子猫の時にたらい回しにされて人間不信に…「怖くない」「甘えていいんだ」19歳老猫が“家族の優しさ”に気付くまで
神奈川県で暮らすミクちゃんはお婆ちゃん猫。年はもう19歳で腎臓に持病があります。走ったり飛んだりすることはできません。性格は随分と丸くなり、お母さん以外に抱っこされるのも平気に。これには家族もビックリです。ただこれは、年齢を重ねただけが理由ではないかも。
それはミクちゃんが、K家「最後」の猫だから。今まで、ジジちゃんとモモ太くんの3匹で暮らしていました。2020年6月5日にジジちゃんが悪性腫瘍で、2022年4月29日にモモ太くんが非常に珍しい心臓病で虹の橋のたもとへ旅立ったのです。
いつも喧嘩ばかりしていたモモ太くんを見送った後、ミクちゃんは気付いたのです。「ここは怖いところではない」と。落ち着いて見渡すと、お父さんもお母さんも、娘のTさんもTさんの夫も自分に優しくしてくれていました。全員、甘えても大丈夫な人。
ミクちゃんがこれに気付くまで時間がかかったのは、仕方がないことなんです。それはミクちゃんが子猫の時に「たらい回し」をされ、人間不信に陥っていたせい。
2004年12月、生後半年の時に元の飼い主の40代男性が、引っ越し先に連れていけなくなりました。そこで、同僚アルバイトにミクちゃんを託したのです。その同僚アルバイトの一人が、Tさんです。このころは大学生。どの家も1週間以上、ミクちゃんを預かることが出来ずたらい回し。
Tさんが預かる番になった時、ミクちゃんを引き取りに行くとキャリーバッグの中で小さくなっているではありませんか。車に乗せると、ブルブル震える。暖房がついているので寒いわけではありません。怖くて心細いから震えている。この光景が19年経っても、Tさんは忘れられません。
K家に到着すると、すでに同じ年のジジちゃんがいますからご挨拶。ジジちゃんはフレンドリーに「こんにちは」と鼻をくっ付けようとしますが、さっきまで恐怖に震えていたミクちゃんはそれすら怖い。「シャー!」と威嚇して、部屋の隅に隠れてしまいました。
余談ですが、ミクちゃんに会うまで「シャー!」をしなかったジジちゃんは、ミクちゃんから秘伝の技を教えてもらったんです。何か不満があると「シャー!」をするように。何だかんだとコミュニケーションはあったみたい。
その後もご飯をくれるお母さん以外には懐かず、定位置は押し入れの布団の間。器用にミクちゃん専用ルームを作って、そこで過ごします。ここなら安心できたよう。あとは、お母さんに抱っこされながら耳たぶを吸う時も、安心できたみたい。その時だけはゴロゴロと喉を鳴らすんです。
2017年にモモ太くんが家に迎えられた時には大パニック。生後半年の子猫ですから、ミクちゃんの知っている猫ではありません。「フー!」「シャー!」と威嚇をするものの、モモ太くんはどこ吹く風。ミクちゃんと遊びたくてたまりません。ミクちゃんはほとほと疲れ果てていました。
怖いことや嫌なことがいっぱいで、お母さん以外は信頼できる人がいないミクちゃん。それでもジジちゃんが病気になり、通院のためにキャリーバッグに入れられそうになると、ジジちゃんを守るんです。
「ここには入れないであげて!」
キャリーバッグの前に立ちふさがりました。まるで「とおせんぼう」をしているかのよう。その姿がいじらしく、Tさんはミクちゃんを迎えた日を思い出しました。
「そうだね、ミクはキャリーバッグの中で震えてたもんね」
モモ太くんが体調を崩した時には、あれほど年がら年中「フー!」と威嚇していたのに、そっと寄り添う。家族だから、癒してあげたい。その思いがミクちゃんの中にはあったよう。
そのモモ太くんが病院で亡くなり、家の中の猫はミクちゃんだけに。肩の力を抜いて周囲を見渡すと、お母さん以外も優しい人たちがいたのです。今まで怖いと思っていたお父さんは、自分を捨てた元の飼い主でないことも分かりました。少し甘えてみようかな、とお父さんにも抱っこされるように。
だみ声で家族を呼ぶようになったのも、モモ太くんが亡くなってから。急に甘えん坊になりました。病院はやっぱり嫌いだけど、行くと少し体調が良くなるのは分かるみたい。お薬だってお利口さんに飲みます。
実は、毎月の医療費は10万円前後かかり、かなり家計を圧迫しているんです。しかし、ミクちゃんとの時間はかけがえのないもの。なるべく苦しませず、残りの「猫生」を過ごさせてあげたい。
19歳になりヨボヨボになったとしても、ご飯とトイレだけは自分でするんです。トイレの失敗もないんですよ。それがいじらしくて、切なくて…。
カウントダウンが始まっていると知りつつも、願わずにはいられません。20歳の誕生日を家族で迎えようと。
(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)