阪神・淡路大震災で被災の芸人「自分が震災を語っていいのか…」ためらいと、亡き幼なじみへの思い
「はいっ、こんにちは!高校野球大好き芸人です」。テレビやユーチューブで自己紹介するのは、兵庫・淡路島出身のかみじょうたけしさん(45)。表舞台ではいつも明るく、はきはきとしゃべるイメージが強い。そんなかみじょうさんが向き合い続けている経験がある。6434人が亡くなった1995年1月17日の阪神・淡路大震災だ。当時、高校2年生。自宅は全壊。幼なじみの兄妹も亡くなった。あれから28年。「たくさんの人が亡くなっているのに、自分が震災を語っていいのか…」。悩みながら、言葉を選びながら、振り返った。
淡路島の西海岸に位置する津名郡一宮町。合併で現在は淡路市となった住宅街で、かみじょうさんは育った。2階建ての長屋で、両親と妹、祖母の5人暮らし。突き上げるような揺れと「ゴオオオ」というごう音で目を覚ました。夢なのか現実なのか、分からない。布団の横にあったたんすが背中に倒れてきた衝撃で地震だと察する。揺れが収まった。隣で寝ていた妹の無事を確認して、両親とともに階段を下りようとした。でも階段はない。倒れた電柱が家の中まで突っ込み、1階がひしゃげていた。
■いつも笑顔の近所のおねえさんが泣き叫んでいた
外に出て、祖母がいないことに気付いた。町会議員だった父から「俺は役場に行かなあかんから、お前がおばあちゃんを助けろ」と言われ、再び家の中へ。3軒が連なる長屋はどこまでが自分の家の敷地か分からなかったが、仏壇の下の隙間にいた祖母を担いで助け出した。
近所のあちこちから「助けてー」という声が聞こえてきた。駆け付けると、近くの餅店のおばさんが首だけ出て、体は全てがれきに埋まっていた。みんなでがれきを掘り返して救出した。「当時は、誰がどこに寝ていたか知っている関係だったんです。自然とみんなで点呼し合って、いない人の家は『ここ掘ったらおるんちゃうか』って探し回りました」
覚えているのは、2軒隣の喫茶店に住む6歳年上のおねえさんが泣き叫んでいたことだ。いつも優しく、笑顔で声を掛けてくれる人が「うわーーーーーー」と取り乱している-。見たことのない様子は、子どもながらに怖かった。
■「ご家族は何年たっても突き付けられる」
「まだ中に人がおる」。そんな声が聞こえて向かったのは、30メートルほど離れた幼なじみの家。当時15歳だった「ふみくん」と、2歳年下の妹の「さゆりちゃん」がいた。かみじょうさんとふみくんは、保育園から一緒。かみじょうが中学3年で、テニス部のキャプテンをしていた時には、ふみくんは同じ部活の後輩だった。高校になってからは「僕もたけちゃんと同じ高校に行きたい」と話していた。
救急隊も呼べず、大人たちが家に探しに入って、見つかった2人の体は冷たかった。落ちていた毛布でくるんでみんなでさすり、近所のおじさんが軽トラックで乗せて病院に向かった。しかし、しばらくして親から亡くなったことを聞かされた。
「信じられなかったですね。前日も普通に会って話していたので。(2人のご両親は)つらかったと思う。つらいと思う。つらいと思いますよ…」。そう言葉を詰まらせた。
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取材は昨年11月半ばに申し込んだ。マネージャーからはこう言われた。「かみじょうは、(ふみくんとさゆりちゃんの)ご家族がどう思われるのか心配していて、取材を受けるかどうか悩んでおります」
実は震災に関するインタビューを7年前、一度だけ受けていた。その時、震災を語る自分が嫌な人間に見えたという。そして、ふみくんとさゆりちゃんのお母さん、お父さんの顔が浮かんできた。ご家族が読んだら、どう思うのだろう-。自身が親になったのも大きい。「子どもが15歳と13歳のまま止まっているんですよ。何年たっても突きつけられるんです…」。取材交渉を重ね、話を聞けたのは昨年12月中旬だった。
話すことにためらいがある一方で、あの1日がかみじょうの生きる指針になっているのも事実だ。「命があるのが当たり前じゃないっていうことを、すごく思いました。大変なことすら経験できなかった命がある訳やから。しんどいとか、不平不満とか言ったらあかんなって。逃げたいと思う時には必ず、彼らのことを思い出しますね」
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忘れられない出来事がある。震災から5年がたった時、ふみくんの同級生だったかみじょうさんの妹が、成人式に行き、晴れ着姿で泣きながら帰ってきた。聞けば、同級生と約束していないにも関わらず、式後に多くの友達がふみくんの両親にあいさつに訪れていたという。「妹が泣きながらその話をしてくれたんです。普段は震災のことってしゃべりませんけど。みんな、思っているんやなって思いましたね」
毎年1月17日、仕事がない日には神戸市内にある「東遊園地」に足を運び、黙とうする。亡くなった人の銘板があり、竹灯籠が並べて犠牲になった人たちの冥福を祈る場所。何年たっても変わらない重い空気感。そこに身を置くことが大事な気がしている。
(まいどなニュース・山脇 未菜美)