ひび割れたトマトや、ねじ曲がったキュウリやナス……。傷があったり、形や色が“普通と違う”野菜は、規格外野菜としてほとんどが処分されます。でも味は変わらないので「食べて食品ロスに貢献しよう」とする取り組みは、以前からありました。

ところが、京都にこれらの野菜を絵具に変えてしまった人がいます。立命館大学4回生で、合同会社ラピスプライベート代表の山内瑠華さんです。野菜で作った「おやさい絵具」が、昨年夏の完成以来、じわじわと注目を集めています。

■野菜で作った、体に優しい絵具

色鮮やかな、10色前後の絵具。

「おやさい絵具」はカラカラに乾燥させてパウダー状にした野菜の粉に、アラビアゴムという植物由来の樹液を混ぜ、絵具にして使います。優しい色合いに、野菜の粒や香りも感じられ、子どもが誤って口に入れても大丈夫です。

「自分たちが開発した絵の具で、子どもたちが楽しそうにお絵描きしている姿を見るのは、本当にうれしい」と語る山内さん。ラピスプライベートは、山内さんのような大学生や高校生、そして芸術大学の学生で構成されています。

ラピスプライベートでは規格外野菜のことを、親しみを込めて“へんてこりんお野菜”と呼びます。

食べるだけが野菜の価値ではない。新たな価値を生み出して、へんてこりんお野菜たちに活躍の場を！と、2021年夏に「おやさい絵具」を完成させた山内さん。今は、おやさい絵具の制作と販売、お絵かきなどのワークショップの開催をメインに、廃棄予定の農作物を使った商品開発や展示会、出張授業まで行うなど、精力的に活動しています。

なぜ、山内さんはこのような活動を始めたのでしょうか。

■規格外で廃棄される野菜　かれらが輝く場所を作りたい

山内さんは、世界を舞台にしたキャリアを夢に描きながら、国際関係学部で学んでいます。しかしコロナ禍をきっかけに、実家が農業を営んでいることから、地域の魅力や問題に目を向けるようになったそうです。

「市場で売ることができずに自宅で捨てられる、へんてこりんな野菜たちの色味に魅力を感じたんです」

もともと子ども好きで、この色味を使って子ども達と遊べたら楽しそうだという発想から、絵具開発のための実験を始めました。

最初はミキサーにかけてジュース状にしてみたり、手探りからのスタートはまさに試行錯誤の連続。「芸術大学の学生さんと出会うまでは、実験に失敗しては多くの野菜を捨ててしまいました」と振り返ります。

芸大生から真空乾燥技術を教わったことが転機に。設備を持つ業者の協力も得て、2021年夏に製品化に成功しました。

ほうれん草から始めたという絵具づくり。色鮮やかでも、水分量の多い野菜はくすんだ色になったり、糖分が多い野菜は真空乾燥の際に焦げ付きやすくて加工しづらかったり…。「でも根菜や葉野菜などは野菜の持つ色が残りやすいなど、いろんな発見がありました！」

■広がるおやさい絵具の輪

ラピスプライベートのメンバーで、京都芸術大学で日本画を学ぶ太田朋香さんは、自身の制作に「おやさい絵具」を使っています。

「私はアラビアゴムの代わりに、岩絵具で使う膠（にわか）で描いています」と太田さん。他の絵の具にはない香りや質感が、面白い使い心地なのだといいます。

「発色の淡さや質感の不ぞろいなところは、市販の絵具に比べて少し扱いづらいかも。でもおかげでじっくりと制作に取り組めるので、作品が完成した時の愛おしさが増している気がします」

廃棄野菜を絵具と結びつけたところに魅力を感じた、と語る太田さん。山内さんについては「突き進んで行動できる人。とても刺激を受けています」と話します。

そんな山内さんに魅力を感じた人がもう一人います。浅小井農園（滋賀県近江八幡市）の関澤征史郎さんです。

「テレビ番組で、たまたま山内さんが紹介されているのを見て、サステナブルな活動に感動しました。同じ大学のOBとしても、ぜひ応援したくて」と言います。

浅小井農園で生産するミディトマト「朝恋トマト」は、どうしても収穫量の5％ほどはひびが入って出荷できなくなるそう。日持ちしないため、食べられるのに廃棄することも多いのです。でも、乾燥させる絵具に使うなら日持ちの心配は要りません。

「お渡しできる量は少ないです。でも、本格的に収益を上げようと頑張る山内さんと協業できてうれしいですし、もっとこの活動を広く知ってほしいですね」

将来は、全国の画材屋さんにおやさい絵の具を卸したいと語る山内さんに、将来の夢を聞くと、「海外の子どもたちとおやさい絵の具で遊ぶこと」と教えてくれました。

ラピスプライベートのモットーは、「輝ける場所は、一つじゃない」。へんてこりんお野菜にも活躍の場をと始まった活動は、これからもどんどん広がりそうです。

（まいどなニュース特約・國松 珠実）