名前はまだない酒づくり、2年目のスタート~鉄爺里山へ行く#9
12月中旬には丹波篠山市を拠点とした里山プロジェクト「ミチのムコウ」で育んだオリジナルの日本酒「ユメノツヅキ」が晴れて蔵出しとなり、一般販売分はわずか3日で完売、発泡性のその飲み味についても大好評を得た。
「100人ではぐくむ名前はまだない日本酒」と名付けられたこのプロジェクトの2年目の取り組みがこのほどスタートラインに着いた。参加費は一口3万円で2月1日から申し込みを受け付けている(150口)。参加者は、田植えから収穫までの作業を体験できるほか、出来上がった日本酒の4合瓶6本が贈られることは1年目と同じだ。
1年目の昨年は5月、酒米五百万石の田植えに始まり、8月末から9月にかけての稲刈り、乾燥、脱穀を経て地元の狩場一酒造に専用のタンクを設けて酒を仕込んだ。並行して名前のない酒に名前を与えるべく参加者からネーミングを募集。その結果選ばれた名前が「ユメノツヅキ」だった。
出来上がった酒のグリーンの透明ボトルには白い醪(もろみ)が澱んでおり、瓶内では二次発酵が続けられていた。そのため、開栓には細心の注意が必要で、いきなり栓をひねろうものなら中身が噴き出してしまう。何度かに分けてじわじわと空気を抜くという儀式が必要となり、これもまた自分たちで作った酒を味わう瞬間への期待を高めてくれたものだ。
1年目の経験を生かして、2年目のプロジェクトにはいくつか新しいアイデアが盛り込まれた。ちなみに「ユメノツヅキ」は昨年のネーミングで、今年造られる酒の名前はまだ決まっていない。
今回はひとつのタンクから2種類の酒を醸し出すことになった。まずは前回と同じ発泡性のしぼりたての生酒として。これは今年12月には蔵出しされる。もうひとつは一般的に「ひやおろし」と呼ばれるもので、春先に一度火入れ(加熱殺菌)をした上で秋まで熟成させ、二度目の火入れはせずに蔵出しをする。同じ田んぼで獲れた米を原料に、同じタンクで醸された酒が、まったく違った味わいになって生まれ変わるのを今年の冬と来年の秋、2度にわたって味を比べ、楽しめることになる。
また1年目で好評だったオプション企画(5千円)「畔豆企画」は継続する。酒米を植えた田んぼを囲む畔に1人4株ずつ丹波篠山名産の黒枝豆の苗を受け、草刈りなどを体験して育てながら秋の収穫を待つ。
このオプションに2年目の今年は「コメ部」(5千円)が新たに加わった。酒を飲まない人、子供でも楽しめるように食用米を植え、育てて収穫し、採れたての米を楽しもうという企画だ。
1年目の昨年、様々な作業体験も含め、何度神戸市の自宅から丹波篠山に通っただろう。一般道を走って50キロ弱、ほぼ狂いなく1時間10分のドライブだ。神戸市郊外の住宅街から徐々に移り変わっていく車窓の風景を眺めているだけでも穏やかで楽しい時間を過ごせた。現地に着けば、竹やぶに入り込んでの竹の切り出し、鎌を携えての草刈りなどの作業にいそしむ。同じような岡山県の里山で生まれ育った自らの脳と血管に何かがよみがえる感覚が時間を忘れさせてくれた。
昨年は大発生したカメムシに五百万石の稲穂が荒らされる様子に何とも言えない無力感を感じたことも忘れられない。今年は何が待っているのだろうか。田植えの季節が今から待ち遠しい。
※詳細は「ミチのムコウ」のホームページ(https://michinomukou.org)を。
プロジェクトの申込フォームはhttps://forms.gle/EYvpPaXP9L67a4um9
問い合わせはメール(michinomukou2022@gmail.com)で受け付けている。
(まいどなニュース特約・沼田 伸彦)