人間嫌いの野良育ち 彼の心を開いたのは若い雌猫だった 今では保護された子猫に寄り添うシェルターの親分

小柄でずんぐりむっくりなのに可愛い面立ちのあんこくん(推定10歳)は親分肌。大阪府北部を中心に活動する高槻ねこの会のシェルター「ねこのおうち」で過ごす猫たちから頼られる存在です。ケンカがあれば間に入り、保護されたばかりの子猫にはそっと寄り添う。人間のスタッフからの信頼も厚いんですよ。

今でこそ穏やかで慕われる猫になっていますが、保護当初のあんこくんは女の子ような小さな体からは想像がつかないほどの武闘派。そもそも、保護理由もケンカによる大怪我だったんです。

あれは忘れもしない2017年の夏。うだるような暑い日に、高槻ねこの会へ連絡が入ります。それは同じく高槻市で地域猫のお世話をしている、個人ボランティアのUさんからのもの。地域猫同士でケンカがあり、1匹が首を噛まれて大怪我とのこと。たとえこの怪我が癒えても地域猫としては厳しいだろうと…。しかも、血液検査の結果、猫エイズキャリアだったのです。

こうしてあんこくんは退院後に、高槻ねこの会のシェルター「ねこのおうち」へ迎えられることになりました。「ねこのおうち」では猫エイズキャリアの猫ばかりが、穏やかに暮らしています。ここならあんこくんも、ケンカをせずゆったり過ごしてもらえるはず。

ところが、あんこくんは人間が嫌い。「こんなとこに来たくなかった」と言わんばかりに、スタッフがそばを通るだけで「フー!シャー!」と威嚇。そして、冷蔵庫と壁の隅に隠れてしまうんです。シンクの下もあんこくんの隠れ家になり、スタッフは作業がしにくい。革手袋をはめて抱っこしようとしましたが、これも逆効果。余計に人間が嫌いになってしまいました。

首の傷に軟膏を塗らなくてはならないのに、あんこくんは近寄らせてもくれません。ご飯の時にこっそり塗るなんてことできるわけもなく、少しでも怖かったらガブリ。スタッフは噛みつかれると、噛まれた指や腕を喉に押し込むなどして、気長に「噛んじゃダメ」とあんこくんに伝えました。

そんな日々がしばらく続き、スタッフは気付いたんです。それは、若い雌猫のチャー子ちゃんがいると、あんこくんは全く人間を怖がらないということ。チャー子ちゃんが見ていると「フー!シャー」もしませんし、もちろんガブリと噛みつくこともありません。チャー子ちゃんの前では強がっていたいみたい。

それならばと、スタッフはチャー子ちゃんを可愛がります。チャー子ちゃんを撫でながら、あんこくんをチラリ。「一緒に撫で撫でする?」と。この作戦は大成功!あんこくんも一緒に撫でられるようになったのです。チャー子ちゃんにカッコ悪いとこは見せられませんもんね。それに、撫で撫では案外悪いものじゃありませんでした。気持ち良い!

こうして人間を徐々に信頼し始めたあんこくん。キチンと軟膏を塗ることも出来、傷はどんどん良くなっていきます。傷が治ると今度は、ご飯が美味しいことにも気付きました。特に、外はカリッと中はトローリとしたドライフードがお気に入り。心に余裕も出てきて、今のように皆から頼られる猫に成長しました。この間、わずか1年ほど。7年近く野良猫をしていたはずなのに、どんどんと人間にもシェルター暮らしにも慣れていきます。

だけど、時々寂しい気持ちになるみたい。夜になると屋上につながる階段で「アオーンアオーン」と鳴くんです。まるで誰かを呼んでいるかのよう。あんこくんはシェルターにやって来て約4年、新しい家族は見つからず仲間を見送るばかり。寂しいのでしょうか、それともお外の生活を懐かしんでいるのでしょうか。

でもね、朝になったらいつも通りのご機嫌な猫。誰かが困っていたら飛んで行き、楽しそうなことがあっても飛んで行く。常に口角が上がっているから、とても幸せそうなんです。このように、昼と夜では違う表情を見せることも。

そんなあんこくんの姿を、画家の笠村容子さんが描いてくれました。アンコ椿と一緒にね。あんこくんが持つ物悲しさと温かさが詰まった、とても素敵な作品です。2023年高槻ねこの会のカレンダー2月のページに掲載されています。

ねえ、あんこくん。あなたが生きてきた時間に、インスピレーションを刺激される人がいるんだよ。あなたの野良猫時代も、シェルター時代も全部包み込む作品を描いてくださったよ。

そんなことを知ってか知らずか、今日もまたあんこくんは日当たりの良い場所でのんびりお昼寝をしています。どんな夢を見ているのでしょうか。ステキな夢でありますように。

(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)

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