早いうちなら「どうしたい?」と気軽に聞ける…「子育て世代」だからこそ話し合っておきたい、親の老後と介護
親の介護はずっと先のことだと思っていませんか? 実は30代、40代で子育てをしながら親の介護をする方は少なくありません。「介護の話なんて、親にしづらい」と思う方も多いでしょうが、今は元気なご両親も、やがて年齢を重ねていきます。親が60代~70代前半で特に体調に問題がない場合、逆に子育てを手伝ってもらったり、子世帯のほうが親を頼ったりしていることも珍しくありませんが、元気でしっかりしている年代の親にこそ、「介護・老後・相続」の話をしておくべきかもしれません。「早めに親に老後について切り出してよかった」という、みなさんの経験談をご紹介します。
■義父母が定年後に「家族と話し合い」をしてくれたおかげで助かった
▽H・Aさん
夫の両親がさばけた人で、65歳の定年後、お祝いで集まったときに息子3人に、現在の財産やローン残高、老後資金について開示して、どのような老後を希望しているかを話しました。
正直かなり驚きましたが、夫は「いくら仲良くても、親の介護や相続で争うことは珍しくない。だから親父たちのほうから切り出してくれてよかった」と安堵していました。
3人兄弟それぞれ住んでいる場所も違うし、経済的な環境も違います。とはいえ、正直なところ「ずいぶん先のことなのに、お義父さんたちはしっかりしているなぁ」と思ったものです。実際にふたりとも元気でしたし、義父は70歳まで嘱託で働いており、義母も地域のグループで活動などしていたので安心しきっていました。
ところが、義母が71歳のとき、自転車で派手に転び、両手と足の一部を骨折。それから急に老け込み、お義父さんが介護するような状態になりました。入院している間に、親族が集まりましたが、比較的スムーズに義姉たちとも話ができ、交代で介護をすることや遠くに住む長男が金銭的な援助をすることなどもすでに話し合っていたので、大きな問題も起こりませんでした。
それでも、やはりいざ介護となれば、細々としたトラブルはあります。これだけきちんと準備し、子どもたちが役割分担を決めていても実際には思い通りにはならないこともある。だからこそ、早めの準備・話し合いが大切だと日々感じています。
■なにげなく話をしたおかげで「老後」について親がしっかり準備してくれた
▽A・Mさん
ある時、年上のママ友から「ひとりっ子だから、うちしか面倒みる家がない。いろいろしてあげたいけど、遠くに住んでいるし、夫は多忙で私も子どもの受験などもあって、大変。そもそも、親はもっと蓄えがあると思っていたらそうでもなくて、金銭的な負担もバカにならない」と60代後半で脳梗塞で倒れた父親と介護する母親を手伝う大変さを聞いて、考えさせられました。
月に1度くらいは娘(孫)の顔を見せに実家に顔を出していたので、思い切って「こういう話を聞いて少し不安になったの。そんなこと考えたくないけど、どちらかに何かあったときに私が何をしてあげられるんだろうって」と話してみました。介護や老後と言うと親も「年寄り扱いしないで」と思うかもしれないので、「わたしは何をしたらママたちにとって助かるの?」といった感じで話を切り出しました。
「やだわ、私たちはこんな元気だし、あなた達の世話にならないようするつもりだから」と笑っていましたが、後から「あの後、気になりだしてお父さんと話し合うようになった」と母から聞きました。次に遊びに行った時には、通帳その他の説明があり「どちらかが体調が悪くなったら、こういう施設に入ろうとは思っている」といくつか候補としている施設のパンフレットを見せてくれました。
それから数年たち、父の癌、母の腰痛悪化と病がちになり、しかも感染症の時期でわたしが直接手助けするのが難しい時期に父が亡くなりました。母は療養で入院していましたが、話を聞いていたおかげで銀行預金から保険なども、わたしもすぐに手続きができました。母は希望していた施設に何度か相談もしていたようで、療養型病院から施設への入居も半年ほどの待機で叶いました。
もし親が準備せず、私も話を聞いていなかったら、ましてやこんな状況下では身動きもとれず、途方にくれていたかもしれません。
夫が「まだ元気な親にあんな話がよくできるなと当時は思っていたけど、その方がお互いに幸せというか、うまくいくんだな」と後からポツリと私に言ったことがあります(その後、夫の親も介護が必要になり、夫と妹で意見が食い違い、今もまだ揉めているので……)。
親に老後の話をするのは難しいと身構えがちですが、いきなり「お父さんたちの老後のお金ってどうなってるの?」ではなく、「お父さんたちは老後はのんびり旅行三昧?」くらいの話から、少しずつ、これからの生活についてどう考えているのかを話し合う機会を持つといいのかなと思います。
■老後と介護について親や身内と話しておけばよかったと後悔
▽K・Fさん
夫の家は大家族で「うちはまだ90過ぎのばーちゃんも体こそ不自由だが頭はしっかりしているし、そういうことは兄貴が全部やるから平気」と言い切っていました。
が、義母が急逝すると、体が不自由な曾祖母とひとりでは何もできない義父が広い家に残り、しかも義父も1年もたたずに言動があやしくなり、介護の必要性が増しました。近くに住む兄嫁が面倒を見てくれていましたが「毎日こんな介護の生活はできない!」といきなり家を出てしまうほどの大げんかになったとかで(結局、兄嫁は戻りましたが)、そこから急展開。兄弟姉妹で介護は分担すべきとか、これまで何もしてこなかったからお金を出すとか出さないとか、揉めにもめました。
親戚が多いのもよし悪しで畑と家を処分して施設にという話には「育ててくれた親に血も涙もない」みたいな話になるし、夫も何度か実家に戻って話し合いに加わったものの、もうげんなりしていました。それでもまだ義父がしっかりしているときもあり、「子どもの喧嘩を見るのはたくさんだ。家も何もかも売って、どこかの施設に入る」と大声で怒鳴ったのだとか。
それからも、今度は施設選びやら家の処理やらで、またまた親族と子どもたちでいさかいが起き、今もまだ完全にはおさまっていません。「一家を取り仕切っていた母親がまさかこんな早くに亡くなるとは思ってもいなかった。せめておふくろの70の誕生日でみんなが集まった時に、こういう話を親からしっかりしてもらい、兄弟でも話し合う機会を持っておけば、ここまで揉めずにすんだかも」と夫は後悔している様子です。
親が老いていくのを認めるのは心苦しいものですが、親にとって子どもが苦労したり子供同士が喧嘩するのを見るほうがもっと苦しいことだと思うので、やはり早めに介護や老後について話をしておくべきなのだなと切実に感じています。
■今から少しずつ話し合いたい「親の老後と介護」
株式会社LIFULLの子会社である株式会社LIFULL seniorが2020年11月に公表した「介護施設入居に関する実態調査」によると、有料老人ホームや高齢者向け住宅といった「介護施設」に入居したときの年齢は、80代が約46%と最も多く、次に90代の約24%、70代の約22%と続きます。しかしそれ以前から家庭での介護やお手伝いが必要な方はもっと多いと想定できます。
親が80代といえば、子世帯は50代と思いがちですが、70代から何らかの手伝いが必要になる可能性は増えます。子育て真っ盛りの30代~40代の皆さんにとって「親の老後」はそれほど遠い将来のことではありません。
親がどう老後を過ごしたいか、わかっているようで実はわかっていないこともよくあります。
体験談にもあるように、親が元気で自分の意思を判断し、子世帯にしっかりと伝えられる年代のうちに話し合うのがベストです。とはいえ、老後の話はしづらいものです。日頃から、さりげなく、なにげない話題から「仕事はどれくらい続けたいのか」「どう過ごしたいのか」「子世帯はどのように手助けできるのか」といった話からスタートし、少しずつ現実的な話へと進めていくのがよさそうですね。
それには時間が必要であるだけに、たとえば親の定年や70歳の誕生日といった区切りをひとつの目安と考え、子世帯のほうから「これから親が楽しい生活ができるように」ポジティブなスタンスで話ができるよう、少しずつ考えてみてはいかがでしょうか。
(まいどなニュース/BRAVA編集部)