「これからどうなっちゃうの?」移動の車内でおびえていた元野犬の子ども 保護犬のいる家庭で幸せに
保護犬の譲渡活動を通じて、「殺処分ゼロ」の実現を目指すピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)。これまでにたくさんのワンコの保護を行なってきました。
同団体がワンコを引き出す動物愛護センターには、様々な事情を抱えるワンコがいますが、広島県の場合は野犬が9割、元飼い犬が1割くらいと言われています。
2020年11月に同団体に保護されたメスのワンコ・ニコタンも元野犬の子犬で、愛護センターの犬舎の中で、恐怖のあまり隅っこのほうで小さく固まっていました。同団体が保護し、移動する車内でも「私これからどうなっちゃうの?」と言わんばかりに、じっとスタッフの表情を見つめていました。
■「警戒心が強い」元野犬のニコタン。実は明るい性格だった
元野犬の場合は特に、「人間に対して警戒心が強い」というのは、珍しいことではありません。それまで過ごしてきた自由な環境とは大きく変わり、人間と接しなければならないわけで、その恐ろしさから部屋などの隅っこで固まってしまうワンコも多く、ニコタンも当初はことさら「人の動き」に過敏に反応している様子でした。
同団体では保護後、持病などがないかを調べるため検疫シェルターにニコタンを連れていくことにしました。この際も、ニコタンはとにかく恐ろしそうな表情を浮かべ、隙あらば逃げ出したそうな様子でした。
検疫期間を経て犬舎に入ったニコタンですが、最初の数日は緊張が解けることはなく、人間が近くにいるとご飯を食べませんでした。抱っこはもちろん、撫でることもできず、とにかく超警戒の様子。スタッフが、先輩ワンコとニコタンを一緒に過ごしてもらう時間をつくろうにも、最初は犬舎から出ることすらしませんでした。
しかし、スタッフの根気強い対応によって、時間の経過とともに少しずつニコタンはリラックスするようになりました。さらに、先輩ワンコともコミュニケーションが取れるようになり、ニコタンの表情や動きが和らいでいく姿を前に、スタッフは胸をおどらせ、とても喜んだと言います。
さらに、リラックスすることに合わせて、ニコタンは本来の姿も見せてくれるようになりました。実はとにかく元気一杯で、明るい性格のワンコでした。そして、ニコタン自身が「人間は怖いとは限らない」と理解したのか、スタッフにもどんどんコミュニケーションをとってくれるようになりました。
■元野犬の保護犬同士・ケビンとニコタン初めてのお見合い
後に、同団体ではニコタンの譲渡先を探すことにしました。約半年ほどの時間を費やしましたが、ついにニコタンに里親希望者から連絡がありました。
連絡をくれたのは、かつて同団体にいた元保護犬・ケビン(元の名はマラカス)の里親さんでした。ケビンが同団体にいた頃、ニコタンと一緒に過ごしていた経緯もあり、スタッフは「もしかして最高のマッチングかもしれない」と思ったと振り返ります。また、当初の里親さんが「最近、ケビンが他のワンコを求めているような気がするんです」と言っていたことからも「ニコタンが良いのではないか」と思ったと言います。
果たして、ニコタンはかつて一緒に過ごしていたケビンと再会。お互いにちゃんと覚えていたのかとても嬉しそうな様子。
また、里親さんから見たニコタンは、お母さんが実家で飼っていた先代のワンコにそっくりでとても親近感が湧いたとのこと。結果、怖がりなニコタンの性格も全てを受け止め、家族の一員として迎えようと決めました。
■相棒ができたことで嬉しそうなケビンと、すぐに馴染んだニコタン
一定期間のトライアルを経て、正式に里親さんの家族に迎えられたニコタン。ケビンと一緒に生活できることに加え、優しい里親さんのコミュニケーションに安心したのか、あっという間にご家族の一員になれたそうです。
里親さんは、かつてケビンを希望した際、同団体のスタッフ「野犬として生まれ育った子を迎えるのが初めてなんです。私たちでも迎えることはできますか?」と質問していたと言います。
しかし、元野犬であっても、元飼い犬であってもピッタリの里親さんに出会えれば、人間から愛されることの喜びや幸せ、安心感を感じることができます。ニコタンもケビンも、それまでは人間から愛されることがなかった命ですが、第2の犬生では優しい里親さんのもとで、思う存分幸せな生活をおくってほしいですね。ニコタン、卒業おめでとう。ケビンとずっと幸せにね。
(まいどなニュース特約・松田 義人)