母猫の教えを守って…人間には「フー!シャー!」ばかり 「抱っこできない」子猫が、心を開き家族になるまで

抱っこできない猫は可愛くない。そう言って、せっかく迎えた猫を店や保護猫団体へ返す人は、悲しいことに少なくありません。神奈川県のラファくん(4歳)も実は抱っこできない猫。そもそも彼らの母猫が警戒心の強い野良猫なんです。その母猫に3カ月育ててもらいましたから、子猫たちは教えを守っているだけ。「フー!シャー!」も母猫が我が子を大切に思うからこそ教えたものでしょう。

それでも、お世話をする人間からすると可愛くありません。保護主さんは「ラファくんも返されてしまうかも…」と不安に思っていました。だから、譲渡希望で訪れたT家のお父さんとお母さんにも言ったんです。

「警戒心の強い子ですよ」

それを聞いたお母さんは「猫とはそういうもの」だと感じたのだそう。お母さんが子どもの頃から一緒に暮らしていた猫たちも、元は野良猫だったんです。全員時間がかかっても、最終的には「家族」になれました。ラファくんも時間をかければ…。お父さんも同じ考えです。家族の考えが一致したため、ラファくんを譲ってもらえるよう保護主さんにお願いしました。2018年8月のとても暑い日のこと、ラファくんが生後3カ月の時です。

2018年8月30日、保護主さんはT家にラファくんを届けてくれます。T家は3歳の娘も加わって大歓迎!しかし、予想以上に警戒心が強い。安全なはずのケージにいても、「フー!シャー!」。革手袋をはめて抱っこをする練習をしようとしましたが、ラファくんは革手袋を目にしただけで失禁してしまうほど…。これでは幼い娘と仲良くなるなんて、夢のまた夢です。

しかも、血液検査の結果、猫エイズのキャリアだと判明。これを聞いた隣に住むお祖父ちゃんは「返すんだろ?」と…。普通に考えれば、健康で抱っこができる猫の方が良いでしょう。でも、お父さんは言ったんです。

「穏やかに過ごせば、猫エイズは怖い病気じゃないんだ。それにまだラファは家に慣れていないだけ」

家に迎えてから2カ月後、お父さんとお母さんは一つの決断を下します。それはラファくんに一部屋与えること。去勢手術後のラファくんは臆病に拍車がかかり、人間の気配がするだけで狭い所に隠れてしまっていたのです。だったら、1匹でのびのび過ごせるようにしてあげたい。そこで落ち着いてもらおう。いずれ娘の部屋にしようと空けておいた洋間に、キャットタワーやトイレを置いてラファくんの部屋にしました。

そこに人間が入らせてもらうように。日中はお母さんが家事の合間に文庫本を持ち込んで、ラファくんのそばで過ごします。片脇には猫じゃらしを置いて。

最初ラファくんは、お母さんの姿が見えるとやっぱり「フー!シャー!」としました。「ボクのテリトリーなのに」って。けれど、気になるのは猫じゃらしです。楽しそうに見えたみたい。

「すこしだけ、あそんでみようかな」

ちょいちょいっと前脚でつつく。お母さんは積極的に遊びません。ラファくんが遊びたいようにさせておいたのです。またあくる日も、片脇に猫じゃらしを置いてお母さんは読書。ラファくんは、猫じゃらしをちょいちょい。その繰り返しです。

これが半年ほど続いたある日、いつものように「ちょいちょい」のあとの出来事。なんとラファくんが、お母さんの体にピタリとくっついたではありませんか。お母さんはビックリです。嬉しくて嬉しくて、今すぐ誰かに伝えたいけれど、ラファくんを驚かせてはいけません。

「有難うね」

軽く言いました。ラファくんはお母さんの顔を見上げて、すぐ顔をプイ。それでも体はくっつけたまま。もう、不器用なんだから。

この日から徐々に人間から撫でられることも平気になり、いつの間にか娘とは大の仲良しに。娘はラファくんと一緒に大きくなったためか、立場の弱い者への寄り添い方が上手なんです。怒っているように見えても、本当は怖いだけ。これを理解しているだけで、相手は心が和らぐ。それを教えてくれたのが、他ならないラファくんです。

2年前に亡くなってしまったお祖父ちゃんも、最後には「可愛い可愛い」って猫可愛がりしてくれるように。2022年10月には妹分の「とびちゃん」がT家に迎えられ、いっそう賑やかになりました。

お母さんは窓辺で日向ぼっこをするラファくんの姿を見て、思うことがあるんですって。

「猫のペースに合わせて良かった」

人間の都合で猫を縛らず、「家族」なのだから分かり合いたい。その願いは、T家に穏やかな陽射しをもたらしたようです。

(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)

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