太平洋戦争時、世界一の性能を誇った名機・二式飛行艇…現存する唯一の実機に老朽化の懸念 鹿児島の史料館で屋外展示
旧日本海軍で使用され、太平洋戦争当時の飛行艇では世界一の性能を誇った二式飛行艇(二式大艇)の実機が、鹿児島県にある海上自衛隊の鹿屋航空基地史料館に展示されている。川西航空機(現・新明和工業)で製造された167機のうち、現存する唯一の機体だ。近年は傷みが激しく、いずれは朽ち果ててしまうのではないかと危惧する投稿をTwitterで見かけた。
■東京からハワイまでノンストップで飛べる航続性能
二式飛行艇は1942年2月5日、海軍に正式採用された。「二式大型飛行艇」とも呼ばれ、一般に「二式大艇(だいてい/たいてい)」と略されるが、開発した川西航空機を前身とする新明和工業のWEBサイトには「二式飛行艇」と表記されている。
二式飛行艇(12型)は搭乗員10~13人、装備火器は20mm機関砲×5、7.7mm機銃×4、最高速度465km/h、航続距離7153 km、滞空時間24時間超という、当時の飛行艇としては世界最高峰の性能を有していた。参考までに、東京からハワイまでの直線距離が、約6600kmである。
長距離の偵察や輸送などに使われ飛行時間が長いため、搭乗員が休憩できるように寝台を備えていたほか、トイレ、電気冷蔵庫、エアコンの設備も備えていたという。
終戦までに167機が製造されたが、現存する機体は海上自衛隊の鹿屋航空史料館に展示されている1機のみである。
■メンテナンスされているが…現状では老朽化を心配する声も
2022年12月7日のTwitterに、二式飛行艇の傷みが激しいことを心配する投稿があった。投稿主は戦争遺跡に関する情報交換や調査研究および書籍の出版などを行う任意団体「日本戦跡協会」だ。
日本戦跡協会として最も憂慮していることは何なのか、メールで尋ねてみた。
「山口県の陸奥記念館に屋外展示されていた飛行艇PS-1のように解体されることです。機齢は二式飛行艇より遥かに若いのに、危険ということで海上自衛隊の申し入れによって解体されました。また、台風の影響を受けることが多い鹿屋市での屋外展示は、いつ破損・損壊してもおかしくありません」
では、二式飛行艇を展示している史料館側では、どのようにメンテナンスが行われているのだろうか。鹿屋航空基地史料館のご厚意で、2013年度以降に行われたメンテナンス作業をまとめていただいた。
▽2013年度……防水処理、塗装、漏水補修
▽2016年度……補修(左主翼内側・外側補助翼、左右主翼下面、燃料タンク固定具)、左右補助翼の固定
▽2018年度……艇体整備(防錆、修理、加工、洗浄、防水防蝕、塗装)、アンテナ支柱及び艇体後部支柱の整備
さらに、機体の洗浄は毎年行っているという。
日本戦跡協会では、現在の体制だと資金面やメンテナンス技術に不安があるとして、海上自衛隊に対し「メンテナンスにかかる資金を、クラウドファンディングで支援を募ったらどうか?」と提案したことがあるそうだ。具体的に、いくらあれば十分といえるのだろうか。
「大和ミュージアムが、戦艦大和の主砲を削り出した旋盤を保存するために集めた2億7千万円が、ひとつの目安になると思います。屋内展示のための建物費用に2億円、劣化防止のための費用に7千万円あれば、当面は維持できるのではないでしょうか」
しかし、史料館を運営する自衛隊に制度的な枠組みがないため、実現は困難だという。
史料館としても、メンテナンスは悩ましい問題だ。決して現状で良しとしているわけではないという。
「世界に1機しかない貴重な機体であることは、私共も承知しております。なるべく長い期間保存したいとの想いで、メンテナンスに取り組んでおります」(鹿屋航空基地史料館館長・野邊健一郎氏)
飛行艇の技術に関しては、欧米より優れていた証ともいえる二式飛行艇。現存する唯一の実機だけに、どうかいつまでも、その雄姿をとどめてほしい。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)