「あっち行け!」と言われてきた唐沢寿明似の野良猫 実は「コミュ力」の鬼だった!? もう独りで頑張らなくていいよ

福島県の繁華街で、一生懸命生き抜いた野良猫がいます。銀次くん(当時、生後半年ごろ)です。飲食店で少しずつご飯をもらい、命をつなぎます。

あれは2022年2月のこと。雪がしんしんと降り、アスファルトは凍てついていました。そんな中、銀次くんはいつものように、どこかでご飯をもらおうとフラフラ。1軒の居酒屋に目をつけ、店の中に入りました。

■どこに行っても追い払われる猫

ところが、店主に「あっち行け!」と追い払われ、店の外へ…。普通の猫なら「フー!シャー!」をするところでしょうが、銀次くんはヘラヘラ。再び賑やかな繁華街をフラフラ。怒る人間なんてどこ吹く風、お気楽トンボです。

そこを通りがかったひとりの女性。気楽に「見せている」銀次くんを哀れに思い、急きょ保護しました。このまま外で暮らしていても、この性格ではいつか酷い目に逢ってしまうと考えたのです。それに、どう見ても迷い猫でなく野良猫。誰かと暮らした方が良い。

女性の家に迎えられた銀次くんは、毛の色から「あまぐり」と名づけられ、凍えることがない家猫としての暮らしを始めます。ところが、先住猫との折り合いが悪い。「あまぐり」くんが近づくと、「あっち行け!」と言わんばかりに、「フー!シャー!」。

部屋を分けたものの、「あまぐり」くんが先住猫に近寄っていくんです。その度に先住猫は怯え、「フー!シャー!」を繰り返す。このままでは2匹にとって良い結果にならないと考えた女性は、「あまぐり」くんに新しい家族を見つけることにします。

2022年3月、里親サイトに「あまぐり」くんを掲載したのです。

■動き出す運命

時同じくして福島県で暮らすT家のお母さんは、もう1匹猫を迎えたいと考えていました。苦労する猫を1匹でも救いたい、そんな思いからです。

それに、人間に育てられ、パグ犬の小太郎くんと暮らすみっつちゃんに、「猫」というものを知ってもらいたいという想いもあります。でも、なかなか良い出会いはありません。

そんな時、いつも見ている里親サイトに、新着記事があるのを見つけました。同じ福島県で暮らす女性が里親を募集しているよう。その猫の名前は「あまぐり」。端正な面立ちで、俳優の唐沢寿明さんになんだか似ています。お母さんの胸はときめきました。

投稿時間を見ると、ついさっきです。運命的なものを感じたお母さんは、すぐ女性に連絡をします。連絡を受けた女性はビックリ。まさかこんなに早く連絡が来るだなんて、運命の出会いなんじゃないかと。

話はとんとん拍子。T家のみんなで、「あまぐり」くんが暮らす女性の家へ行くことになります。

■新たなお家と名前

わくわくしながらT家のお父さん、お母さん、真ん中のお姉ちゃんが女性の家へ。居間に通され、「あまぐり」くんと対面。すると、初対面であるにも関わらず、「あまぐり」くんはお父さんのお膝にちょこんと乗ったではありませんか。そして、お父さんの顔を見上げるのです。この「あまぐり」くんを見たお父さんは一言。

「顔が”銀次”だ」

面立ちは整っているものの、なんだか渋い。漢字の名前が良い雰囲気なのです。「あまぐり」くんは嫌がらず、すんなり「銀次」という名前を受け入れました。このままT家でトライアルします。

T家に到着した銀次くんは、家に慣れるまでケージ暮らしに。みっつちゃんはおっかなびっくりで銀次くんを眺めます。やっぱり怖いのか、高いところから見つめるんですよ。パグ犬の小太郎くんは、自分のテリトリーに不審者が入ってきたので「ウー!」と唸りました。

これでは誰にとってもストレスですから、しばらく銀次くんは完全隔離に。でも、2日目にはなぜか銀次くんはケージの外へ。しかも、小太郎くんと一緒に寝ているのです。お母さんを見上げ、

「どうしたの?」

と銀次くんは不思議そう。「ずっと、ぼくらはなかよしです」って顔を2匹ともするんです。いつの間にか仲良くなったよう。

■「もっと自由にして良いんだよ」

その後、うさぎとも仲良くなり、新入りの子猫・ちくわちゃんとも仲良くなる銀次くん。宅配便のお兄さんに挨拶をしますし、お姉ちゃんたちのお友達にも接待もするんです。まさしく「コミュ力の鬼」。

みっつちゃんとはベタベタに仲良くはなりませんでしたが、「こういうものだ」と理解してくれたみたい。時々、毛づくろいする間柄になりました。

この銀次くんの態度にお母さんは嬉しい反面、切なくなることもあるよう。

「こうすることが、野良猫としての処世術だったのかな。もう家の子なんだし、もっと自由にして良いんだよ。気を遣わなくて良いんだよ」

暖かい家の中なのに、寒風吹きすさぶ繁華街で過ごしていた時と変わらない銀次くん。生来の性分である可能性もあるものの、なんだかまた誰かに「あっち行け」と言われることに怯えているようにも見えるのです。

ねえ、銀次くん。今度、誰かに「あっち行け」って言われたら、お父さんとお母さんがとっちめてくれるよ。だから、もう1匹で頑張らなくて良いんだよ。安心してね、銀次くん。

(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)

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