新型コロナ、なぜ分類変更が必要なのか? 「2類」ではない現状、豊田真由子が解説
新型コロナウイルス感染症の感染症法上の分類変更について、今後本格的に政府で検討が行われ、春頃にも変更が実施される方向と言われます。
もちろん、現在は、第8波の真最中で、新規感染者や亡くなる方も多くいらっしゃる状況ですので、変更を行う時期ではないと思いますが、今後どうしていくか、ということは考えておく必要があります。
新型コロナの分類変更については、以前から広く議論が行われていますが、現状のコロナの分類についてや、分類変更後の国民への影響について、不正確な報道や発信等がかなり見受けられるところ、ここで改めて、「何がどうなるのか」を、きちんと整理してみたいと思います。
もちろん、一般の方が、法律の条文や制度の詳細まで細かくご存知である必要はないと思うのですが、「そもそもどういう仕組みになっていて、どういった理由で変更が必要で、変更によって、具体的に国民にどういう影響があるのか。」といったようなことを、国民の皆様が「正しく」知らされなければ、その政策の賛否を判断することは、困難になってしまい(あるいは賛否の判断が歪められてしまい)ますし、実際に変更された場合に、混乱も生じてしまうと思います。
分類変更に関し、よく言われる「不正確な内容」については、本文で詳しくご説明いたしますが、例えば「医療費が、全額公費負担から自己負担になる」と言われますが、現在でも、まずは公的医療保険が適用され(例:7割)、残りの自己負担部分(例:3割)を公費で負担しているという状況ですので、分類を変更したからといって、新型コロナに関する医療費全額が自己負担となってしまうわけではありません。
また、「5類にすれば、医療ひっ迫が改善する」と言われますが、現在も法律上、すでに指定医療機関以外でも、新型コロナ患者の受け入れができるという扱いになっており、むしろ受け入れできない理由は、「日本の病院の規模が小さい、人員や設備が足りない」といったことが多いことにかんがみれば、分類を変更したからといって、キャパシティが増えるわけではなく、したがって、医療の構造的な問題に対応しなければ、残念ながら、医療ひっ迫は根本的には解決しません。(院内感染対策の緩和の話は、また別途あります。)
■なぜ、分類変更が必要か?
感染症法上の分類というのは、その感染症の「感染力」や、罹患した場合の「重篤性」、その感染症に対する国民の免疫の獲得の程度などを、総合的に評価して決められ、そして、それぞれのカテゴリーによって、国や自治体が国民に対して実施できる感染対策が、細かく定められています。
これはひとつには、「公権力による国民の自由や人権の制限は、必要最小限度であるべき」という考えに基づき、その感染症の危険度や国民に与える影響の大きさによって、実施できる対策の内容を分けているからです。
したがって、その感染症の「感染力」や「重篤性」が変化してきた、あるいは、当初想定されていたほど高くなかったといった場合や、感染やワクチン接種によって国民が免疫を獲得してきたと考えられるような場合には、分類を変更することが妥当である、ということになります。
むしろ、「感染症の危険度が当初より低くなってきていると考えられる場合に、対策だけは、国民の人権・自由を厳しく制限できる強権的なもののままにしておく」ということの方が、道理にかなっていない、ということになります。
例えば、2003年のSARSは、「新感染症」→「指定感染症」→「1類」→「2類」と、2009年の新型インフルエンザH1N1は、「新型インフルエンザ等感染症」→「5類」と、分類が変更されてきています。
もちろん、「感染症の危険度が低くなっているか」、あるいは、「低くなっているとして、それはどれくらいか」といった判断は、単純に一概に決まるものではなく、対策の変更に伴う国民生活への影響等も考慮すれば、変更のタイミングについては、議論が分かれる、ということになります。
■感染症法上の分類
現行の感染症法上の分類を見てみます。
1類感染症
感染力と罹患した場合の重篤性等の観点からの危険性が極めて高く、治療法も確立していない感染症。エボラ出血熱やペスト等。
2類感染症
1類ほどではないものの、感染力と重篤性等の観点からの危険性が高い感染症。SARS、MERS、新型インフルエンザ(H5N1、H7N9)等。
3類感染症
感染力や重篤性等の観点からの危険性は高くないが、飲食物などを介して、集団発生を起こし得る感染症。コレラ、赤痢、大腸菌O157、腸チフス等。
4類感染症
感染力や重篤性等の観点からの危険性は高くないが、動物や飲食物等を介して感染する感染症。狂犬病、サル痘、デング熱、日本脳炎、マラリア等。
5類感染症
感染力や重篤性の観点からの危険性は高くないが、国が感染症発生動向調査を行い、必要な情報を公開していくことによって、発生・まん延を防止すべき感染症。通常の季節性インフルエンザ、水ぼうそう、手足口病、風疹、麻疹、おたふく風邪等。
新型インフルエンザ等感染症
新たに人から人に伝染する能力を有することとなったウイルスによる、インフルエンザやコロナ感染症で、一般に国民が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるもの。
指定感染症
現時点では法的な対応は必要ないと判断される感染症が、集団発生し、緊急に強権的な措置を講じなければならなくなった場合等に指定される感染症で、感染力が強く、まん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあるもの。
それぞれに適用できる対策については、1類から3類は、入院勧告(3類は除く)や就業制限、「新型インフルエンザ等感染症」は、それらに加えて外出自粛要請など、行政による強権的な措置の対象となり、4類は、調査の実施や対物措置という比較的軽易な権限行使の対象であり、5類については発生動向調査などで、強権的な措置の対象とはなりません。
■現状、新型コロナは「2類」ではない
新型コロナの分類変更について、よく「2類から5類へ」という言い方をされますが、現在の新型コロナの感染症法上の分類は、「新型インフルエンザ等感染症」であって、「2類」ではありません。
新型コロナは、新たな感染症の取扱いとして通常そうであるように、発生当初はウイルスの性質等がよく分からなかったこともあり、「指定感染症」とされていましたが、2021年の感染症法改正で「新型インフルエンザ等感染症」に変更されています。
そもそも「新型インフルエンザ等感染症」というのは、新型インフルエンザのようなパンデミックを引き起こす感染症に対しては、「2類」という枠組みでは十分な対策が講じられないという問題があったため、2008年の改正で、感染症法上新たに設けられた類型です。
さらに、2009年の新型インフルエンザパンデミック(H1N1)に際しての混乱を踏まえ、各種対策の法的根拠を明確化し、実効性を確保することを目指し、2012年「新型インフルエンザ等対策特別措置法」が新たに制定され、緊急事態宣言等の措置を取ることが可能になりました。「2類」とは、実施できる対策にも大きな違いがありますので、「2類相当」という言い方も、正しくありません。
おそらく、メディアの方々は、報道に際しては、できるだけ短く単純で分かりやすく、というご判断があるのだと思いますが、法律的に趣旨や内容が違うものはやはり違いますし、上記のような経緯もあることなので、国民の権利や自由に大きく関わる問題として、ここは少し丁寧な説明が求められるところだったのではないかと思います。
次回以降、分類変更の方向性、適用される対策の変化や、公費負担の在り方など、国民生活への具体的な影響について考えたいと思います。
◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。