もう戦わなくていいんだよ…傷だらけのボス猫が手に入れた幸せな2年間 「この子との出会いが猫への考え方を180度変えた」
ふっくらとした体つきから、親しみを込めて「デブ」と名付けられた元ボス猫。そんなデブが飼い主さんと出会い、お別れするまでの物語がInstagramで感動を呼んでいます。
投稿主の「boku_debu」さんがデブと出会ったのは2020年の1月。家の裏手の空き地にいるのを見かけました。ふくよかな体つきだったことから「どこかの家の飼い猫だろうな」と思いましたが、数日後に自動販売機のゴミ箱を漁っている姿を目にして、保護を前提にご飯をあげるようになりました。
これまで外で怖い思いをしてきたのか、人間の顔を見るだけで「シャーッ!!」と威嚇するデブ。ご飯は食べるものの、近づくと隠れてしまいます。それでも「boku_debu」さんは、「心の距離を縮めてから安全に捕獲したい」と、毎日時間の許す限り、デブの近くに座って話しかけました。
しかし、ある日から突然、デブが全く姿を見せなくなります。「まさか事故に遭ったんじゃ…」と心配が募る中、2週間ぶりにやっと戻ってきたデブは、変わり果てた姿となっていました。
「前脚を引きずり、体中ケガでボロボロでした。でも、そんな体になってでも帰ってきてくれたことが嬉しくて嬉しくて…。その場で迷わず保護をして、すぐにかかりつけの動物病院に連れていきました」
デブを診察した獣医さんは、「この子はボス猫だね」と断言したそうです。四肢の爪のほとんどが剥がれ、肉球もえぐれて、頬には口内に達しそうなほど深く大きな傷がある状態を見て、「この傷は縄張り争いによるもの。顔に傷があるのは逃げずに戦った証拠だよ。体にたくさんある古傷も、この子がずっと戦ってきた証だ」と、デブがこれまでどうやって生き抜いてきたかを教えてくれました。
当時のデブの推定年齢は8~10歳。長くて過酷な外生活がやっと終わった日でした。
「boku_debu」さんの家に迎えられてからのボスは、それまでが嘘のように甘えん坊になりました。
「病院から戻ってすぐにケージに手を入れたら、頭をスリッとこすりつけてくれたんです。それまでは決して触らせてくれない子だったので、もう、嬉しくてかわいくて…。やっと心が通じた気がして泣けてきました。そこからは、家族の前ではとても甘えん坊な姿を見せてくれるようになりました」
「boku_debu」さんの家では、先住の保護猫が3匹いましたが、ボスはその子たちともすぐに仲良くなりました。また、自分より後に保護されてきた猫たちをとてもかわいがったそうです。
「猫同士が喧嘩を始めると必ず仲裁してくれ、自分よりも弱い子がご飯を横取りしても『食べな食べな』といった感じで決して怒りませんでした。特に子猫には優しくて、母猫のようにいつも寄り添ってくれていました。そんなデブのことを他の猫もみんな慕っていて、お昼寝のときには、いつもたくさんの猫たちが集まってきていました」
■デブを病魔が襲う
しかし、そんな幸せな暮らしに病魔が襲いかかります。保護されてから約2年後、ボスは「拘束型心筋症」という心臓病を患いました。獣医さんから告げられた余命はわずか2カ月。根治は望めない状態でした。
延命のための入院をデブは望んでいないのでは…。そう感じた「boku_debu」さんは、家でゆっくり余生を過ごさせようと決めます。治療のメインは投薬。苦い薬でしたが、デブは1日2回、ちゃんと薬を飲み続けました。しかし、余命宣告からおよそ2カ月の夜、ついに恐れていた事態が起こります。血栓症の症状と思われる引きつけを起こしたのです。
「引きつけを起こしたのが救急も閉まっている時間だったので、朝まで家族で交代しながら寄り添いました。そして早朝に急いで病院に電話をして状態を説明したのですが、『病院までの移動のリスクが大きすぎる』ということで、家族で話し合って、そのまま最期を看取ろうと決めました」
「朝には症状が少し落ち着いて大好きなお外をボーッと見つめていたのですが、そんなデブのまわりに猫たちが次々と集まってきていて…。私には、みんなが最期のお別れの挨拶をしているように見えました」
そうして家族みんなに見守られながら、2022年7月13日、デブは虹の橋のたもとに旅立ちました。
「boku_debu」さんは、「デブとの出会いによって猫への考え方が180度変わりました」と話します。実は先住の保護猫たちは、保護団体から迎えた子たち。自身の手で保護をした猫は、デブが初めてです。
「デブと出会い、それまでぼんやりとしか考えていなかった野良猫たちの過酷な現実を目の当たりにして、本格的に猫の保護活動を始めました」
猫の状態や性格などに合わせて、TNRを行ったり、里親の募集をしたりしている「boku_debu」さん。保護されて、新しい家に迎えられた子は2022年だけで20匹に上ります。さらに、体や心にハンデを抱え、新しい家に行くことが困難な猫たちは自身の家族としてお迎え。現在は22匹の家猫と11匹の保護猫たちと暮らしています。
「もともとは犬派だった夫も、デブと出会ったことで猫が大好きになりました。だから、『野良猫たちを助けていきたい』という私の想いにも快く賛同してくれました。今では、保護猫たちを我が子のように気にかけてお世話してくれています。また、息子や娘、孫たちも、掃除やお世話を積極的に手伝ってくれる。いつも支えてくれている家族には、感謝の気持ちでいっぱいです」
とはいえ、保護をする頭数に対して、里親に出る頭数が追いつかず、負担がなかなか減らないのが保護活動の現状です。「boku_debu」さんは、次のように呼びかけます。
「私一人の活動は本当に微力ですが、少しでも多くの方にデブのような野良猫がいることを知ってもらって、不幸な野良猫をなくしたい。そんな気持ちからSNSでの発信を始めました。これから新しい家族を迎えようと考えている方は、ぜひ一度、可愛い保護猫、保護犬たちがいる譲渡会にも足を運んでもらえたら嬉しいです!」
「boku_debu」さんはInstagramの他に、「僕の名前はデブ」という名のYouTubeチャンネルも開設しています。在りし日のデブの幸せな暮らしの他、保護された猫たちの可愛らしくて賑やかな暮らしぶりも覗けるチャンネルなので、動物が好きな方はぜひチェックしてみてくださいね。
(まいどなニュース特約・鶴野 浩己)