社会の底辺だと?…「聞き捨てならん!」 バブル期の都市銀、ガードマンを見下す「名ばかり課長」を退散させた“お返しの一言”

ときはバブル経済が絶頂期を迎えていた平成の初め。この世の春を謳歌していた銀行マンが、自分たちの職場を守ってくれているガードマンを見下すような言葉を浴びせる一幕があった。だが、ガードマンが落ち着き払っていい返した言葉に、銀行マンはぐうの音も出ず退散した。

■これが課長の肩書をもつ銀行マンの言葉か?

平成の初め、バブル景気がピークを迎えていた時代に、「銀行の体質」を指してこのようにいわれていた。

「金を預けるときは仏顔、借りるときは閣魔顔」

銀行警備をやっていると、銀行員の中には警備の仕事を「社会の底辺」と認識している者がいることに気づく。

当時は日本初の警備会社が誕生して30年が経っていたが、まだ「守衛」と混同されることが多い時代だった。警備員と守衛は似て非なるもの。警備先に直接雇われる守衛とは違い、警備員は警備請負契約に基づいて警備業務を行っている。守衛の地位が低いとはいわないが、守衛は勤め先の警備以外に雑用的な仕事もやっていたせいか、警備員も「同じようなもの」という目で見られがちだった。

これは、後に他の銀行と統合した大手都市銀行で、私の先輩が実際に経験したエピソードだ。

24時間勤務で朝一番の業務は、通用口に立って、出勤してくる銀行員の身分証明書(IDカード)を目視で確認することだった。先輩は「おはようございます」と挨拶をしながら、行員が差し出すIDカードを指差し確認していた。もっとも挨拶を返す行員はほとんどおらず、たいてい無言で通り過ぎていくという。

そこへ、入社したばかりの新人行員が出勤してきた。IDカードを確認した先輩は、ほぼ惰性で「おはよう」と声をかけたところ、なんと「おはようございまーす」と返してくれた。中には、こういう人もいるのだが、たまたまその様子を見ていた先輩行員がその新人を窘(たしな)めた。

「なんで警備員なんかに挨拶するの?」

「警備員なんか」とは随分ないわれようだが、先輩は「いつものこと」と気に留めなかった。

こういうのは、まだ序の口だ。ある日の退勤時間に、課長の肩書をもつ中年行員がわざわざ近寄ってきてこういった。

「キミたちは社会的地位の低い仕事やから、ここにおったら『銀行で仕事してます』っていえるわな」

こんなことを、なぜわざわざいう必要があるのか。聞き捨てならない…そこまで侮辱されて黙っていられなかった先輩は、ひと呼吸おいて冷静にいい返した。

「オタクらは、他人の金をころがして儲けているやないですか。似たようなものですよ」

図星だったのか、その課長は苦虫を噛み潰したような顔で、逃げるように立ち去ったそうだ。

あとで分かったことだが、その中年行員は課長とは名ばかり。当時は職場にもパソコンが急速に導入され始めた時代で、ソロバンの時代に入行したベテランたちの中には、時代の流れに追いつけない者がいた。

パソコンの操作を習得するか、居場所を失うか。件(くだん)の課長は後者だったらしい。警備員をいじめて留飲を下げているのだった。

さて令和の現代、警備員にも国家検定が導入されて久しく、専門知識が求められる職業として認知されているはずだが、現状はどうだろうか。

(まいどなニュース特約・平藤 清刀)

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