CMでカップヌードルをすすり続ける謎の美女こと大友花恋 映画「散歩時間」では明るいイメージ覆す役 23歳、充実の転換期を語る
2021年まで約8年間にわたってファッション誌「Seventeen」の専属モデルを務め、現在は映画やドラマ、バラエティ、CMなど幅広い分野で活躍する大友花恋さん。日清カップヌードルの「カプヌたべる当たる」キャンペーンCMで、こちらを凝視しながらひたすら麺をすすり続けている、あのキリッとした目が印象的な女性である。自分をとことん見つめ直したというコロナ禍や、従来の天真爛漫なイメージとは違う複雑な役に挑んだ映画「散歩時間~その日を待ちながら~」を経て、23歳の大友さんは今、充実の転換期を迎えようとしている。
「散歩時間」は、誰もが漠然とした不安に包まれていた2020年のある一夜を描いた群像劇。大友さんは、本音を話さない夫にもやもやとした思いを抱える新婚の女性ゆかりを演じた。
「ゆかりは笑顔のシーンでも、常に何かを考えていたり悩んだりしています。心の底から幸せな笑顔を浮かべられるのは、物語の中でも本当に少しだけ。私はこれまで明るく元気な役をいただくことが多かったので、この役は新鮮でしたし、ひとつの挑戦でもありました」
「でも、どちらかというと本来の自分に少し近いんです。私もどちらかというと受け身で、自分の意見を積極的に言うタイプではありません。『言いたいことがあるけれど言えない』『何かに対してもやもやしているけれど、不安なのか不満なのか自分でもわからない』というゆかりに、共感を覚えながら演じることができたと思います」
コロナ禍でできなかった披露宴の代わりに友人が開いてくれたパーティーで、ゆかりと夫との間にはついに決定的な亀裂が生まれてしまう。映画のクライマックスでは、2人がそれぞれの違いを認めて歩み寄ろうとする繊細なやりとりが描かれる。
「撮影よりも事前の話し合いの時間の方が長かった、とても思い入れのあるシーンです。夫の亮介を演じた前原滉さん、戸田彬弘監督と一緒に、『2人は今こういう思いだよね』『この台詞の意味はこうだよね』ということを何度も何度も話し合いました。その甲斐あって、『大事なことはマスクしないで言ってほしい』『許せないところもあるけれど、それ以外は全部好き』という素敵な言葉のひとつひとつが粒立って響く特別なシーンになったと思います」
台本にないアドリブが求められる現場だったことも、大友さんにとってはほとんど初めての経験で、大きな刺激になったという。
「撮影は基本的に台本に添いながら進みますが、戸田監督が『裏で自由に喋っててもいいよ』と言ってくださったので、台本にはないリアルなやりとりが積み重ねられていきました。自分の発したアドリブが、役の一部になっていくのは初めての感覚。自分が役をどれだけ理解して、キャラクターを深めていくことができるのか…。試される感じはありましたが、本当に楽しかったです。キャリア10年目にして、新しい世界に飛び込むことができたという手応えを感じています」
大友さんにとってのコロナ禍は、二十歳になり、一人前の俳優、モデルとしてまさにこれからというタイミングで始まった。「家から出られない時期は、私は何が好きで、何が向いているんだろうということをひたすら考えていました。私をここまで育ててくれた雑誌からの卒業や、当時はまだ慣れないバラエティ番組の出演なども重なり、私は一体どこに向かって行くんだろうって」と振り返る。
「考えているうちに気がついたのは、私はみんなでコミュニケーションを取り合いながら、何かひとつのものを作るのが好きなんだということ。それは映画や雑誌、バラエティ番組などのようにアウトプットの形が違っても、変わらない部分です。ジャンルを絞らず、柔軟に考えていけばいいんだと吹っ切れたら、できる仕事の幅も広がってきたような気がします。今はやりたいことがたくさんあって、とても充実しています」
コロナ禍を生きる人たちの背中を優しく押してくれるような「散歩時間」だが、大友さんは「いつかコロナ禍を乗り越えたときに、“あの頃”を思い出してもらえるような作品になればいいなと思っています」と話す。キャッチコピーは「いつかきっと“今”を懐かしく思えるときがくるから」だ。
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「散歩時間~その日を待ちながら~」は12月9日から新宿シネマカリテ、大阪のシネマート心斎橋などで公開。その後、全国で順次公開予定。
(まいどなニュース・黒川 裕生)