虫歯から浮気がバレる? 口腔内細菌は法医学に応用、ニュージーランドでは犯人逮捕に貢献 歯科医芸人が解説
虫歯には口腔内細菌が関係しているといいます。その口腔内細菌は法医学にも応用され、ニュージーランドでは死体の咬み傷から細菌を採取し、犯人逮捕の決め手になった例もあるとか。解説してくれるのは、歯科医芸人の“パンヂー陳”こと陳明裕さん。場合によっては浮気調査にも使える可能性もあるとのことです。(聞き手・山本 智行)
陳明裕(以下陳):本日は、オーラルフローラについてお話したいと思います
-なんか、ポロシャツの名前みたいですね。
陳:それはラルフローレン。私が言ってるのはオーラルフローラです。腸内フローラと言う言葉は最近よく耳ににするようになりましたが、腸内細菌叢のことです。腸内細菌は菌種ごとに塊になって腸壁に張り付いていますが、その塊が「flora」、すなわち花などの植物相に見えることから「腸内フローラ」と呼ばれています。オーラルフローラは、その「お口」バージョンです。そもそも、口の中には200種類以上もの細菌が何十億単位で存在しています。
-そんなにたくさんの細菌が。
陳:はい。一説には、お口の中の方が、ウンチよりたくさん細菌がいるとのことです。オーラルフローラには、いわゆる善玉菌や悪玉菌がイス取りゲームのように勢力範囲を広げようと互いにせめぎ合ってます。お口の健康にとっては、この比率がとっても重要なんです。
-なるほど。
陳:虫歯における悪玉菌はミュータンス菌や乳酸桿菌が有名ですが、それは昭和の頃の話。令和の現代、虫歯の原因になり得る菌として、この他にビフィズス菌、スカルドビア菌、アクチノマイセス、ベイロネラ、プロピオニバクテリウム 、アトポビウムなど多くの種類が挙げられています。
-少し前に赤ちゃんの虫歯の菌はお母さんからくる話や、キスで虫歯菌が移るって話は聞きましたが…。
陳:ニューヨーク州立大学での本間先生からお伺いした話なんですが、口腔内細菌は法医学にも応用されているそうです。
-法医学ですか!いいですね。若村麻由美さんが好きで、ドラマ「科捜研の女」をよく観てます。その本間先生はどんな方でしょう?
陳:残念ながら小太りのオジサンですし、そもそものご専攻は口腔細菌学です。ニュージーランドで実際にあった話だそうですが、死体に咬み傷が残されていました。口の中のレンサ球菌は皮膚の上で3日くらい生き残れますので、そこから菌を採取して、容疑者の口腔内の細菌と照合して犯人を特定する作業を行ったとのことです。
-そんなこと、できるんですね。
陳:じゃ、もう少し卑近な話をしましょう。大学の生化学のある先生が、ご結婚されたんですが、結婚前は虫歯が1本もなかったのに、奥様とお付き合い始めてから急に虫歯が増えたので、その話を奥様にしたそうです。
-奥様から虫歯がうつった、ということ。
陳:奥様曰く、奥様ももともとは虫歯はなかったのに、前カレと付き合いだしてから、急に「う蝕」が増えたのだそうです。そこで、その先生は科学者なので、早速、確かめるべく、自分と奥様の口腔内細菌を採取して、パルスフィールドゲル法という菌の出自がわかる方法で調べた結果、完全に一致したそうです。したがって、両者の菌の由来は奥様の前カレであろうという結論に至ったそうです。
-それなら口腔内細菌が浮気調査なんかにも使えちゃうのでは。
陳:確かに、犯罪捜査から浮気調査までいろいろ応用できそうですが、細菌がお口の中で住みつけるかどうかは、オーラルフローラ(口腔内細菌叢)の影響が大きいですので、1度や2度キスしたとしても、キスで移った細菌が口腔内で増殖して、なおかつ細菌叢の細菌配分が変化しないといけないですから虫歯がうつることはまずないでしょう。仲のいいご夫婦や同棲カップルならともかく、ちょっとキスしたぐらいなら大丈夫なはずです。
最近の研究では、一卵性双生児でも別々に暮らしているとオーラルフローラは異なりますし、夫婦や同棲カップルの場合は似るそうですが、夫婦でも別居していると違ってくるそうです。
-なるほど。そうですか。
陳:注意してほしいのは赤ちゃん。生まれたてのときは歯がないので虫歯菌も増えません。しかし、生まれて約6カ月で歯がはえ始め、2歳半くらいで乳歯がはえ揃いますが、そこにミュータンス菌が感染して虫歯になります。
-ミュータンスはどこから来るんですか?
陳:家族の唾液などを介して赤ちゃんの口にやってきます。祖父母のチューや、お父さんが使ったスプーン、熱い食べ物をママがフーフー冷ましたりするときなど、いろんな経路が考えられます。特に、お母さんの口の中にいた菌に関しては、免疫寛容と言って、異物と認識しにくいので赤ちゃんのお口の中で、簡単に増えてしまうのです。要は口腔清掃をしっかりして、お口の中を清潔に保ってオーラルフローラを整えることにつきます。
(まいどなニュース特約・山本 智行)