中尾明慶、俳優はM気質!?「追い込まれれば追い込まれるほどいい表情が出る」
子役として芸能界デビューしてから20年以上のキャリアを積んでいる俳優の中尾明慶。話題作に数多く出演し、映像界にはなくてはならない存在の中尾だが、最新作映画『そして僕は途方に暮れる』では、三浦大輔監督の何十テイクも重ねる粘りの演出に「もう!」と心の中で思いながらも、絶対妥協しない姿勢が「大好きなんですよ」と微笑む。過酷な撮影エピソードには事欠かない三浦監督の現場でも「よっしゃー」という気持ちになってしまうという中尾のマインドに迫る。
■余裕で20テイクを超える現場
本作は、三浦演出で2018年にシアターコクーンで上演された舞台の映画化。映画も三浦監督がメガホンをとり、主演の藤ヶ谷太輔をはじめ、前田敦子、中尾は舞台から続投した。問題が起きるとすぐに逃げ出してしまう藤ヶ谷演じるダメ男・菅原裕一が、さまざまな人に出会うことで少しずつ前に進む姿を描く。中尾は菅原の友人・今井伸二に扮する。
「舞台のときも三浦さんは延々といろいろな要求をしてくるんです。本番が始まってからも毎日ダメ出しで、昼夜の2回公演のときも、昼公演が終わってご飯食べようとしていると『ちょっといいかな』って楽屋にやってきて、あーだこーだ言ってくるんです(笑)」。
正直「あーもう!」と思うこともあったという中尾。そんな三浦監督の熱意は映画でも変わらなかった。
「パソコンをオフィスで打つシーンで20テイクぐらいやりました。正直、何が違うんだと思うぐらい(笑)。でもその熱意がすごいんですよ。決して役者をいじめてやろうみたいなことではなく、純粋に自分が納得するまでやる。僕らは舞台からご一緒しているのである程度免疫はついていたのですが、映画から参加した人は驚いたと思います」。
実際、完成披露試写会の席で、共演者の豊川悦司や原田美枝子ら大ベテランも、三浦監督のこだわりには苦笑いを浮かべていた。主演の藤ヶ谷も「撮影での楽しい思い出は一つもない」と断言していたぐらいだ。
■追い込まれることが楽しい?俳優という仕事
それでも、愚痴をこぼしつつ中尾は、三浦監督の現場が「僕は大好きですよ」と笑顔を見せる。
「まあ、正直そこまで作品に向き合えることがすごいなと。しかも僕らだけではなく、どんな大先輩の俳優さんにもしっかりダメ出しするんです。その熱量は微笑ましいですし、作品を良くしたいという思いは尊い。簡単にOKが出る方が僕ら役者にとっては怖い部分もあるんです。三浦監督がOKと言ったら、本当に良かったんだなという安心感があります」。
中尾も藤ヶ谷も豊川も、三浦監督の過酷な現場に口をとがらせ文句を言いつつも、その表情はどこか楽しそうだ。
「なんか団結力が生まれるのかもしれませんね。北海道でめちゃくちゃ寒い夜中に2時間もかけてワンカットも撮れていないこともありました。藤ヶ谷くんに『今日やばくない?』って言った『毎日こんなだよ』って……。でもだからこそ俳優陣の団結力が強まっていくんですよ」。
さらに三浦監督の憎めない人柄にも魅了されたという。
「本当に『何だよ!三浦大輔』なんて思っていると、ひょっこり監督が現れて『何回もやっちゃってごめんね』と謝られるんです(笑)。そう言われちゃうと、監督も純粋に作品が良いものになればという気持ちでやっているのは分かるので、頑張ろうって……ってなるんですよね」。
話を聞いていると、俳優という仕事はM気質な人が多いのか……と感じてしまう。
「まあ、それはあるのかもしれませんね。特にドラマなどは時間がなく、あまりワンシーンに時間を掛けることができない。だからこそ、こうした映画の現場というのは貴重だし、俳優にとってはありがたい。もちろん僕もそうなのですが、どうしても人間って楽な方に行きたくなるじゃないですか。そんななかで、楽な方をシャットアウトされて追い込まれると、嫌が応でも大変な方に進むしかない。でもそういうときの表情には人間の内面から出る深みが現れているような気がするんです」。
神経を研ぎ澄まして向き合ったからこそ得られる、自分でも予期せぬような表現。「なんかよく分からないところにずっと力を入れているような感覚」と三浦監督の現場を振り返った中尾。「やっぱりすごくいいし、大好きなんです」と満面の笑顔を浮かべていた。
映画『そして僕は途方に暮れる』は1月13日より全国公開
(まいどなニュース特約・磯部 正和)