「将来、歌手になりたい」きっかけは主催者の幼少期のトラウマ 社会派音楽フェス「ロッチル」大阪・豊中で開催

 子どもの未来をつくる社会派音楽フェス「ROCKS FOR CHILE」がこの12、13日に大阪府豊中市の豊島公演で開催される。コロナ禍でも中断しておらず、6回目を迎える今年は発見をテーマに「みっけの花咲く2日間」として岸谷香、一青窈、矢井田瞳ら一流アーティストと”共演”し、触れ合い体験できるのが大きな特徴。そこには夢を諦めた主催者の幼少期のトラウマがあった。

 「ROCKS FOR CHILE」(ロックスフォーチル、RFC主催)は子どもたちが未来を生き抜く力のきっかけになれば、と願って2017年にスタートし、今年で6回目となる。この音楽フェスの立ち上げから参加し、現在は主催するRFC代表で一児の母でもある伊吹美里さん(40)が力を込める。

 「子どもたちが未来に夢を見られるようにするにはどうすればいいか。わたしたちは毎年大事に未来の種を蒔いてきましたが、ようやく花が咲くまでに成長させてもらいました。そこで今回は様々な発見をテーマにし”みっけの花”を合い言葉に、開催することにしました」

 この音楽フェスのスタート時は、主催したある建設業の社員として企画し、運営をサポートする立場だった伊吹さん。直前には大量生産、大量消費型の典型のような業界に勤務しており、そのあり方に疑問を持ち、転職していた。

 ただ、企画を進める際に、疑問に思ったのは子どもたちの心を動かし、スイッチを入れるものはなんなのだろうか、ということ。自身の子ども時代を振り返ったとき、ひとつの答えにたどり着いた。民謡や三味線の師範だった母親のもとで育ち、歌が得意だった美里さん。数々のコンテストでも優勝し、得意げになっていたという。つまり成功体験はあった。

 そこである日、両親に「将来、私は歌手になりたい」と思い切って告白したそうだ。すると「お前、その顔で」と大爆笑され、夢を諦めた。よくありそうな家庭での出来事にも思えるが、少女の心はいたく傷つき、それがトラウマに。以来「がんばることは恥ずかしいこと」と間違った解釈をして生きてきたという。しかし、子どもが生まれ、これからの未来を考えたときに変化が生まれた。

■大切なのは、子どもたちの夢を応援すること

 「大切なのは夢を応援すること。それが親の役目ではないか。そして、みんながワクワク楽しく、やりたいことができる社会ができたらいいのに、と考えるようになったんです。こんな私だからこそ、やらなくっちゃって」

 もちろん、子どもにとって成功体験は必要だ。しかし、心を強く突き動かし、持続させるのは憧れの方が上ではないか。そこで一流やホンモノに早い段階で触れる機会を提供することを思いついた。

■矢井田瞳、岸谷香、一青窈らが出演

 こんな背景で始まったロックスフォーチルは関西らしく、いまでは「ロッチル」に。そのロッチルには地元出身の矢井田瞳ら今年も趣旨に賛同したトップアーティストや一流スポーツ選手が参加する。

 なかでもトピックを挙げるとすれば、この2つか。初参加の岸谷香は、おじさん世代にはたまらないプリプリの「ダイアモンド」を熱唱し、子どもたちがバックダンサーとして踊るというものだ。振り付けを指導したのは豊中出身の世界的なプロダンサー「MAiKA」さんで、すでにオーディションも終えている。

 今年も参加する一青窈にも心温まる物語がある。昨年の出演後、脳性まひにもめげず音楽活動をしている3人組「ホイールチェアボーイズ」の1人「TAIKI」さんの訪問を受け、と名曲「ハナミズキ」を楽屋でハモったことで深く感銘。今回の出演を心待ちにしているそうだ。

 その他にも「進撃の巨人」のテーマ曲「悪魔の子」で知られるヒグチアイと豊中市立第七中学校ブラスバンドとのコラボも実現。また子どもに大人気のケロポンズが「エビカニクス」ともステージで一緒にダンスもできるなど、どれもこれも充実した内容だ。

 さらに、このフェスのユニークなところは「子ども実行委員会」なるものを立ち上げ、自主性を育んでいるところ。開会宣言をしたり、豪華アーティストを紹介する新聞を発行し、さらにイベント後に再度、取材して新聞づくりをする。

 イベントに参加した親からは「子どもが自分の未来や将来について語るようになった」「かんしゃく持ちだったのが収まった」など、うれしい声も届いているという。

 また、近隣の養護施設とも連携。ワークショップなどを開き、その売り上げを寄付している。このようなノウハウや取り組みは当然のように関係者の間で高く評価され、今年8月には大阪を飛び出して静岡県三島市でも「ロッチル」が開催された。最終的には親と子の絆を深め、未来を逞しく生きる力を育み、児童虐待ゼロにつなげたい考えだ。

 「みんなが楽しめるイベントになっているのでぜひ参加してください。きっと新たな発見があるはずです」と伊吹さん。この音楽フェスはいわば、キッザニアのようでもあるが、手づくりの分、より心が通い合っているような気がする。困難にぶつかっても子どもたちが未来を切り開いていけるように。「ロッチル」が大きなうねりになってほしい。

◇「ROCKS FOR CHILE」 子どもだけの入場はできません。

(まいどなニュース特約・山本 智行)

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