全盲・甲状腺機能低下症の高齢保護犬 「ぜひ家族として迎え入れたい」と申し出た家族の思い
2019年、保護犬の譲渡活動を通じ、「殺処分ゼロ」の実現を目指すピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)。この団体に引き取られたおじいちゃんワンコがいました。その名はチャード。推定11歳のおじいちゃん犬で、その様子からおそらく10年ほどの歳月の間、一定期間を人間と一緒に暮らしていた様子。
性格はやや頑固であるものの、散歩が上手でご飯も大好き。だけど、ご飯の順番待ちは耐えられないという、チャーミングなワンコですが、同団体で保護した際の健康検査で、持病を抱えていることがわかりました。
■元飼い主に「助けてほしい」と訴えていたのではないだろうか
チャードは全盲で、甲状腺機能低下症の持病を抱えていることが判明しました。
スタッフはチャードと一緒に過ごすうちに、保護される前の生活を想像することがありました。
「前の飼い主に適切な治療はしてもらっていたのだろうか」「どれほど痛く、つらかっただろうか」。そして、飼い主と離れ離れとなった生活の中でも諦めることなく、ずっと飼い主に「『助けてほしい』と訴えていたのではないだろうか」と……。そう考えるとスタッフは、あまりに悔しく、悲しい気持ちになることもありました。
しかし、当のチャードは同団体に来てから少しずつ元気を取り戻していきました。一見では全盲とは思えないほど、とても上手に散歩をし、前述の通り、ご飯もよく食べてくれます。そんなチャードの元気な姿は、スタッフにとっての癒しにもなったと言います。
■「ぜひチャードを家族として迎え入れたい」
これまで引き取ってきた保護犬の中でも、高齢犬、持病のある犬は譲渡先がなかなか見つからず、同団体の施設「老犬ハウス」などで過ごすことが大半でした。スタッフは、チャードに新しい里親さんが見つかるといいなと願う一方で、高齢犬で持病を持つことから現実的には譲渡は難しいとも考えていました。
しかし、2022年1月、同団体のホームぺージに1件のお問い合わせありました。以前、全盲のワンコと一緒に暮らしていて、少し前に最期まで看取ったという里親希望者さんでした。その方は、先住犬との思い出をいろいろとスタッフに話してくれました。その上でスタッフがチャードの持病なども全て話をし、紹介すると、里親希望者さんは「ぜひチャードを家族として迎え入れたい」と言いました。
■チャードは見事「ずっとの家族」を見つけた
高齢犬にして、全盲・甲状腺機能低下症という持病を持つチャードでしたが、この里親希望者さんのもとで、見事第2の犬生をおくることになりました。
里親さんの自宅に迎えられたチャードは、まず新しい住まいの匂いをクンクンと嗅ぎ回りました。そしてしばらくすると、ホッと安心したのか、新しい里親さんのひざの上にチョコんと腰掛けて、ウトウト。緊張しながらもホッとしたような様子でした。
同団体にいた頃のチャードは、仲間のヤンチャな子犬たちがワイワイ遊んでいると、「ほら、静かにしなさい!」と、なだめるようなとても頼もしいおじいちゃんでした。そんな光景を思い返すと、実は同団体で過ごした数年間はチャードにとっては、冒険のような日々で「今日やっと、お家に帰れた」というような気持ちになっているのかもしないと思いました。
新しい里親さんは「持病があっても、老犬でも関係ありません。その子がどんなことを抱えていても関係なく私たちの家族です。チャードがお出かけしたいなら一緒にお出かけして遊び、チャードがお家で休みたいようなら、ゆっくり過ごす……チャードの気持ちを最優先にし、暮らしていきます」と話してくれました。以降も続く、チャードの治療は同団体による「ファミリーサポート制度」 を利用し引き続きフォローしていくとのこと。
そして、最後に同団体のスタッフはこう語ってくれました。
「心優しい里親さんに巡り会えて、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。障害や病気を抱えているために人間の手に負えなくて『殺処分』となってしまうワンコはまだまだいます。そういったワンコたちを、今後も1頭でも多く救う道を進み続けたいと思います」
(まいどなニュース特約・松田 義人)