狭い部屋ばかりのワンルームマンション→狭さを逆手にとったデザインに 弱点を個性に変えたら大成功、いったい何を変えた?
これといった特徴もない、一部屋ごとの面積も狭いワンルームマンション。しかし、その狭さを逆手にとって、おしゃれな「カプセルホテル」のような見栄えにしたところ、近未来的な雰囲気も相まって、人気の物件に生まれ変わったといいます。建物の弱点や短所までも「個性」として表現してしまう「外観リノベーション」で実現した、衝撃のビフォーアフターをご紹介します。
リノベーションに取り組んだのは、東京と大阪に拠点を持つデザイン会社・インターデザイン。建物の外観のうち、特に建物の「顔」でもある「エントランス部分」を重点的に変える「外リノ」という取り組みを行っています。注目の建物について解説してもらいました。
■ピクトグラムも活用 建物のもつ「合理性」を表現
今回ご紹介するのは、埼玉県川口市にある、鉄筋コンクリート造の集合住宅です。JR線・西川口の駅からほど近い、利便性の良い住宅街の一角にあります。
西川口といえば最近特に新しいマンション建設が著しいエリアです。この集合住宅は外観こそタイルが張られていましたが、築26年が経過しており、続々とつくられていく新築の建物の中にひっそりと埋もれている感がありました。最新設備の整った新築物件に押されて存在感がなくなっていくのは、ほぼすべての賃貸マンションがさらされる自由競争の原則です。
この建物には大きな課題がひとつありました。それは部屋の狭さです。もともと社員寮として建築されており、それぞれの部屋はワンルームマンションのような間取りでしたが、15平方メートルしかありませんでした。最近の相場から見ると相当狭小な室内空間といえます。今回の外観リニューアルでは、建物のイメージを一新し、一般の賃貸物件として市場に送り出すことが求められていました。デザインを通じて建物に競争力を付けていかねばなりません。
この建物のウィークポイントである、部屋が狭いということ。しかし「狭小ユニット」ということは、見方を変えれば、身の回りすべてに手が届く合理的な空間であるともいえます。そんな狭小ユニットが集まる建物のファサードは、集合住宅というよりも、むしろおしゃれなカプセルホテルのような見栄えのほうがふさわしいと考えました。清潔感あるホワイトとキャッチーなインディゴブルーでペイントし、メールコーナーやエレベーターホールなどは、外部からも見晴らしの効くデザインとしました。
また、建物にはオートロックが完備されていて、リニューアルにあわせて宅配ロッカーも新設される予定でした。そこで、その建物の持つ「合理性」を、ピクトグラムで視覚化して訴えるデザインにしてみました。旅行雑誌などをめくると、ホテルや旅館の機能を絵文字でわかりやすく表示していることがあります。その見慣れた絵文字を建物に落とし込み、楽しく印象深く表現してみました。
この建物は、リニューアル後まもなく、ある学校に学生寮として一括借り上げをしていただけることになりましたが、目新しいホテルチックな見栄えが新しいニーズを発掘したのかもしれません。デザインによって安定経営が実現できた事例といえます。
■ピクトグラムで建物の魅力をアピール エントランスの空間も演出
ピクトグラムで建物の印象が変わった事例をもうひとつご紹介します。東京都練馬区にある築34年・鉄筋コンクリート造の建物です。西武池袋線・桜台の駅から少し歩いた住宅街に建つ賃貸住宅ですが、入居者を惹きつける印象に乏しいとオーナーが悩まれていました。
一見すると明るい総タイル張りで、きれいに管理されているように見える建物です。しかしエントランスは狭くて薄暗い印象です。ホールというよりも単に通路のような場所で、とても「気持ち良いお出迎えの空間」と呼ぶことはできませんでした。この建物が建てられた当時は、こういった特段に演出のない空間でも、入居者には困りませんでした。実際、当時の建物のほとんどは、シンプルなつくりになっています。
オーナーに建物の魅力を聞いてみると、「最寄り駅が2つあること」「都市ガス」「宅配ロッカー」「フローリング」「エアコンとインターネットが完備」「贅沢なバルコニー」など、いろいろとありました。これだけそろえば、先ほどの建物と同じようにピクトグラムを使って機能を最大限アピールできそうです。
エントランスの通路も、メールコーナーや階段への誘導に同じくピクトグラムを使いました。また建物の周りが、夜間少し暗かったため、遠くからも認識しやすい「内照式の館銘サイン」を取り入れ、ファサードのインパクトを強くすることに成功しました。こちらの建物も、竣工後の入居状況は極めて安定的していると聞いています。
以上のような事例で見てきたように、一見特色や長所が少ないように感じられる建物も、考え方やデザイン次第で魅力を高めていくことができます。外観のリノベーションが、建物の可能性を広げるだけでなく、街並みの活性化につながれば良いなと考えています。