実力派・岸井ゆきの、ミニトマトが「物凄く甘くてビックリ」 ボクサーの役作りで2か月間の糖質制限

目は口ほどに物を言う。岸井ゆきの(30)が、主演映画『ケイコ 目を澄ませて』(12月16日公開)でそれを体現した。聴覚障害のプロボクサー・小笠原恵子さんをモデルにしたキャラクター・ケイコの揺れ動く心を見事に表した岸井は、ボクシングの厳しく孤独なトレーニングと肉体作りを通して、身も心も小笠原さんにシンクロさせていった。拳を構えて対角線上のコーナーにいる相手を射るように見つめる眼差しは、あまりにも多弁だ。

■私=ケイコという感覚

取材の場で必ず聞かれる質問があるという。「セリフのない役を演じるのは大変ではなかったか?」というものだ。確かにケイコは手話言語を使用したとしても多くを語らない。その代わり、日記に文章を綴り、思いのたけをぶつけるかのようにリングで拳を繰り出していく。

岸井は「ワールドカップのサッカーもそうですが、スポーツには言葉を超えた何かがあって、確実に人の心を動かしています。ボクシングも全く同じなので、セリフがないことに対する不安はすぐに消えました。私自身も普段は無口。ケイコ同様に思ったことをノートに書いたりもしています。撮影中は演じるというよりも、私=ケイコという感覚がありました」と共感を超えるものを感じたという。

■フックが私の得意戦法

木村拓哉主演のボクシングドラマ『未来への10カウント』などで知られる松浦慎一郎氏による本格的トレーニングで、ケイコへの思いをさらに強くさせた。「構え方、筋トレ、縄跳び、シャドー、ミット打ちなど撮影開始3か月くらい前からボクサーとしての基礎トレーニングを始めました。いきなり殺陣だったらボクシングの魅力を理解しないまま演じていたと思います。練習を通してボクシングとは自分自身との戦いであると理解できたし、その気持ちを体に叩きこんで撮影に臨むことができたのが良かった」と作品の世界に没入した。

得意技は小柄な体を逆手に取った鋭いフックだ。「相手に近づいて潜ってからのフックが私の得意戦法。高速コンビネーションミットも大好きで、今では私の得意分野です。縄跳びもボクサーならではの飛び方があって最初は苦戦しましたが、3週間程練習を重ねたら突然できるように。あまりに嬉しすぎてゲラゲラ笑いながら床に崩れ落ちました」と照れ笑い。

■こだわりの16mm撮影

戦う肉体を作り上げる糖質制限は2か月にも及び、鶏肉を茹でたものやセロリ、キノコ類ばかりを食べていたという。「糖質制限中に低糖質のミニトマトを食べたときは物凄く甘く感じてビックリ。それだけ体が糖に飢えていたのだと思います。あの時のミニトマトのありがたさは…言葉では表せません」とストイックに追い込んだからこその感動も得た。

本作はデジタル撮影ではなく、独特な質感を出すためにあえて16mmフィルムで撮影された。映画好きの岸井にとってはたまらなく貴重な体験だった。「どんな画になるのか完成までわからないし、カメラのフィルムを交換するところも見ることができました。現場からはデジタル撮影とはまた違った集中力と熱量を感じて、私が理想とする映画作りが広がっていました」。

■小笠原恵子さんも絶賛

さらに三大映画祭の一つである、第72回ベルリン国際映画祭への出品という夢も叶った。『ケイコ 目を澄ませて』を語ると多弁になる。なぜなら岸井にとって「今の私の思いが全て詰まった作品であり、今の私のすべてが映されている」との実感があるからだ。

ケイコのモデルとなった小笠原さんは本作を「昔の自分を思い出して涙が出た。岸井さんとは一度も会ったことがなかったのに、行動や表情が私に似ていて凄い。初めて邦画を観て素晴らしいと感じた」と絶賛している。岸井の眼差しは本物だった。

(まいどなニュース特約・石井 隼人)

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