店主亡き後も周辺に住み続け、愛された神戸の名物猫 ナンダスが天国へ「街のみんなを癒してくれた」
地域猫として愛されていた神戸市垂水区塩屋の名物猫・ナンダスが、1月12日に地域住民に見守られながら息を引き取りました。近隣からは悲哀の声があがっています。
■飼い猫から自然に地域猫に
8年ほど前までは喫茶店を営む店主の飼い猫だったというナンダス。店主と常連客が言い合っていたギャグが名前の由来です。
その後、喫茶店の店主が亡くなり、近隣の花屋でまた飼い猫として暮らしていました。その花屋では飼い主が高齢のため世話が困難に。自然と喫茶店があった路地に住み着いたといいます。
「花屋さんの手から離れるときにナンダスを引き取りたいという人が何人もいた。でも猫は人よりも場所に懐くというように、別の家に行っても最終的にはここ(喫茶店前の路地)に戻ってきちゃう。自然に地域猫として愛されるようになっていた」。そう話すのは喫茶店の隣に豆腐店を構える店主の田仲秀盛さん(73)。
ナンダスをずっと近くで見てきた田仲さんは、「人に怯えず堂々として、肝の据わった性格でしたね。20年近く生きて、病気もしなかった」と目を細めます。
野良猫となったナンダスは、「ナンちゃん」という愛称で地域住民から多くの愛を注がれてきました。食料や夏場や冬場の居所の用意など、常に田仲さんをはじめとする近隣住民がナンダスを気にかけており、去勢時の手術費用なども有志が出していたそうです。
住民がナンダスの異変に気付いたのは1月6日のことでした。歩行中に倒れたりと様子がおかしく、急いで動物病院に。このとき推定20歳を超える高齢であり、獣医からは為すすべがないと告げられます。最期は住み慣れた場所でと同月11日に退院。施設の一角を借りて田仲さんらがナンダスを見守るなか、心配した近隣住民が窓からナンダスの様子を見に来たといいます。
そして翌12日、ナンダスは老衰のため早朝に息を引き取りました。その後、近くで八百屋を営む澤勝弘さん(79)が、「周囲の人たちからはその後を心配する声もあった。そういう人たちにナンダスの最期を知ってもらえるように」とナンダスの祭壇を設置。
すると、訃報を知った人たちが次々と手を合わせに祭壇を訪れました。祭壇に所せましと並べられる猫用のお菓子や食べ物、続々と増えていく献花。ナンダスへの想いを募るノートには「ありがとう!大好き」「ナンダスが街のみんなを癒してくれてました」とメッセージが寄せられています。
「ノートには子どもの字で気持ちが綴られていたり、地元以外にもたくさんの方が祭壇に手を合わせに来てくれている。ノートを見ていると目頭が熱くなる」と澤さん。
続けて、「ナンダスは街のアイドルだったね」と語りました。取材中にも子どもからお年寄りまで幅広い世代の住民が通りがかり、ナンダスの祭壇を見つめていました。
■番組がきっかけで一躍有名に
ナンダスが地域猫として有名になったのは、動物写真家として世界的に有名なカメラマン・岩合光昭氏の番組『岩合光昭の世界ネコ歩き』(NHK)で紹介されたことがきっかけです。
神戸にフォーカスした回は2022年2月に放送され、神戸の名物猫数匹が番組内で紹介されました。
『岩合光昭の世界ネコ歩き』神戸編で番組ディレクターを務めた岩田公平さんは収録を振り返り、「駅へとのびる商店街の細い路地を慌ただしく行き交う塩屋の人たちが、いつもナンダスが日向ぼっこするお豆腐屋さんの前になると足元を気にかけて、ナンダスに代わる代わる挨拶していくのがとても印象的でした。ナンダスも『ニャー』とお返事。この場所や街の人々が大好きなことを感じる、愛らしい声なんですよね」と語ります。
さらに、「ナンダスを撮影をしていると、多くの人たちがフレンドリーに寄ってきてくれて、自慢の家族を紹介するかのようにナンダスとのエピソードをしてくれるんです。
ある時、ナンダスが見当たらず撮影できずに困っていると、『私が呼べば絶対顔を出すよ』なんて自信満々に言ってくれる人が一人ばかりか、二人、三人と現れて、数人でナンダスを探し歩いたのは面白く、ナンダスと街の人の関係を感じる出来事でした」と塩屋の人々の温かいエピソードを明かします。
また、同番組の神戸編ではナンダスのほか、神戸大学のキャンパスで学生や職員から愛されていたゴメス(メス、三毛)も紹介。その放送から半年後、ゴメスは神戸大学に住み着いて10年ほど経った昨年8月9日に推定20歳~24歳(人間でいう96歳ほど)で息を引き取り、その約5か月後にナンダスも惜しまれながら旅立ちました。
そんな神戸の愛すべき猫たちとふれあった岩田さんは、「神戸のネコたちは、高齢にも関わらずとても元気で、皆愛らしい表情。神戸の人たちから沢山の愛をもらっているからなんだと感じました。ナンダスやゴメスのような幸せなご長寿ネコが神戸の街に1匹でも多く現れて、少しでも長生きできることを願っています」。
(まいどなニュース・門倉 早希)