恐るべしW杯でのPK戦 「失敗すれば敗退」という状況下では…成功率激減→43%に 極度のプレッシャーが日本代表にも難敵に?

直径22センチのペナルティーマークにボールを置き、12ヤード(約10.97m)の距離を挟んでキッカーとゴールキーパーが対峙するサッカーのペナルティーキック(PK)。状況から圧倒的にキッカー有利に見えますが、「決めて当然。絶対に外せない」「止めればヒーロー」という両者の微妙な心理状態は数々の名勝負を生み、サッカーファンの脳裏に刻まれています。日本代表が挙手制をとったPKについてあらためて考えました。

PKの際、守備側のキーパーはキッカーと正対します。キッカーがボールに触れた時点では、少なくとも片方の足がゴールラインに触れているか、ゴールライン上またはゴールライン後方にある必要があるルールになっています。

プロサッカー選手の平均的なシュートスピードは時速100キロと言われています。ペナルティースポットから高速シュートが放たれた場合、0.5秒以内にゴールに到達します。軌道を完璧に読み、キッカーがボールを蹴った瞬間に正しい方向に跳ぶことで、初めてシュートを止めるチャンスが生まれる計算になります。時速200キロ以上を蹴るキッカーもおり、PKストップは予測の精度にかかっているといえます。

一方、名手と呼ばれたキッカーがゴールの枠を外してしまうことも珍しくなく、欧州では「PKはロシアンルーレット」とも呼ばれます。また「ポイントを先行されることからくる精神的なプレッシャーが、後に蹴るチームのパフォーマンスに明らかに影響を及ぼす」として先攻有利説もあり、キッカーの合理的な動作やキーパーの予測技術、プレッシャーのコントロールなどスポーツ科学、心理学などの面から欧州ではPK研究が進んでいます。

■W杯でのPK戦の成功率は

東京国際大学人間社会学部准教授の岩田真一さん(スポーツ科学)は、PK戦の結果について、W杯(1982年スペイン大会から2018年ロシア大会までの10大会30試合)、天皇杯(2005年から2019年までの15大会のラウンド16以降の25試合)、高校選手権(2007年から2019年までの13大会のラウンド16以降の38試合)を分析、比較しました。

「心理的プレッシャーがパフォーマンスに及ぼす影響 サッカーPK戦のキック成功率の分析を通して」(東京国際大学論叢人間科学・複合領域研究第6号 2021年年3月)によると、成功率はW杯70.3%、天皇杯82.2%、高校選手権73.9%でした。 

さらに「成功すれば勝利」「失敗すれば敗退」という重要な場面に着目すると、前者はW杯94.7%、天皇杯68.2%、高校選手権63.2%とW杯が最も高く、後者の場面では42.9%、80.0%、71.4%と、W杯の成功率が大きく落ちました。場面によるキック成功率の差について、天皇杯と高校選手権では有意差(誤差では済まされない意味のある差)は認められませんでしたが、W杯は有意差は認められ、「W杯においては成功すれば勝利、あるいは失敗すれば敗退という場面の違いによって心理的プレッシャーが及ぼすパフォーマンスへの影響の仕方が異なるのではないか」と説明しています。 

■もし責任感や義務感からだったら…

心理学者は挙手によるPK戦をどうみるのでしょうか。J1川崎フロンターレのサポーターである昭和女子大学教授の藤島喜嗣さん(社会心理学)に聞きました。

ークロアチア戦のPK戦では第1キッカーとして南野選手が蹴りました

「自信があったり蹴りたい欲求があったのか、それとも誰かが蹴らねばならぬという責任感や義務感だったのか、立候補の理由は何でしょうね。前者であれば良かったのかもしれませんが、後者の場合だと責任が重くのしかかったかもしれませんし、義務感から予防焦点的になり、ミスなく慎重に蹴ろうとしたのかもしれません。予防焦点とは、目標達成の際に「失敗しないようにする」ことに焦点を当てることを言います。逆に「成功を目指す」のが促進焦点で、どちらを目指すかには個人差も状況による差もあることが知られています」

ー「最初数秒間、誰も申し出がなかった」との南野選手の発言も報じられました

「やはり責任感や義務感があったのかなと思います。そして、PK戦が始まって比較的淡々と時間が掛からず進んだように見えました。早く終わらせたかったのかもしれません。いずれにせよ、PK戦に臨んだ選手、特に南野選手には気の毒でした。その後の三笘選手の様子を見るにつけても、尋常ではない責任を背負っていたのだと思います」

ーやはり事前にPK戦キッカーを決めておくことが必要でしょうか

「管理職の仕事のひとつは責任を負うことだと思います。立候補を募るのはPK戦の選手を決めるひとつの方法ですが、結果的に立候補した選手が自ら責任を負ってしまう決め方だったように思います」

ー今大会、日本代表には手の平返しともいうべきブーイングが飛びました

「コスタリカ戦もそうでしたが、敗戦の戦犯捜しが常軌を逸しているように思います。ある事象の原因探しをしたくなるのは必然である一方、たいていの場合原因は複数あってそれらが相互に影響し合っているので、一つには決められません。しかしそういう曖昧な状態にはなかなか耐えられないので一番目立つ、ミスをした選手か、そういう戦術をとった監督が責められることになるのでしょう。批判は必要ですが、言葉を選ばずに責めてもよいわけではないでしょう。「加害者の非人間化」と似たようなものを感じます」

(まいどなニュース・竹内 章)

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