2年連続表彰の敏腕カメラマン、取材姿勢のお手本はゴン中山 「ダメでも走り続け、奇跡を呼ぶことがある」
関西を中心とする報道各社のカメラマンが捉えた作品を集めた「第65回新聞・通信・テレビ・ニュース映画報道展」が13日から大阪市中央区の「富士フイルムフォトサロン大阪」で開かれる。3年ぶりの開催で入場無料、19日まで。現場に足を運んで時流を切り取った作品の数々。開催を前に2年連続で受賞した敏腕カメラマンに舞台裏を聞いた。
■75歳サイクリストが琵琶湖1周にかける思いに密着
今回、登場してもらったのは毎日放送の樋江井亮カメラマン(32)。昨年5月に撮影した「愛する妻へ~75歳ビワイチへの挑戦」がテレビ・ニュース映画のスポーツ部門で銀賞に輝いた。
この「愛する妻へ」は、75歳になるサイクリスト、北光次さんの琵琶湖1周にかけた思いを描いたラブストーリーだ。若き日の北さんは1歳のとき、小児まひにかかり、足が不自由な妻・早苗さんに対し「私が杖代わりになる」とプロポーズ。その言葉を守るため、自身を鍛錬しようと69歳から「生涯100ビワイチ」の目標を立て、実行してきた。
撮影当日は80回目のビワイチという節目。サイクリングを少しかじっていた樋江井さんも朝4時に起床し、北さんの自宅のある東近江市から反時計回りに総距離150キロを同行し、12時間掛けてゴールした。
「東近江市駐在の同僚カメラマンに、この情報をもらったときから、これは密着して話を聞いてみようと思ったんです。実際、取材を重ね、同行してみると、奥さんへの思いは本物と感じましたし、屈託ない笑顔も良かった。撮影の最後は奥さんをはじめ、大勢に出迎えられるのですが、仕込みでもなくて、私自身も感動しました」
自分にしか見せない、一瞬の表情や味わいのあるコメントを引き出せたときが、この仕事の醍醐味のひとつだという。その意味で達成感のあった撮影だったようだ。
■「カメラは見た!事件直前の当事者たち最後の宴」
もっとも、樋江井さんにとって実は2年連続での受賞でもあった。前年はテレビ・ニュース映画の部で「カメラは見た!事件直前の当事者たち最後の宴」がニュース部門の金賞。また「テニスの強豪校来春閉校へ…たった1人で挑む最後の大会」がスポーツ部門賞の銀賞とダブルで選ばれた。
「たまたまですが、いつもアンテナは張っていますし、その場にいること、いようとすることが大事だと思っています」
金賞に輝いた「最後の宴」の映像は、コロナ禍による4度目の緊急事態宣言が発出された2021年8月3日に夜の道頓堀を取材し、酒に酔った外国人の狂乱した様子を捉えたもの。しかし、これが後にスクープとなった。殺人事件の加害者と被害者、つまり、犯行に及ぶ1時間前の様子をありありと記録していたからだ。
偶然か、いや、そうではないだろう。一度は現場を離れたものの、救急車のサイレンで事件現場に引き返したことなど、ふだんから感性のアンテナを張り、カメラマンとしての野生の勘のようなモノを研ぎ澄ましていたからこそだろう。
一方で人情家。奈良・平城高の男子テニス部員を追った「たった1人で挑む最後の大会」では母校の伝統を背負い、本気で戦う真摯な若者の姿と青春の光を鮮やかに描いてもいる。
■世界と戦える、同郷の「ゴン中山さんに夢をもらった」
そんな樋江井さんは静岡県磐田市出身。藤枝東、関学大でもサッカー部に所属した。
「ゴン中山さんには夢をもらいました。こんな小さな街からでも世界と戦えるんだって。それとここ一番の勝負強さにはいつも驚かされました。ダメでも走り続け、それが奇跡を呼ぶことがあるんですよね」。この姿勢こそが取材者としてゴール前の嗅覚につながっているのかもしれない。
13日から始まる「報道展」は74社(会員1060人)が加盟する関西写真協会が主催し、今回が65回目。会場では新聞・通信部門で協会賞受賞作「安倍元首相銃撃犯確保」(奈良新聞)の写真など約100点と、テレビ・ニュース映画部門の協会賞に選ばれた「注文に時間がかかるカフェ」(関西テレビ)など11本の受賞作が展示される。
「それぞれのカメラマンが作品ひとつひとつに伝えたい思いを込めているので、ぜひ足を運んで味わってもらえれば。画が語りかけてくるのではないでしょうか」
もちろん、樋江井さんも次なるものへ狙いを定めている。
「目まぐるしく変わる世の中の動きの中で見落とされそうなことを捉えて記録に残したい。日々のニュースもしっかり伝えながら人々の心に届くドキュメンタリーもつくっていきたい。それが映画化されれば、最高です」
ともすれば、コタツ記事が跋扈する時代。時間を掛けて企画を練り、人々の営みを切り取る作業や、経験に裏打ちされた個性的な視点でつくられた作品は貴重ではないだろうか。
(まいどなニュース特約・山本 智行)