保護犬から災害救助犬へ、広島土砂災害では生存者を発見 多くの被災地に出動する頼もしい存在

保護犬の譲渡活動を通じ、「殺処分ゼロ」の実現を目指すピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)。同団体を運営するピースウィンズ・ジャパン(以下、ピースウィンズ)では災害救助犬育成の活動も行っており、数頭のワンコが実際に数多くの被災地で人々を救うようになりました。

そのうちの一頭が災害救助犬・ハルク。2011年6月生まれのオスのゴールデンレトリバーで、同年にピースウィンズが導入し、ドッグトレーナーの指導のもと訓練を重ねました。2014年に大阪・兵庫で開催された「第25回OPDES国際救助犬試験」瓦礫捜索部門A段階に挑み、同部門出場の6頭中、1位の成績で合格しました。以来、ハルクは今日に至るまで数多くの被災地で活躍を続けています。

■ハルクはもともとは家庭犬的な性格のワンコだった

ピースウィンズで訓練を始めた当初のハルクは、その場・人の空気を読みすぎてしまい、落ち込んでしまうなど、災害救助犬としての血統を持ちながらも家庭犬的な性格が強いワンコでした。ピースウィンズでドッグトレーナーとしてハルクに向き合った藤崎啓さんはこう語ります。

「ハルクはとても優しく温厚な性格のため、訓練ではハルクが意欲を持って自発的に動き、楽しむことを大切にし訓練してきました」

ここで藤崎さんが言う「楽しむ」ということは、災害救助犬を目指すワンコにとって実はとても大切なこと。アグレッシブに動かなければいけない被災地をイメージし、大胆な訓練に挑戦させなければいけません。しかし、その訓練自体がハルクにとって、嫌な思い出になったり、トラウマになったりすれば本末転倒です。このため、藤崎さんは常にそうならないよう気を配りながら、訓練を続けてきたと言います。

■被災地で、ハンドラーの呼びかけに「ワンワンワン」と応える

こういった訓練を経て、前述の通りハルクは2014年に試験に合格。同年の広島土砂災害の現場に初出動し、相棒の元保護犬の災害救助犬、夢之丞と一緒に2名の生存者を見つけました。

以来、数多くの被災地へ出向き災害救助犬としての活動を行い、今日に至りますが、このうち、2017年7月に起きた九州北部や秋田などで記録的な大雨による浸水や土砂崩れが起きた被災地に出動した際のエピソードをご紹介します。

当時、九州では筑後川の支流が判断し、各地で土砂崩れも起きていました。この地にピースウィンズチームが出動することになりましたが、その際、ハルクも夢之丞と一緒に入りました。

被災地となった福岡県・杷木松末地区にチームが入ると、まだ行方不明者がいる集落があり、増水した川に阻まれて消防も捜索に入れない状態でした。そして、天候が回復してすぐにピースウィンズチームはハルクを連れて、ヘリコプターで被害が大きい集落に降り立ちました。

現場は民家や田畑が濁流にえぐられており、集落全体が川底のような状態。折り重なったスギの大木の間からは、屋根のトタンや材木が見えます。

さっそくハルクと一緒にその現場に行方不明者の捜索に入っていきました。ハルクは、流木の隙間をスルスルと入っていき、間もなくすると、「クンクン」と鼻を鳴らします。災害救助犬のハンドラーが「ハルク、誰かいるの?」と声をかけると、「ワンワンワン」と吠えます。

これはハルクが行方不明者を見つけたことをハンドラーに伝えるサインです。確認のため、別の方向からも2度、3度とハルクを入れてみると、やはり同じ場所で反応を示します。

これは生存者がいるかもしれない……しかし、流木の山は重機を使わなければビクともしない状況。のちに到着した自衛隊の部隊に、捜査結果を報告し後を託しました。そして、その翌週には次なる被災地・秋田へとヘリコプターで向かいました。

■消防の方から褒められるとご満悦

この福岡での出動以降、今日に至るまでも数多くの被災地に出動し続けているハルク。消防の方々と連携しながらの救助訓練も常時行い続けています。ハンドラーと一緒に道なき道を駆け、要救助者を探し出すハルク。消防の方から「犬ってすごいんですね」と言ってもらうと、ハルクもニコニコしご満悦になると言います。

このハルクのように、ピースウィンズでは今日もワンコが持つ能力を活かし、被災者の支援活動を続けています。

(まいどなニュース特約・松田 義人)

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