幻のスポーツカー デロリアンに魅せられて あちこち壊れメンテが大変→オーナーが修理屋さんに 「電動化してでも乗り続けます」
■そもそもデロリアンって?
デロリアン(DeLorean) というと、1980年代の映画「バック・トゥー・ザ・フューチャー」シリーズに登場する車型タイムマシンとして有名ですね。とにかく低くてシャープなフォルム、ステンレス無塗装のメタリックなボディ、まさに未来を感じさせる浮き世離れしたかっこよさで、タイムスリップも普通にこなしそうな雰囲気を持っています。
このタイムマシンはアメリカの企業が1980年代に製造したスポーツカーがベースです。ただ、もともと生産台数が少ないため、普段なかなか見かけることがありませんし、また身近にオーナーが居るとかそういうこともそうそうないでしょう。デロリアンって実際のところいったいどういうクルマなのか、その素顔はあまり知られていないように思います。
その概要を一通りおさらいをしておきますと、アメリカのデロリアン・モーター・カンパニーが1981年に発売したスポーツカーです。デザインはジウジアーロ、開発はロータス、製造はアイルランド。2849ccのV6エンジンを積んでいて、車重も1200kg台と比較的軽いです。ただ1982年に会社が倒産し、トータルで9000台ほどしか生産されませんでした。
今回、DeLorean Owners Club .JAPAN副会長の橋本さんに取材しました。
■惚れ込んで買ったデロリアン。やはり大変なクルマでしたが…
橋本さんが1991年に購入したデロリアンは1981年式です。デロリアンを選んだ理由を聞きました。
「ドアが上に開く車が欲しかったんです。それから、ボディが錆びないステンレスのクルマ。そんなのが欲しいっていうと『そんなんデロリアンしかないで』って教えてもらって。それで調べてみるとかっこよくて、これしかないな、と」
映画とは全く関係なくデロリアンというクルマを選んだとは。付け加えると、橋本さんは当時映画を観ておらず、デロリアンを知ってから初めて観たそうです。
さて、実際にオーナーになってどうだったのでしょうか。やはりいろいろあったようです。
「とにかくあちこち壊れます。特に電気系ですね。まるで家電みたいな造りなんです。80年代の昭和の家電、それもあまり出来の良くないやつを思い出してください。それを今も使い続けてると。しかもほとんど雨ざらしで。そんな感じですね。あと機械的な部分ではリアサスペンションの軸が壊れたり、フロントサスペンションの下側のボールジョイントが崩壊して落ちたり…」
淡々と語りますが、それぞれかなり大変なトラブルです。デロリアンとの長年の付き合いで鍛えられたのか、それとも元々あまり物事に動じない方なのか。
いずれにせよデロリアンと向き合うためにはこのくらい度量が必要なのでしょう。ボディの表面はステンレスで確かに錆びませんが、フレームは鉄なので錆びることも買って初めて気がついたそうです。デロリアンは鉄のフレームの上にFRPのボディを載せて、ステンレスの外板を貼ってある構造なのです。
後付けでスイッチなども増設されています。たとえばラジエターの冷却ファンを強制的に回すスイッチ。これはサーモスタットの動作の関係でなかなかファンが回らなかったりすることがあるからだそうです。何か新しい機能を付け加えるためにスイッチを増設するのではなく、本来クルマが勝手にやってくれるはずの部分を人が肩代わりするためにやるという、ある意味「どんどん手動化していくための改良」という、なんでも自動化に向かう今の世の中ではちょっと不思議な感覚です。
■デロリアンを維持していくために大切なこと
こういう改良や修理に関して、そのほとんどを橋本さんは自力でこなします。所有する車はデロリアン一台だけ、つまり日常の買い物など全てデロリアンなので、修理に預けてしまうと不便だからです。実は今回取材中にエンジンを見せてもらうためにフードを開けたとき、マフラーを支持している部分が割れているのを発見しました。
取材後、橋本さんからメールが来ましたが、「あれ早速溶接しました」と。自宅に溶接機もお持ちとは!ただし、前述のサスペンション破損のような大きな修理は、中部地方にデロリアン専門店があり、そこに任せるそうです。
橋本さんによると、もともと日本に輸入されたデロリアンはおよそ200台ほど。そしてオーナーズクラブのメンバーで、登録されているデロリアンは40台ほど。そんなレアな車種の専門店って、すごくニッチな存在です。それが成り立つということはつまり「それだけ頻繁に修理が必要になる、また修理が特殊で難しい」ということでしょう。
このお店ももともとバイク屋さんで、デロリアンのオーナーだったそうです。しかし愛車を維持するためにあれこれ修理したり、仲間に修理を頼まれたりするうちにどんどんスキルが上がってしまって、ついにデロリアンの修理屋さんになってしまったといいます。「年々スキルが上がって、修理可能な範囲が増えてきてますね」と、とても心強い存在のようです。
また、部品に関しても最近は新たに製作できるものも増えてきたそうで、持続可能なデロリアンのコミュニティみたいなものが出来上がりつつあるようです。
クルマやバイクのような乗り物は愛着が湧きやすい。古いバイクに乗り続ける筆者も常々それを感じていますが、「いずれガソリン車が禁止になってしまっても、電動化してでも乗り続けると思います。デロリアン以外のクルマは全然興味が無いんです」とおっしゃる橋本さんには、とても共感するとともに深いリスペクトの念を抱きました。
(まいどなニュース特約・小嶋 あきら)