体中を真菌に侵され、グレムリンの「ギズモ」のみたいな姿だった子猫 「いつか幸せだと思ってもらいたい」懸命の治療の末に…

「このような状態の猫、見たことがない…」

和歌山城下町にゃんこの会代表・奥康子さんも驚く子猫が保護されたのは、2022年8月15日のこと。奥さんが驚くのも無理はありません。体中が真菌に侵され、ほとんど毛が生えていなかったからです。

奥さんはこの子猫の写真をTwitterに投稿しました。すると、リプライに「ギズモ」という単語がチラホラ。映画『グレムリン』に登場するキャラクターによく似ているからです。このリプライの多さに、奥さんは子猫の名前を決めます。「ギズモ」と。

■小さな体に2倍量の薬を

動物愛護センターに収容されていたこの子猫は、推定生後1カ月。体重はわずか400gしかありません。かなり衰弱しており、猫風邪もひいています。ここまで真菌に侵されるには密閉された空間にいたのではないかと、奥さんは推察します。

夏場に閉塞された場所での暮らしを続けていれば、近いうちに必ず命を落としていたでしょう。この真菌も治療をしなくては、いずれ肺にまでまわってしまう。愛護センターに収容されるまでのギズモちゃんの生活を思うと、胸が張り裂けそうです。

保護当時、ギズモちゃんは心も体も荒みきっていました。人間が近寄ると小さい体で精一杯の「フー!シャー!」。これが切なくて哀しくて…。いつか、幸せだと思ってもらいたい。それを目標に、治療を開始します。

動物病院でも驚かれるほど酷い真菌だったギズモちゃんは、イトラコナゾールを通常の2倍量処方されていました。ただ、この量だと肝臓に負担が大きいため、ワンクール服用すると1週間お休み。休んだら、ツークール目を始めるといった形で治療を行います。

ギズモちゃんはちゅーるに混ぜられた薬を、嫌がらずに服用しました。出されたものは全部食べる。それがギズモちゃんの流儀だったよう。

■呼吸がおかしい!

映画『グレムリン』では、ギズモと暮らすための3つの約束がありましたよね。こっちのギズモちゃんも、同じく約束があったんです。それは、ケージから出さないことと、お世話をする時は長袖に手袋を装着すること。真菌は猫だけでなく人間にも感染するので、慎重な対応をしました。人間が感染すると、その人間にお世話をされる猫にも感染します。

奥さんだけでなく全スタッフがこの約束を徹底したため、他の猫に感染することはなくギズモちゃんは完治。猫風邪もスッキリしました。この時、保護から2カ月ほどが経過していました。通常なら2週間ほどで治る真菌が、ギズモちゃんは4倍の期間を要したのです。

さあこれで、思い切り走り回ってもらえる。ギズモちゃんをケージから出し、広間デビューをさせました。避妊手術を終えたら里親募集を始めようと考えていた矢先、動物病院で気になることを告げられたのです。

避妊手術を行うために麻酔をかけた途端、異変が起きたのです。ただちに手術は中止され、レントゲンを撮影します。レントゲンに映し出されたのは、凹んだ肋骨。漏斗胸です。

今までケージの中で過ごし、運動らしい運動をしてこなかったギズモちゃん。だから、奥さんたちは、ギズモちゃんの呼吸がおかしいことに気付くことが出来なかったのです。

■運が良い猫はご飯を美味しそうに食べる

不安に思う奥さんに獣医師は言いました。

「運がいいですよ。骨が成長段階の生後3~4カ月ごろまでなら、手術で良くなります」

すぐ手術をしてもらい、肋骨は正常な状態に。手術後のギズモちゃんはというと、今まで以上にご飯が美味しくなったみたい。ドライフードをカリカリカリカリと良い音を立てて、実に美味しそうに食べるんです。

表情も明るくなり、奥さんやスタッフと遊ぶのが楽しくてたまりません。「ギズー」と名前を呼んでもらえると、嬉しくって駈け寄ってしまうんですよ。ギズモちゃんから奥さんたちを呼ぶこともあるんです。主に、他の猫とトラブルを起こした時に。

「いじめられているので、たすけてほしいの」

ニャーニャー呼ぶ姿もまた、可愛いんです。

人間が大好きになり、ずっとかまっていてほしいギズモちゃん。里親さんはどんな家族が良いのか、奥さんは考えました。考えた末、人数の多い家庭が良いという結論に達します。一人暮らしや二人暮らしでは、人間に依存気味のギズモちゃんの相手は難しい。

いよいよ、初めての譲渡会。ギズモちゃんは久しぶりにケージに入れられ、新しい家族を待ちます。運が良い猫なんだから、きっと素敵な家族が出来る。確信のようなものを、奥さんは感じていました。

■「家族ができるよ」

奥さんはSNSで逐一ギズモちゃんの様子を発信していたため、ギズモちゃんはちょっとした有名猫。たくさんの人が、ギズモちゃんに会いに来てくれました。人間が大好きになっているギズモちゃんは、とても嬉しい。代わる代わる愛想をします。

その中の一家族が、ギズモちゃんを迎えたいと申し出てくれました。ずっとFacebookでギズモちゃんの治療の様子を見てくれて、応援コメントも残してくれていた人たちです。奥さんの希望通りの人数の多い家庭で、ギズモちゃんのことを大切にしてくれそう。

2022年12月、ギズモちゃんはこの家族のもとへトライアルに行くことになりました。引越しの前日、奥さんはギズモちゃんに言ったんです。「家族ができるよ」って。その時、ギズモちゃんはピンとこなかったみたい。

でも、いざお家に行ってみると、こういうことかと分かったよう。2日目にはゴロンゴロン。お父さんもお母さんも大好き!奥さんのもとへ送られてくるギズモちゃんの写真は、全部笑顔なんです。このままお家の子になり、今では抱っこしてもらってお家の中を散歩するのが日課なんですって。ご家族はギズモちゃんとの暮らしを「こんな幸せがあるなんて!」と言ってくれています。

そんな言葉を聞くことが、奥さんたち城下町にゃんこの会の幸せです。

■増殖していく幸せ

映画『グレムリン』では、ギズモに水をかけるとグレムリンが増殖していましたが、こちらのギズモちゃんは触れると幸せが増殖していくよう。

半年ほど前まではエイリアンのような子猫が、幸せを願われながらお世話をしてもらうことで、今ではこんなに福々しく。この映画のような出来事は、地方都市の和歌山市で起きたんですよ。もしかすると、気が付いていないだけで、あなたのそばでも起きているのかもしれません。

(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)

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