殺処分直前での保護、里親さんの死去、重篤な病気が発覚…それでも人間が大好きだった保護犬・ナギの波乱万丈の犬生

動物愛護センターなどで保護されるワンコは、バックボーンや年齢などが様々で、全てのワンコが健康体とは限りません。2019年7月に広島県動物愛護センターから譲渡団体に引き出されたワンコ、ナギも重篤な持病を抱えるワンコでした。

■譲渡先の里親さんが死亡。再び団体に戻ってきたナギ

保護当初のナギは、推定まだ1歳半くらいの若いワンコでした。

ナギを引き出したのは、保護犬の譲渡活動を通して、ワンコの殺処分ゼロを目指す団体、ピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)。同団体が引き出した後、まだ若かったことと、もともとの穏やかな性格もあり、すぐに譲渡先が見つかり、早々に団体を卒業していきました。

しかし、迎え入れた里親さんが突然亡くなったことから、ナギは再びピースワンコへ戻ってくることになりました。

しばらくはいつも通り明るく元気に過ごしていたナギですが、2020年に「巨大食道症」を発症。何らかの要因で食道の一部の筋肉が動かなくなり、食事をしても、胃へ運ぶことができず、結果として嘔吐してしまうという恐ろしい病気です。このことで栄養の摂取が難しくなりました。

固形物だと嘔吐してしまうため、スタッフは食事をフードミキサーなどで嘔吐しにくいペースト状に加工し、ゆっくりと与えることにしました。

食事中の姿勢にも注意し、ナギの前肢を持ち、立ったような状態にしてご飯を与えます。さらに食後には、床に対し垂直の姿勢を保つことで嘔吐を防ごうとリュックキャリーを使いました。おんぶされることで、食道と胃がまっすぐになることと、人間に触れられている安心感からかナギは気持ちよさそうに眠ってしまうこともありました。

こういったスタッフの懸命なケアによってナギは少しずつ体重も増え、適正体重の10キロほどに持ち替えしました。ナギはまだ若いこともあり、食欲は十分あります。後にはペースト状のごはんでは少々物足りない様子を見せるほどになりましたが、しかし病気が治ったわけではありません。思うように食べられないナギの意識を、食事以外に向けてもらえるよう、スタッフは散歩などでその食欲を発散させるなどの工夫をしました。

■ナギの呼吸が荒くなり始めた…

前述の通り、ナギの性格は穏やかで人懐っこく、人間によく甘えるワンコでしたが、人間がそばにいると、その安心感からなのか「嘔吐の量が減る」ことが分かりました。

このため昼間はドッグランの受付で人間と一緒に過ごし、夜間はスタッフが自宅へ連れ帰り、ナギを一人ぼっちにしないよう努めました。

しかし、同年秋口になると、ナギの調子がどうも優れない日が続きました。大好きなはずの散歩でも歩こうとせず、「ハァハァ」と苦しそうな荒い呼吸をします。呼吸が苦しくなるのは、血中の酸素濃度が低くなるためで、肺の機能が低下し酸素をきちんと取り込めていないからでした。

このため、1日に3度、SPO2(動脈血中の酸素飽和度)測定をし状態を確認。数値が極端に低いときは、酸素室へ向かうこともありました。嘔吐に対しても「ナギの体力低下を防ごう」とごはんの回数を3回に増やし、点滴も追加することにしました。

■わずか約4年の犬生で虹の橋へと旅立っていった

体調を崩しても、少し元気になると人間に甘えたがり、酸素室にいるときは「早く出して欲しい」と吠えることもあったナギですが、しかしだんだん、酸素室に入ってもそんな要求もせず、大人しいままになってしまいました。

そして、発作が増え、脳機能障害に付随した呼吸障害を発症してしまいました。さらに何回目かの発作を境に呼吸が停止。獣医師によって心肺蘇生が行われましたが、願いかなわず、ナギは虹の橋へと旅立っていきました。わずか約4年の生涯でした。

■波乱万丈の犬生、天寿を全うしたナギ

なんらかの事情で動物愛護センターに収容され、ピースワンコに保護されたナギ。すぐに里親さんが見つかるも、その里親さんが突然死亡。再び同団体に戻ったところで、重篤な病気が見つかり、苦しい生活を経て旅立っていってしまったナギ。波乱万丈の犬生だったと言わざるを得ませんが、しかし、それでも殺処分の淵から日常へと戻ることができ、同団体のスタッフ、同団体の支援者、そして亡くなった里親さんとの生活はきっとナギの心を癒してくれたのではないかと思います。

天国で亡くなった里親さんと再会し、ナギが再びあの明るい笑顔で過ごしていることを願うばかりです。

(まいどなニュース特約・松田 義人)

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