親を頼れない若者たちが保護猫と一緒に暮らせる場所を…“拠り所”になる「猫付きシェアハウス」が埼玉・浦和にオープン
児童養護施設などを退所した社会的養護出身者のために、猫付きシェアハウスをオープンさせる--。そんな夢を、2023年2月に実現予定なのは桜猫のらさん。
「親を頼れない子どもは日本全国に約4万5000人もいると言われています。18歳になり、児童養護施設や里親宅から社会へ巣立つ若者は不安が大きいのに、フォローが足りていない。でも、ひとりひとりの大人が自分のできる範囲で彼らをサポートすれば、日本の未来は大きく変わっていくと信じています」
■里子の言葉に背中を押されて「猫付きシェアハウス」の運営を決意
もともと大の猫好きである桜猫のらさんは以前から、猫好きさんに戸建てを貸し出す大家業をしており、親族が所有するシェアハウスを手伝う中で、自分もいつか運営してみたいという気持ちが芽生えた。
「実は私自身、里親として高校生の里子さんをお預かりし、共に生活しています」
大家業や里子との生活を通して知ったのは、親を頼れない若者たちは保証人の問題などにより、社会に出る際の部屋探しに苦労しているという現実。
シェアハウスのオープンは、いつか遠い未来で叶えたい夢だったが、2022年、埼玉県が主催するビジネスコンテストへ出場し、ファイナリストに残ったことを機に現実味を帯びた。
「頑張るのがどういうことか分からないと言っていた我が家の里子ちゃんに、口で説明するよりも行動で伝えたいと思い、参加しました」
結果発表後、里子さんが言ってくれた「私にとっての最優秀賞は桜猫さんです」という、心のこもった言葉が響き、桜猫のらさんは猫付きシェアハウスのオープンに向け、本格的に動き始めた。
■社会的養護出身者が安心して暮らせる“拠り所”でありたい
できるかぎり、入居者や入居猫たちに寄り添いたい。そう考え、自宅から自転車で5分ほどの距離にある埼玉県・さいたま市(旧浦和区)にある物件でのオープンを決意。
「浦和駅は一日の乗降客数が19万人を超え、アクセス面で不自由することはなく、雰囲気もいい。浦和は埼玉県の中では都会ですが、自然もたくさんあり、年々人口も増えている。駅周辺の開発も進んでおり、これからますます魅力が増していく街です」
無理のないお世話を考慮し、現段階で考えている入居猫の頭数は3匹程度。自身が元野良猫や元地域猫と暮らしているからこそ、頭数を増やしすぎず、人と猫が心地よく暮らせるシェアハウスを完成させたいと考えている。
「猫には癒し効果や人間を健康にしたり、長生きさせてくれたりする力があることが科学的に証明されているんです。猫と暮らすことで入居者の精神面や身体面の健康が増進する可能性があるというのは最大のメリットだと思っています」
また、自身の里子が自宅で愛猫と関わる中で、「自分を必要としてくれる命がある」と感じてくれたことから、猫のような愛情深い生き物との暮らしは社会的養護出身者の若者にとって、自己肯定感の向上に繋がるのではないかと期待もしている。
「室内の各所に腰壁があり、まるで猫のために用意されたような家なんです。猫あってのシェアハウスだからこそ、猫がいるだけで絵になるような内装にしたいし、狭くてものびのび上下運動が楽しめるような工夫も散りばめたいです」
大切な脱走防止策に関しては、入居者に猫を外へ出さないように何度も説明したり、危険な箇所がないよう、リフォームを進めたりする予定だ。
「必要に応じて、社会的養護出身者をフォローする支援団体や、私が里親として出会ってきた様々な支援者さんともお繋ぎ致します。仕事を失った場合は、次の仕事探しのお手伝いもさせていただければと思います」
そこまで親身になるのは、いずれ本格的にひとり暮らしをする際に頼れる場所や仲間を、このシェアハウスで見つけてほしいとの思いがあるから。
以前、社会的養護出身者にアンケートを取った際、シェアハウスに求めることとして、「ただ話を聞いてほしい」という意見が多く寄せられたため、桜猫のらさんは猫付きシェアハウスが、ふとした時に幸せだと感じられ、頼れもする心の拠り所になってほしいと考えている。
「耳を傾けてくれる存在があることは生きていく上での安心感につながります。シェアハウスを巣立った後も手紙のやりとりや食事会などを通して、定期的に交流していきたいです」
優しさと猫愛が詰まった、猫付きシェアハウス。悩み、迷うことが多かったであろう社会的養護出身者には温かい空間でたくさんの思い出を築いてほしい。
(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)