新しいおうちで殻に閉じこもった元保護犬、諦めなかった夫婦 いまではヘソ天を見せるほど心を開いた
日本最大の保護犬の譲渡活動を通じ、「殺処分ゼロ」の実現を目指しているピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)。2019年11月、広島県の愛護センターで一頭の元野犬を引き取ることになりました。
クリっとした上目遣いの大きな瞳と、垂れた片耳がチャームポイントのオーウェンという真っ黒のワンコです。13kgほどの中型犬で、保護した際は推定1歳半くらいでした。ヤンチャ盛りの年頃ですが、元野犬というバックボーンから人間や自動車に慣れておらず、怖くてガチガチに固まってしまうワンコでした。
■施設内イチの人気者になるほど、明るい性格のオーウェン
そんなオーウェンでしたが、スタッフとのコミュニケーションを経て、少しずつ心を開くようになると、途端に本来の明るい性格をのぞかせるようになりました。
施設内ではヘソ天して甘えてくるほどの陽気ぶりで、他のワンコとのコミュニケーションも良好。そのキュートなルックスと相まって、一気に施設内一番の人気者になりました。
同時に、譲渡センターでは里親希望者の申し出も多くもらいましたが、しかし、なかなか正式な譲渡に至ることはありませんでした。
■散歩すると、里親希望者が辞退……その理由とは?
オーウェンの里親を希望される方に、まず一緒に散歩をしてもらいますが、いつも行く公園の前に車が停まっていたり、子どもたちが遊んでいたり、工事の音や風がしたり、ご近所の小型犬が近寄ってきたりすると、オーウェンは怖くてパニックを起こし這うような姿勢でリードを引っ張って走り、譲渡センターに逃げ帰ろうとしてしまいます。
しかも、オーウェンの体重は13kg。その全体重を使ってリードを引っ張るため、里親希望者がコントロールをしようと思ってもうまくできないことのほうが多いのです。この「散歩」というハードルを前に、難しさを感じて、残念ながら辞退となってしまう方が続きました。
■信頼関係を築くために何度も通った里親希望の夫婦
こういったことを繰り返す一方、スタッフは本当の家族との縁に期待しつつ、オーウェンに寄り添い毎日散歩の練習を続けました。いつもと違う散歩道や公園の状況にも、常に冷静でいてくれるよう、根気強く散歩を続けました。当のオーウェンも一生懸命がんばり、少しずつ知らない散歩道でも尻尾が上がってくるようになりました。
ある日のこと、ついにオーウェンにとって運命の出会いが訪れました。里親希望の優しいご夫婦でした。
いつものように、里親希望のご夫婦にオーウェンと散歩に行ってもらいました。案の定慣れない人との散歩でオーウェンはガチッと固まり、譲渡センターに逃げ帰ろうとしました。しかし、ご夫婦はオーウェンの1回の拒否だけで諦めることはなく、何度も何度も譲渡センターに訪れ、少しずつその距離を縮めていきました。オーウェンも里親希望のご夫婦に少しずつ心を開くようになり、ついに2021年6月に正式に譲渡されることが決まりました。
■新しい里親さんの元でときに歯を剥くこともあった
しかし、新しい里親さんの自宅で生活するようになったオーウェンは当初、頑なに心を閉ざし続けます。里親さんを警戒し、1ヶ所に固まって動かず、ご飯も食べず、排泄もせず、そればかりか、トイレシートをビリビリにしてしまう始末。
里親さんが「散歩に行こう」とハーネスを用意すると、怖いことをされると思ったのかオーウェンは唸って歯を剥くこともありました。
困った里親さんは、譲渡センターに相談の連絡をしました。そこでスタッフが里親さんに伝えたのは、主に以下の2つでした。
・無理に仲良くしようとして声をかけたり触ろうとしないこと
・オーウェンの視界には入るけど、素通りすること
■あの日が嘘のように心を開いてくれた
里親さんがオーウェンにとって「何か怖いことをしようとする危険な人」ではなく、「怖いことをしない安全な人」になってもらうために、スタッフはいくつかのアドバイスをしました。
里親さんは焦らず、諦めず、オーウェンのペースに合わせながら、毎日スタッフからのアドバイスを実践しました。すると、やがてオーウェンは少しずつ里親さんを信頼するようになり、やがてあのヘソ天を見せるほどに心を許してくれました。
里親さんによれば、今ではかつてそんなことがあったことがまるで嘘かのように、オーウェンの名前を呼ぶとひょこっと顔を出して近寄ってきたり、お散歩に行きたくてとルンルンで玄関で待っていたり、尻尾を上げて楽しそうに散歩をするようになったとのこと。
これからも里親さんからの深い愛情を受けつつ、オーウェンの本来の明るく陽気でおとぼけな性格を生かし、さらに楽しい第二の犬生をおくってくれることを願うばかりです。
(まいどなニュース特約・松田 義人)