食い込む首輪で食べられず呼吸もままならない 苦しむ子猫を救うため別の子猫が見せた驚きのしぐさ 「人間に助けを求めたのかな」
子猫の成長は早く、ピッタリだった首輪がすぐキツくなるもの。人間と暮らしているなら、キツくなった首輪は外してもらえますが、それが出来ない野良猫なら…。
あわや窒息死と思われた子猫が、岐阜県で暮らしています。その猫の名前はキジくん(現在、推定4歳)です。首輪が食い込んでいる時は、苦しくてご飯も口にした途端、咳き込んでいました。
■ゴロンをお腹を見せる子猫…理由は?
あれは2018年8月のこと。住宅街で大きな事件があり、現場を警察官が捜査しているところに、2匹の子猫がどこからともなく現れました。1匹は、どう見てもアメリカンカールです。どこかの家の猫かと思われましたが、届けは出ていないよう。
アメリカンカールだと思われるベージュ色の猫は、立ち警らをする若い警官の前でゴロンとお腹を見せるのです。若い警官は何のことか分からず、子猫を追い払います。すると、今度は事件現場になった住宅街の住人の目の前でゴロンと横たわるように。
その姿はとても愛らしく瞬く間にベージュ色の子猫は、事件で沈んだ住宅街の人気者になったんです。ご飯をくれる人も現われました。ところが、ベージュ色の子猫は出されたご飯を全部食べず、夜中にもう1匹のキジ柄の子猫に食べさせていたよう。
ご飯をもらえるようになったのに、ベージュ色の子猫は誰彼構わずゴロンゴロン。まるで行く手を阻むかのよう。この様子に、住宅街で一人暮らしをする50代の男性のUさんは心配になりました。どうも空腹を満たしたいだけでないらしい。インターネットで猫の行動を調べたのです。
調べた結果出てきたのは、「警戒心を解いてほしい」。
■このままじゃ窒息死する!
ベージュ色の子猫は、人間たちに「ぼくは敵じゃありません」と必死のアピールをしていたのです。では、なぜそんなことを…?
その理由を教えてくれたのは、子猫たちにご飯をあげていた家の人でした。もう1匹の、キジ柄の子猫に首輪が食い込んでいると。ベージュ色の子猫は人間に助けを求めているのでしょう。しかし、キジ柄の子猫は警戒心が強く、保護したくてもできないよう。
でも、そんなことは言っていられません。刻一刻とキジ柄の子猫の首は絞められていきます。小さな命は風前の灯火です。Uさんは子猫たちの保護を決意します。2018年10月のことでした。
とはいっても、捕獲器の存在を当時は知りません。猫と暮らした経験もなかったのです。そこで、1階の窓を開放し、家の中に猫用ドライフードを置くことにしました。その上で、子猫たちに「こっちこっち」と声をかける。ベージュ色の子猫はすぐ気付いてくれ、家の中に。キジ柄の子猫も遠くから見ています。
Uさんは部屋の灯りを消し、口笛をピーと吹きました。それでようやくキジ柄の子猫も家の中へ。暗闇の中、目だけがランランと光っており、Uさんにはそれが命の灯火に見えたよう。
2匹とも部屋に入ったことを確認し、Uさんは窓をパタンと閉じました。
■こんな物で命を奪われてなるものか!
Uさんはすぐキジ柄の子猫から首輪を外そうとしました。ところが、首輪は指一本も入らないほどキツく食い込んでいたのです。量販店で300円ほどで売られていそうな首輪なのに、命を奪う凶器になる…。Uさんは怒りがこみ上げてきました。こんな安っぽい首輪で命を奪われてなるものかと、力いっぱい引きちぎります。
首輪が取れた瞬間、キジ柄の子猫は大きく深呼吸をします。かなり呼吸が楽になったよう。Uさんを見上げ、お礼でしょうか手をペロペロ舐めてくれたのです。命が助かった瞬間でした。
その後、動物病院で検査をしたところ、皮膚炎などになっておらず、少し飢餓状態にある以外は健康とお墨付きをもらいます。当時、ベージュ色の子猫は推定生後5カ月、キジ柄の子猫は推定生後3カ月。獣医師の見立てでは、キジ柄の子猫は生後1カ月ぐらいの時から首輪がつけっぱなしになっていたのだろうと。
こんな状態になるまで探すこともなく放置する飼い主なら、いない方がマシだと感じたUさんは、そのまま2匹を家に迎えることにしました。賃貸ですので、管理人に断りを入れることも忘れずに。管理人もまた子猫たちが気になっていたようで、二つ返事でOK!
こうして、ベージュ色の子猫は「ベジ」、キジ柄の子猫は「キジ」と名づけられ、Uさんの家族になったのです。
■自分ではどうにもならないこともあるから…
保護されてから半年間の2匹は、まあよく食べました。1カ月で8キロのドライフードが2匹の胃袋に。すくすくと大きくなり、5歳を目前にした今では2匹とも6キロ前後に。保護当時は2キロなかったことを考えると、なんと3倍です。
Uさんはというと、それまで自分ではどうにもならない無力感に襲われていたものの、これがキレイサッパリ消え去りました。ベジくんとキジくんと一緒にいると、そんなことどうでも良くなっていたのです。
「ベジも自分ではどうにもならないと思ったから、人間に助けを求めたのかな」
助けたはずの猫たちに支えられ、Uさんは笑顔あふれる暮らしを送っています。いつまでも、この幸せが続きますように。
(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)