地元漁師を救おうと明石の「天然真鯛料理」を冷凍販売 店の地下には海水5トンの巨大水槽
明石の真鯛を提供する人気の日本料理店「くら蔵」(神戸市垂水)は1月から名物メニュー「天然真鯛出汁しゃぶしゃぶ」の冷凍販売を始めた。料理人が調理した高級魚の真鯛を、リーズナブルな価格で味わえるとあって早くも評判に。背景にはコロナで痛んだ地元の漁業関係者を支援する狙いもあるが、冷凍にできたのには理由もあった。須浪道広社長に話を聞いた。
■垂水漁港などでセリの資格を持つ「くら蔵」
JR・山陽「垂水駅」下車し、徒歩で南へ約3分。国道2号線沿いに会席や仕出し料理などで知られる「くら蔵」がある。創業は平成元(1989)年。垂水漁港のすぐそばに店を構え、近海で獲れる鯛、蛸、穴子などを中心とした新鮮な魚介類を提供し、人気を博してきた。実は水揚げされた魚を直接買うことができる指定業者の資格を持っており、これは料理店では珍しく、大きな強みとなっている。
自慢はやはり明石周辺でとれた天然真鯛を使った料理。名物メニューは「天然鯛出汁しゃぶしゃぶ」「鯛めし」「鯛の甘辛煮」だそうで、店長の須浪さんは「明石海峡周辺は潮流と豊富な餌があるため、鯛にとって恵まれた環境なのです」と笑顔を浮かべた。
■明石海峡の天然真鯛の美味しさをもっと知ってもらいたい
そんな真鯛の美味しさを知ってもらおうと店側は地元のみならず、まずは神戸や姫路方面に力を入れ、宅配を開始した。すると「天然の真鯛料理が我が家で手軽に食べられる」とあって、評判が評判を呼び、もっと広い範囲でも販売してほしいという声が増えてきたという。
■地元の漁業関係者を支援しようと宅配開始
もちろん、テイクアウトや宅配を始めた背景にはコロナ禍で痛んだ地元の漁業関係者を少しでもサポートしたいというも思いもあった。緊急事態宣言によって飲食店は休業、もしくは時短営業。地元の漁師がせっかく、魚介類を獲ってきても販売するところが激減。船の燃料代にもならない時期が長く続いており、見るに見かねて協力したい思いが強まった。
■店の地下には海水5トンの巨大水槽
この1月から冷凍販売を始めたのは全国に販路を拡大するため。「明石の天然真鯛を全国の人にもおいしく提供したい。そうすることによって、漁師さんをもっと広く支援できる」と須浪さんは意気込む。
もっとも、それを可能にしているのは、店の地下にある施設のおかげ。海水5トンが入る巨大な水槽が備わっており、ここでは、生きたままの鯛を泳がせることができる。「豊漁の時に多くの真鯛を仕入れておけば、リーズナブルに食卓に鯛を届けることができる」と須浪社長は話す。
冷凍販売される商品の目玉は、もちろんプロの板前が調理した店自慢の「天然真鯛のしゃぶしゃぶ」(2人前2800円、税込、送料別)だ。鯛はしゃぶしゃぶに適した絶妙の切身に。言うまでもなく、出汁も店舗で出しているものと同じものをセットにして提供している。
■名店「くら蔵」の味を家庭で再現
実は、この出汁にも深いこだわりがある。美味しさのわけを聞くと「鯛出汁は、天然真鯛の生のアラと焼きアラをベースに白ネギ、玉ネギ、生姜などの数種類の野菜を入れ、約5時間、弱火でゆっくり旨みを引き出しながら作っています」といい、これによって最終的に澄んだ出汁になるという。また、化学調味料は一切使用しておらず「自然調味料だけを使い、味のバランスを調整している」とのこと。これが素材の旨味を引き出し、美味しさの秘訣にもなっている。
他にも、炊飯用の鯛出汁と鯛身が入った「天然真鯛の鯛めしの素」(お米2合、お茶碗4~5分)や「天然真鯛の甘辛煮(1匹)」など名店の味がそのまま我が家で楽しめるのだ。
お祝い事も多い春。家庭で手軽に鯛料理を楽しむのも悪くない。
なお、今回、扱っているのは、いわゆるブランド鯛の明石鯛とは違い、少し小ぶりだが、味は決して劣ることはないとのこと。地元の関係者は今後、明石海峡で獲れた天然真鯛として、本格的に売り込んでいくという。
(まいどなニュース特約・八木 純子)