がレイシャル・プロファイリングに該当するとして警告を発しています。
また、東京弁護士会がアンケートを実施して具体事例の収集につとめています。これらを受けて、日本の警察内部でも、適正化を図るような通達が出ているとも伺っています。これは数年前の学生の声ですが、東欧に近い中央アジア出身の学生が白人に見えるのでなにも咎められなかったのが、いっしょに歩いていたクラスメイトの東南アジア人学生だけが執拗に手荷物検査を受けたことがあったので、人種差別的だと感じた、悔しかった、と授業で話していたのが印象に残っています。
警察にも入管にもあてはまりますが、植民地時代に内地に入ってくる朝鮮人や台湾人などの植民地出身者の素行を取り締まるというような発想が歴史的に染み付いてしまっているとか、日本語学校の現場にもそれと同じような気風がいまだに残っているといういうような指摘もなされています。
■コメントや反響は?
ーーこれまでのコメントや反響へのご感想をお聞かせください。
佐藤:最初は私のフォロワーやそのフォロワー、日本語教育や文化人類学ですとか多文化共生などに関心のある方々に届いていたと思いますので、そのようなちょっとした気遣いで町の雰囲気がよくなるのではないかというようなあたたかい共感のメッセージがたくさん返ってきたので励まされました。
しかし、リツイート数が千、二千と増えるにつれて、だんだん、不法滞在就労者を見つけるには警察の職務質問による取締は強化して当然だ、という論調の反発の意見が増してきました。ただ、それもあながち悪いことだとは思っておらず、少しずつ議論が進んでいけばよいと思っています。
文化人類学を学び、日本語教育の実践研究を行う立場から多文化共生に関わる一市民としての個人的な信念としては、私たち日本社会を構成する皆が、「日本人」や「日本文化」というようなものが確固として存在するのではなく、今の日本社会はもはや様々な国籍や民族の出身の方々があつまって「いま・ここ」の社会をともに作っているのだという「社会構成主義的」な見方に認識を切り替えて行く必要があるだろうということを考えています。ただ、自分自身に対する誇りを持つことができず、「日本」という国の他には心のよりどころがない人たちがたくさんいるのも今の日本社会の現状ではないかと感じています。
この2~30年ほど盛んだった右派市民運動が作り上げようとしていた「日本の伝統的価値観」のようなものが、実は1995年のオウム事件以降に行き場をなくしたカルト宗教に支えられた虚構的なものだったことが日本会議や統一教会についての諸研究で明らかになってきています。それがもっとも悲劇的な形で露呈したのが今年の夏の安倍晋三元総理の銃撃事件とその後の政治家と統一教会の関わりでした。このような大きな出来事があって、世情が不安定になっている時期に、外国人への風あたりが強くなってしまうようなことがないように、注意深く状況を見守っていく必要があるとともに、できることから少しずつ、働きかけを行っていくことが大切ではないかと思います。
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SNSなどインターネット上ではしきりに「外国人による犯罪が増えている」と言われるが、法務省が作成している犯罪白書によると「外国人による刑法犯の検挙件数は、平成3年以降増加傾向にあり、17年に4万3622件を記録したが、18年から減少に転じ、29年には一時的に増加したものの、30年から再び減少し令和元年は1万4789件(前年比4.9%減)であった」(令和2年版 犯罪白書より)とあり、誤りであることがわかる。
こういった偏見に根差した問題は非常に根深く、佐藤さんのように積極的に偏見、不公平を正そうという人が増えなければ、解決の道は見えない。日本で学び、働こうという人たちにせめて積極的に不快感を与えない社会づくりを目指したいものだ。
佐藤剛裕さん(文化人類学・日本語教育・多文化共生論)は有限会社佐藤事務所代表。日本語教育実践を行いながら、大阪の国立民族博物館での研究会に参加するなど文化人類学の研究も続けている。
(まいどなニュース特約・中将 タカノリ)