“3日間だけの天使”が伝えたかったこと「ぼくの兄弟を助けて…」 保護した場所に向かうと、よく似たサバトラ柄の子猫が!
長崎県で暮らす猫のペッコくん(現在・推定6カ月)は、目の前にあるものは全部おもちゃにしちゃうアイデアマン。紐はもちろん楽しいし、同居猫の尻尾にもじゃれちゃう。
元気いっぱいに過ごす姿を見て、ペッコくんと暮らすC家のお父さんは目頭を熱くします。兄弟猫の分も遊んで、食べてほしい。そう願うのには、理由があります。それは…。
■子猫はいないはずなのに
長崎県は野良猫が多く、その分、殺処分も多い地域。お父さんがツーリングでよく訪れる大野浜海浜公園も、TNRされた地域猫がたくさん暮らしています。
元々、大野浜海浜公園に猫はいなかったのです。2匹の捨て猫からどんどんと繁殖して、今のような数になったとのこと。現在は地域猫ボランティアさんの尽力によりTNRが進み、猫の数は増えないようになっているはずでした。
それなのに、お父さんは大野浜海浜公園で子猫を見かけたのです。2022年10月10日お昼過ぎのこと、この日はツーリングでなくお母さんとドライブで訪れていました。子猫は生後1カ月ちょっとくらいでしょうか、かなり弱っています。後ろ足が動かないよう。カラスが多いこの大野浜海浜公園で、このままでは生きられないでしょう。
「誰かに捨てられたか…。助けてやりたい」
気にはなるものの、子猫を助けるための道具を何も持っていなかったお父さんは、近くにあるカフェの店主に相談へ行きます。このカフェのオーナーは大野浜海浜公園の猫を何匹も引き取っている愛猫家。お父さんの話を聞くと、すぐキャリーケースを貸してくれました。
これで動物病院へ連れていけます。お父さんとお母さんは急いで大野浜海浜公園に戻りました。
■10月10日に出会ったから「てんてん」
大野浜海浜公園には地域猫が暮らす猫マンションがあり、子猫もそこにいます。一室の中でうずくまるように隠れているところに、お父さんは言いました。
「一緒に行こう」
小さな入口から見えるお父さんの姿は、子猫にはとても大きく怖かったはず。それなのに、子猫はお父さんから差し伸べられた手をつかみ、キャリーケースへ。そのまま大野浜海浜公園からバイクで30分ほどかかる動物病院に直行しました。気持ちの良い秋晴れの日なのに、お父さんの心は大嵐が吹き荒れています。何とかして助けたい。
事前に連絡してあったおかげで、休日だったものの動物病院で診察してもらえました。何事もなければ、このまま家の子にしようとお父さんもお母さんも考えていました。その二人を目の前にして、獣医師は険しい表情を見せます。
「ある程度、覚悟しておいた方が良い」
子猫は弱っているものの、お父さんによじ登ったりじゃれたり元気を取り戻せそうに見えるのに、獣医師はこう言うのです。それは、心臓から雑音が聞こえるから。今日明日が峠だとも言われました。
お父さんは目の前が真っ暗に…。助けたいのに、助からないのだろうか…。せめて名前をつけてやりたい。10月10日に出会ったので「てんてん」と名づけました。
■神様に好かれた猫
自宅に戻り、てんてんくんは隔離部屋へ直行。先住猫がいますから、感染症対策です。先住猫はおっとりした優しい猫ばかりですから、きっとテンテンくんも受け入れてくれるはず。隔離期間をやり過ごせば、てんてんくんには明るい未来が待っているはずでした。
てんてんくんは家でも、お父さんによじ登り、お母さんが呼ぶとトコトコ寄って来ていたんです。でも目に見えて命の灯火が弱くなってきているのが分かりました。それでもお父さんは希望を捨てていなかったのです。隔離期間さえ終われば、猫たちの温もりも加わりもっと良くなると。
ご飯は食べていましたので、生きたい意思はあったはず。それなのに、神様もてんてんくんのことが好きになったみたい。近くに呼び寄せようとしたのでしょう。10月13日20時過ぎ、お父さんが仕事から帰ってくるのを待って、てんてんくんは神様の家の子に。
てんてんくんの体はお父さんの腕の中で、どんどんと冷たくなっていきます。さっきまで温もりを感じていたのに。
たった3日間でしたが、出会ってからのてんてんくんを思い出します。人間にすがり、いつも何か言いたげにしていたてんてんくん。何を言いたかったのでしょう。お父さんは気になり始めました。
■「ぼくの兄弟を助けて」
てんてんくんが何を伝えたかったのか知るため、お父さんは再度大野浜海浜公園へ。地域猫たちがのんびり過ごす姿を眺めていると、ふと気付いたのです。子猫を捨てるなら、1匹であるはずがないということを。
どこかにてんてんくんの兄弟猫が、必ずいるはずだと考えたお父さんは、大野浜海浜公園をくまなく探し始めました。以前、キャリーケースを貸してくれたカフェでも聞き込みもしたのです。そこで教えてもらったのは、てんてんくんによく似たサバトラ柄の子猫がいるということ。
猫マンションに行くと、てんてんくんと見紛うばかりの子猫がいたのです。
「てんてんが言いたかったのは、この子のことか!」
すぐ保護しようとしましたが、子猫はプイッ。人間なんかに捕まらないぞと、ぴゃーと逃げて行きました。お父さんは捕獲のための道具を何も持っていなかったため、この日の保護は諦めます。
1週間後の10月22日、今度はバイク仲間と一緒に猫マンションを訪れます。子猫は猫マンションでくつろいでいました。お父さんの顔を見ると、逃げようとしたんです。そんな子猫にお父さんは話しかけました。
「君の兄弟猫から頼まれてきたよ」
子猫はおとなしく耳を傾け、それからキャリーケースを持ってきたお母さんに抱かれたのです。そして、動物病院へ一緒に行ってくれました。
■2匹分、元気でいてほしい
子猫は「ペッコ」と名づけられ、C家の一員に。動物病院での診断では、ウイルス性の風邪をひいているとのことだったので、1カ月ほど隔離。その期間、お父さんとたくさんお話しました。てんてんくんのことも、先住猫たちのことも。
ペッコくんはお父さんから色んなことを聞いていたので、先住猫たちともすんなり仲良くなれました。先住猫たちもまた、お父さんからてんてんくんのこともペッコくんのことも聞いていたので、ペッコくんに優しくできたんですよ。
ペッコくんはてんてんくんの分も食べているつもりなのでしょうか、すごい食欲。たくさん食べ、たくさん遊ぶんです。先住猫のチビ太ちゃんと特に仲良くなり、プロレスごっこがマイブームになりました。
神様、ペッコくんはしばらくお父さんのそばにいさせてください。てんてんくんからも神様にお願いしてちょうだいね。
この幸せをいつまでも。
(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)