一緒に過ごして20年…子どもでも彼氏でもおじいちゃんでもある愛猫は、私の生きる糧「この子のために働く下僕でありたい」
額にある8対2の分け目模様と背中のハートマークが愛くるしいアジくんは、御年20歳のおじいちゃん猫。年齢を重ね、体にはたくさんの変化がみられるようになったが、飼い主・しろくろイルカさんの隣で穏やかな老ニャン生活を送っている。
■交際相手が勤務する会社の敷地内で生まれた子猫
今から20年前、飼い主さんは当時交際していた方が勤める会社の敷地内で、アジくんと出会った。アジくんは、野良猫が産んだ子猫。交際相手と同棲予定だった飼い主さんは相談を受け、固形物が食べられる月齢の頃、アジくんを迎え入れた。
自宅でアジくんはトイレや決められた場所での爪とぎを覚えてくれ、クールなのにお喋り好きというギャップのある猫に成長。
「今でも忘れられないのは、去勢手術の時の姿。なかなか麻酔がとけず、先生に揺さぶられ、うつろな目で私を見ており、心配しました。ちなみに、タマタマはホルマリン漬けにして貰いました」
交際相手と同棲を解消した時には、アジくんの繊細さを知った。
「人間の勝手な都合で申し訳なかった。猫は気まぐれで勝手と言われてますが、繊細な生き物なのだと知りました」
これまで当たり前のようにそばにいてくれた存在を失ったからか、ストレスによる脱毛や過剰グルーミングが見られ、お腹の毛がなくなってしまったのだ。
「皮膚は赤くただれ、病院で長年治療。ここ何年かでようやく合う治療薬に出会え、フサフサになりました」
■夜鳴きに悩んだ日々を乗り越えて、さらなるご長寿を目指す
シニア期になると、これまでとは違った愛猫の行動に戸惑うこともある。アジくんの場合は、就寝時の夜鳴きだった。
飼い主さんの姿が見えなくなると不安になるのか、アジくんは大きな声で鳴くように。寝不足になった飼い主さんは近所に迷惑をかけているのでは…と心配になり、ノイローゼ気味に。
「病院から処方された精神安定剤を与えるようになってからは夜鳴きが改善し、寝てくれるようになりました」
最近は腎臓が悪く、排尿の回数が多いことが気がかり。そこで、水分補給ができるように気をつけながら何種類かのフードをローテーションして与えたり、ペースト状のごはんに水を入れて水分量を増やしてあげている。
それでも、食は細く、MAXで7キロあった体重は3.2キロにまで落ちた。
「口内環境も悪く、歯が何本か抜けました。今は食事ができていますが、歯が痛痒いようなので、酷くならないか心配。足も弱ってきており、抱っこしても骨々しい。だから、宝物を抱くように優しく抱っこしています」
愛しい分、きりがないほど心配事が増えていくシニア期。しかし、アジくんは調子がいい日にトイレダッシュをしたり、膝くらいの高さまでジャンプをしたりと、まだまだ元気だ。
「毎日、体調や元気が違うので目が離せず、落ち着いて…となだめることもあります。でも、いま通院している病院で1~2を争うシニアなのに年の割に元気で毛並みもいいと褒められ、誇らしいです」
■「そばにいてくれてありがとうの気持ちでいっぱいです」
「私は大好きなのですが、本ニャンはクールなので、ほぼ無視されます。たまに寄り添ってくれる時は、ありがとうございますと喜ぶ。典型的な下僕脳なんです」
そう語る飼い主さんは、就寝時にもアジくんに振り回されている。アジくんは自ら毛布や布団に潜り込めるのに、なぜか飼い主さんが寝ていると起こし、「毛布を持ち上げて押さえていろ!」とアピール。
「布団に入っても、体勢が気に食わないと出て、同じ要求をされ、3~4回起こされます。足元から布団に入ってくる時も、足をあげて待たないといけないので大変です」
だが、そんな猫ファーストな日々を送ることができるのも、アジくんが元気でいてくれてこそ。飼い主さんは仕事から帰宅すると、真っ先にアジくんの呼吸を確認。今日も生きてくれていることに安堵し、喜ぶ。
「猫は、子猫でも成猫でもシニアでも永遠にかわいいので、すごい。シニア期は大変だけれど、かわいさと愛おしさがより感じられる時期でもあると思います」
飼い主さんにとって、アジくんは子どもであり、彼氏でもあり、おじいちゃんでもあり、生きる糧だ。
「アジのために働いて、稼ぐ。下僕でも召使いでもいいので、怪我なく、お腹が空かない生活をさせてあげたい。そばにいてくれてありがとうの気持ちでいっぱいです」
20年間、どの瞬間にも愛を注ぎ、アジくんと生きてきた飼い主さん。ふたりの穏やかで尊い日々が、1日でも長く続きますように。
(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)