「えっ、森を楽器に!?」思わず耳を疑う奇想天外な演奏会 仕掛け人は朝ドラ『おちょやん』で知られるのこぎり奏者
演奏会の形は数あれど、「森そのものを楽器にする」というファンタジックな演奏会が、12月10日(土)、11日(日)に大阪府河内長野市の古刹、観心寺の鎮守の森で開催される。演奏会のタイトルは「森のパイプオルガン」。そう、パイプオルガンといえば、ヨーロッパを中心に教会などに設置される、林立した大小のパイプから音の出るオルガンのことだ。
仕掛け人は、ミュージカル・ソーと呼ばれるのこぎりを使った演奏で世界的にも有名なサキタハヂメさん。 最近ではNHK連続テレビ小説『おちょやん』や、日本テレビ『祈りのカルテ』などの劇中曲を作曲したことでも知られる音楽家だ。
森そのものを楽器にするという奇想天外でファンタジックなアイデアはどこから生まれたのか、今回の演奏会ではどのようにして木々を鳴らすのか、サキタハヂメさんに聞いた。
風を使って音を鳴らす!森のパイプオルガンとは?
「そうなんですよ!木をくり抜こうとしたんですけどねえ」。
率直に尋ねた筆者の質問に、サキタさんは真正面から答えてくれた。
森の木々を鳴らす方法は、まさに試行錯誤の連続だった。パイプのように中をくり抜いた木にリードを入れてフイゴで風を送り、ブーッと音を鳴らそうと考えたり、「もっと遠くへ音を飛ばせたら」と、足踏みオルガンに10mのホースと木製のホーンを取り付けて演奏したらどうかと、実際に試作もした。しかしいざ作ってみると10mのホースとホーンは重すぎた。そもそも「遠くへ」というわりに10mは短い。もっと遠くに音を届けたいと考えた結果、電気とインターネットの力を活用するアイデアに到達した。
今回開催される「森のパイプオルガン」は、オルガンの鍵盤を押すとモバイルネットワークを経由して、電気信号(MIDI信号)が遠く離れた森のパイプオルガンに瞬時に届く。その信号を受けた「オルガン機構」は、モーター制御でパイプの風量を調整して音階を作り、ハーモニーを奏でる。それが森に響きわたるというわけだ。
試行錯誤の末にできあがった、「森のパイプオルガン」。しかしなぜ、このような発想が生まれたのだろうか。
河内長野で演奏した音を、世界の森で鳴らす
そもそものはじまりは、サキタさんが400匹の鈴虫とのこぎり演奏で“共演”したことだった。奏でられるのこぎりの音に共鳴するように、鈴虫が一斉に鳴いたという。しかも音を小さくすれば鈴虫も静かに、大きくすると騒がしく、それはまるでオーケストラで鈴虫を指揮している指揮者のようだったという。
さらに島根の山中でのこぎりを奏でたときは、山からサルが下りてきたそう。こうした経験から、人が自然と一体となり協奏するイメージが膨らんだ。
「山そのものを鳴らせたら面白そうだ」
妄想が止まらないサキタさん。すると、目の前の山に林立する森の木々がパイプオルガンのパイプに見えた。「ああ、森をパイプオルガンみたいに鳴らせたら……」という想いが湧き起こり、プロジェクトメンバーと今回の企画をスタートした。
「森のパイプオルガン」は、インターネット回線を使って遠くの国の森で音を鳴らすことが可能だ。
「例えば、河内長野の森で“ド”の鍵盤を押したら、ヨーロッパのエストニアの森が“ド”の音を鳴らす。カナダで押せば、オーストラリアの森が鳴りだす。音楽を通じて世界中の人が繋がる世界を目指しています」とサキタさん。
地球をまるごと楽器にした、リアルタイムでのリモート演奏の実現を目標にしている。
世界への第一歩を、河内長野から
サキタさんは大阪府堺市の出身。東京を舞台に音楽活動をしているが、8年前に自然豊かな河内長野市に移住した。年に一度、市内にあるラブリーホールで開催されている市民参加型の音楽公演『奥河内音絵巻』の芸術監督も務めている。
「ラブリーホールの方が、僕を面白がってくださって。おかげでアーティストはもちろん、地域の方々との交流も生まれました」
今回、河内長野市でこうした演奏会が開催されるのは、ごく自然なことだったのだ。
河内長野市での実験演奏会『森のパイプオルガン2022』は、地球をまるごと楽器にして世界中の人を音楽でひとつにつなぐ『地球オルガンプロジェクト』の始まりに過ぎない。2025年の大阪・関西万博で採択された「TEAM EXPO 2025/共創チャレンジ」で、サキタさんは世界中の森をインターネット回線でつなぎ、ハーモニーを奏でようとしている。
今回の大阪・河内長野市での演奏会は、万博へつながり、世界へつながっていく壮大なプロジェクトの記念すべき第一歩なのだ。
さてどんな音が、紅葉する観心寺の鎮守の森にこだまするのだろう。世界に先駆けた演奏会に、あなたも足を運んでみては。
(まいどなニュース特約・國松 珠実)