「せめて看取ってあげたい…」命の終わり迫るボス猫保護→3年がかりで警戒心解き、奇跡の回復 “撫でられ好きにゃんこ”に変身中

元野良猫のボスくんは、その名前がよく似合う勇ましい見た目。しかし、人や猫を絶対に傷つけない優しい心の持ち主。

飼い主のはなさんは月日をかけて、ボスくんを保護。口から血のよだれを出し、疥癬も患っていたボロボロのボスくんを看取る覚悟で迎え入れたが、嬉しいことに体調は回復。

家や人に慣れてくれるまでには3年もの月日を要したが、ボスくんは見た目とギャップのある愛くるしいソプラノボイスを披露しながら、家猫生活を楽しんでくれるようになった。

■看取るつもりでボロボロの野良猫を保護

ボスくんを初めて見かけたのは、2017年冬。最初は放し飼いされている子だと思っていたが、1年後の2018年冬、野良猫であることに気づく。冬のある日、窓辺で騒ぐ愛猫たちのもとへ行くと、頭に雪を被ったボスくんが家の中を覗いていたのだ。

ご飯をあげると、ボスくんは3回もおかわり。翌日からボスくんは窓の外で、1日4回ほどご飯の催促をするようになった。

その姿を見て、はなさんは徐々に警戒心を解き、保護をしようと決意。まず、ボスくんに温かい寝床を…と思い、プチプチでくるんだキャリーケースを設置。中にはフリースを敷き、ホッカイロを入れた。

だが、保護は難航。春には人の動きが活発になり、ボスくんの警戒心が強まったため、断念。秋は一度、キャリーケースのドアを閉めることができたが、ケージに移す際に逃げられてしまった。

「もうご飯を食べにきてくれないかも…と心配しましたが、翌日には少し警戒しつつも来てくれたので、ホっとしました」

その年の冬には、寝床用のキャリーケースを衣装ケースに変更。咳をするようになったボスくんを目にするたび、はなさんはなかなか保護できないことを歯がゆく思った。

「春には、また警戒心が強まりました。真夏は日よけを作って、毎日ご飯をあげていましたが、ある日、姿を見せなくなってしまったんです」

再会できたのは、2週間後。痩せこけ、口回りには血のよだれが見られ、首回りはヒゼンダニによって起きる皮膚病「疥癬」によって血まみれ。

「他の強い猫に追い払われたのか、命からがら戻ってきたという感じ。その時は、山盛りご飯を4回食べました」

秋口、ボスくんはご飯が食べられず、痩せていった。命の終わりが迫っていると感じたはなさんは、体が回復しなかったとしても看取ってあげたいと思い、保護団体に捕獲器を借り、再び保護に挑戦する。

すると、驚くべきことに15分ほどで捕獲に成功。長く関わる中で自分を信じるようになってくれたボスくんの優しさに、はなさんは心打たれた。

■口内炎治療をしつつ、家慣れ・人馴れ訓練に励んだ日々

動物病院では、重度の口内炎を患っていることが判明。炎症は、喉の奥にまで及んでいた。

「推定4歳くらいだとも言われました。外猫でここまで生き延びるのは珍しいと。」

獣医師さんからは「慣れないようなら、外に戻すという選択肢も」と言われるほど、ボスくんは大暴れ。はなさんは長年、外で暮らしてきたボスくんが家猫になって感じるストレスの大きさを想像し、“お互いの選択肢のひとつ”として、さくら耳のカットをしてもらった。

威嚇や猫パンチが激しかったため、お迎え後は3段ケージで過ごしてもらうことに。先住猫たちに配慮し、最初の1カ月は別室にケージを設置した。

「4カ月ほど、ケージで過ごしてもらいました。その間に、汚れた被毛を少しずつ拭き、ブラッシング。猫パンチや激しい威嚇があり、なかなか大変な作業でした」

部屋のドアを閉めた状態でケージから出る練習をスタートしたのは、お迎えから5カ月目のこと。この頃には、ケージがボスくんにとって安心できるホームになっていた。

「夜は目が行き届かないのでケージを閉め、私は隣で就寝。この頃からケージ越しに触らせてくれるようになりました」

家慣れ、人馴れと同時に行っていたのが、疥癬と口内炎の治療。特に口内炎はひどく、ドライフードだけでなく、ウェットフードやペースト状のフードも食べられないほどで、1カ月おきに抗生剤の注射を打つことになった。

だが、それでもお皿からフードを食べてくれなかったため、はなさんはペースト状のフードを手のひらに乗せてあげることに。

「初めは威嚇され、手も出されました。でも、次第に手のひらに乗せたペーストご飯だけは食べてくれるようになりました。他のご飯は食べないのに…と不思議でしたが、生きたいという思いから、食べてくれたのかなと思っています」

その後、4軒目にかかった病院で処方された抗生剤や歯茎への塗り薬が効き、ボスくんはドライフードも食べられるように。

「今でも毎日、歯茎に塗り薬を塗布し、3~4カ月おきに抗生剤投与をしています。もし、お薬が効かなくなったら全抜歯の手術です」

保護から2年目。ボスくんはようやく、ケージの中に逃げ込まず、部屋を自由に歩ける状態になれた。次第に心を許すようにもなっていき、保護から3年目にはそっと触らせてくれるように。

今では体をこわばらせることもなくなり、近くに座って撫で待ちをしたり、へそ天を見せてくれたりすることも。

「保護後2年間は目を三角にして、近寄るなオーラ全開でしたね。でも、通院で保定される機会が多かったのに、人を怪我させることは一度もありませんでした」

今でも警戒心は強く、真正面から近寄ると逃げてしまうが、頭や喉を撫でている時のうっとり顔を見るたび、はなさんは「よく我が家に辿り着いてくれた」としみじみ思い、その命の強さに感謝をする。

「ボスは雷や地震があっても、パニックにはならない。きっと、お外のほうが怖いことが多かったのでしょうね。同居猫たちがくつろいでいるのを少し離れたところから見守るボスを目にすると、猫と一緒にいるのが好きなんだなと思います」

同居猫の中でも、ボスくんが特に大好きなのは水頭症のサビちゃん。

愛情を頭突きで表現するものの、逃げられ、しょんぼりすることもあるそう。

「我が家で一番、空気の読めない男と言われています(笑)。でも、猫の縦社会はしっかり身についていて先住猫に従い、1歩引く賢さもある。我が家で1番強いでしょうが、他の猫に怪我をさせないのがすごいです」

人の手は自分を撫でてくれるもの。そう知ったボスくんはこの先、もっと人好きにゃんこになってくれそうだ。

(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)

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