フィラリア、脳障害、心不全… 引き取り手がない高齢保護犬 24時間体制で見守ったスタッフの思い「ご飯をたべてくれるだけでも幸せ」

保護犬の譲渡活動を通じて、「殺処分ゼロ」の実現を目指すピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)。これまでにたくさんのワンコの保護・譲渡活動を行なってきていますが、中には、なかなか譲渡先がみつからない、譲渡するのが極めて難しいワンコもいます。

例えば、重い障害のあるワンコ、持病があって普通の生活ができないワンコ、年をとったので動けないワンコ、年齢のせいでいくつもの病気を抱えているワンコなど……。

こういったワンコは、残念ながら譲渡することが難しいのが現実ですが、そうであっても、同団体では施設内で適切な療養などを続け、その一生を守り続けます。この活動は、スタッフの努力だけでなく、「ワンだふるファミリー」となった一般支援者からの寄付などの支えによって実現していますが、今回紹介するゴーランというワンコもそのうちの一頭でした。複数の深刻な病気を抱えたワンコですが、少しでも穏やかで幸せな日々が送れるよう、スタッフや獣医師さんのケアを受けながら生活しをています。

■複数の病気や態度から推測できる「元飼い犬」だったゴーラン

ゴーランが動物愛護センターを経て同団体に来たのは、2017年12月。保護した時点ですでに推定10歳で、高齢の域に入るおじいちゃんワンコでした。とても穏やかな性格で、マイペースすぎるところもありますが、この年齢にして「ご飯が大好き」といったところが、かわいく感じるワンコでもありました。また、ゴーランは人間に対して警戒心がみられないので、おそらくは人間と一緒に暮らしていたワンコではないかと思われます。

そんなゴーランですが、同団体に来て間も無く、健康状態の検査を行ったところ「慢性フィラリア症」「脳障害」「心不全」など、いくつもの病気を抱えていることが分かりました。これだけの病気を抱えながら野生で生き続けるというのは決して容易なことではありません。これらのことからも、やはりかつて飼い主さんがいたワンコではないかと思われました。

■少しでも苦痛を取り除くケアを続ける

前述の持病や高齢犬であることから、現在のゴーランは同団体の「老犬ハウス」という施設で療養しながら暮らしています。そして、少しでも身体の苦痛を取り除くための治療を続けています。その一つがフィラリアを手術で取り除くことでした。

環境省によるフィラリアの解説は以下になります。

「感染幼虫をもった蚊に人やイヌが刺されると、体内に感染幼虫が侵入します。

<中略>

イヌの場合、軽症例では軽度の咳程度ですが、中等症例では貧血、皮毛の粗剛、栄養低下、運動忌避、呼吸困難、運動後の失神等がみられます。さらに症状が進行すると、腹水の貯留、心肥大、栓塞、皮下浮腫、諸臓器のうっ血などの重度の循環 器系の障害を起こし死亡します」

つまり、蚊に刺されたことが原因で、感染幼虫が体内に入り、症状が進むにつれて死亡に至る恐ろしい病気です。ゴーランを検査した時点で、その体内に寄生していたフィラリアは、数10センチにまで成長していました。さらに、そのフィラリアが原因で併発していた持病もありました。

これらのことから保護当初のゴーランは、体全体が痛々しくむくんでいました。しかし、同団体によってフィラリアの手術をし、術後には丁寧なマッサージなどのケアを行い続けたおかげで、フィラリア症が原因と思われる、体のむくみが少しずつ改善してきました。

ゴーランはこの手術を経て後遺症、その他数多くの持病と闘いながら年を重ねていきました。ところが、一時体調が良くなった散歩の際、元気で楽しそうに、そしてマイペースに歩くゴーランを見てスタッフは「本当に良かった」と思いました。また散歩ですれ違う方から「お利口ですね」と声をかけられるようにもなり、同団体施設の近所では、ちょっとした人気者にもなっていました。

■「ゴーランがご飯を食べてくれる姿」だけで幸せを感じる

ところが、一時期から再びゴーランの持病が悪化し、以来、寝たきりの状態が続くようになりました。獣医師とスタッフの連携のもと、酸素濃縮装置での呼吸補助を行い24時間体制で、カメラで容態をモニタリングしサポートを続けました。

あれだけ大好きだった散歩は自分の足で歩くことができなくなり、バギーや抱っこで出かけるようになりました。さらにスタッフが体をマッサージしたり、ご飯は腎臓食をペーストにして与えたり、毎日の排尿のお手伝いも行いました。

人間の介護と同様、老犬の介護も相当大変ではありますが、しかしゴーランはスタッフはもちろん、他のワンコ仲間にとっても家族です。「老犬ハウス」のスタッフは、たとえお世話が大変でも、「ゴーランがご飯を食べてくれる姿を見るだけで幸せを感じる」と言います。

また、当のゴーランもスタッフの姿が見えると、表情が豊かになり、持ち前のかわいらしい瞳とピンとたった耳で、なんとか気持ちを伝えようとしてくれました。こういったゴーランが見せてくれる感情もまた、嬉しい瞬間だとスタッフは言います。

ゴーランは最期までがんばりましたが、2021年8月、スタッフに看取られながら虹の橋を渡りました。スタッフはゴーランの最期に涙しながらも「これからは天国で美味しいごはんを思いっきり食べて、穏やかに過ごしてね!」と伝えました。

ピースワンコは、保護犬の譲渡活動を通じて「殺処分ゼロ」の実現を目指しています。しかし、仮に譲渡がなかなか難しいワンコであっても、ピースワンコのスタッフはその命を最期まで守りぬくべく、今日もお世話をし続けています。

(まいどなニュース特約・松田 義人)

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