「エジソン」「チグハグ」 TikTokチャートでヒット連発 つばさエンタテインメント社長が語るブレイクの秘訣
TikTok発のヒット曲が珍しくなくなった昨今。これまでメディアに注目されることのなかった路上シンガーやインディーズアーティストも多く発掘され、音楽業界に新たな旋風を巻き起こしているようだ。
この動きの中で存在感を高めているのがエンタテイメント企業グループ「つばさグループ」。2020年頃から注目され、今年に入ってからはなんとTikTokチャートで35週中13週にわたってつばさグループ関連楽曲がランキング1位を獲得している。
ソロシンガー、アーティスト、アイドルなど、さまざまなジャンルからヒットを生み出すつばさグループの成功の秘密はなんだろうか?これまでの流れを遡って調査してみた。
■【今年、1/3の週でつばさグループ関連アーティストが1位に】
2020年6月8日に「きゅんです!のうた。作りました」と投稿されたひらめの「ポケットからきゅんです」。
女性がギターを弾く手元だけが写った動画。TikTok発でこんな国民的ソングになると誰が思っていただろうか?
「ポケットからきゅんです」は瞬く間に多くのユーザーに使用され、投稿から5日後にはフォロワー1000万人越えの人気TikToker景井ひなが使用。当時KPOP界で流行っていた、「指ハート」を使った振付も相まって人気を加速させた。
それから約2年後。今年6月上旬に水曜日のカンパネラが歌う「エジソン」がヒット。TikTokで公開されたのは楽曲リリースから4か月後にもかかわらず、ダンス動画や替え歌が一気に拡散され、7月にはビルボードのTikTok部門で3週連続1位を獲得し、YouTube再生回数は3400万回を突破した。キャッチ-なリズムや、ポップな雰囲気が親しみを呼んだようだ。
さらに「エジソン」のヒットから1か月後には、THE SUPER FRUITの「チグハグ」が大ヒットした。この曲は8月31日のリリースを待たず、8月3日にTikTokで先行配信した動画が話題に。MVは公開後5日で総再生回数は30万回を突破した。
キャッチ-なイントロの直前に「それでは聞いてください、チグハグ」というMCが付くのだが、SNS上ではこのMCまでもが大流行。自身の失敗談や面白エピソードを話した後にこのMCとイントロを流す動画が大量に投稿された。
これまでの成功について、つばさグループの中核企業、つばさエンタテインメント代表取締役社長の吉永達世氏は、マーケティングの観点から次のように語る。
「我々は、1990年代に『女子高生マーケティング』という、若者の口コミを使ってモノを流行らせるビジネスモデルを確立しました。それを可視化することによって、モノを売る仕組みを見出し、それを音楽に当てはめることで、アーティストのヒット曲を生み出してきました。
今回注目して頂いたTikTokに限らず、曲をどういうところにどういう形で訴求していったら人の心に刺さるかということを考えているので、長年続けてきたことがよやくTikTokというツールに当てはまった形になりました。
例えば『ポケットからきゅんです』は時代のキーワードを掴んでいるし、キャッチーで初めて聞いたときから絶対売れると確信していました。結果TikTokで火が付くことになりましたが、最初からバズりを狙っていたわけではありません。
しかしこれを皮切りに、弊社のA&Rと言われる3人のスタッフがそれぞれヒットを出すことになりました。やはり、弊社の根底にある『良いものをどう伝えるか』というマーケティング発想から生まれているんだと思います」
SNSから数々のヒット曲が生まれている現在の状況についても考えを聞いた。
「そもそも音楽業界は、リリースした週に何位を取るかがヒットにおける全てだったんですよね。そんなこと、音楽業界以外ではないと思いませんか?
一般的に、プロダクトのヒットはロングテイルで売れていくし、映画だったら何度も上映されたり、テレビだったら再放送して視聴率を取りますよね。音楽のヒットっていうのを、その瞬間、瞬間でしか捉えられていなかったんです。
音楽も本来、一つ一つの楽曲をブランディングして、ゆっくりと時間をかけて売り出していくっていうことをやるべきだと思うんです。そのノウハウを積み重ねてきたからこそ、今、TikTokというフィールドで我々が目立つようになったんじゃないかと思います」
■【TikTokが業界内でも最重要メディアとなった現代】
最後につばさグループの企業秘密ともいえる、TikTokで使える「マーケティングノウハウ」について聞いた。
「世の中には情報が山ほどありますよね。一説によると、人は1日に3000もの新しい情報に出会えると言われています。街を歩いたら看板があるし、スマホを見たら見たことがない情報がいっぱい流れてきます。その山のような情報の中から、果たして我々は、なにを面白いと感じて深掘りするのか。興味を持って次にクリックするのは何個あるか。
ある調査によるとそれはたった13個なんだそうです。その13個の情報の中で好きになる情報ってありますか?その新しい情報の中で何個新しい商品を買いますか?買わないですよね。
じゃあどうやって好きにさせるかが重要。そこに我々は力を入れているんです。ヒントは『情報を興味にエントリーするにはどうしたらいいか』ということです」
アルゴリズムなどの数字ではなく、情報マーケティングという独自の目線で曲を売り出すことで数々の「バズり」を生み出しているつばさグループ。SNS戦国時代の今、競争相手より頭一つ抜けるために必要なことは、AIの目をかいくぐる裏技ではないのだ。
(まいどなニュース特約・青島 ほなみ)