歓迎!妨害!取材拒否!? 選挙で候補者と直接話して垣間見えた“実像” 「政治家は私たちの代理人」「軽いノリでもどんどん会いに行くべき」
海外メディアの情報に精通する東大中退ラッパーことダースレイダーさんと、新聞14紙を毎日読み比べしているニュース時事能力検定1級芸人ことプチ鹿島さんという異色のコンビが“ヒリヒリする”選挙の現場をアポなし取材したドキュメンタリー映画「劇場版 センキョナンデス」が公開され、「選挙ってこんなに面白いものだったのか」と各地で熱い反響を巻き起こしている。2人は「政治家はあくまで僕らの代理人で、偉くもなんともない。それを選ぶのが選挙なんだから、皆さんもどんどん会いに行って、どんどん話を聞いたらいいんです」と話す。
2人が取材したのは2021年衆院選の香川1区と、2022年参院選の大阪、京都選挙区。香川1区は立憲民主党の小川淳也氏の17年に及ぶ活動を追った映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」(2020年/大島新監督)で全国的な注目を集めた選挙区であり、大阪、京都は維新と他党がしのぎを削る激戦区である。
街頭で出会った候補者本人や陣営スタッフに「情勢はどうですか」「手応えはどうですか」といかにも野次馬然とした軽い調子で声を掛けていく2人。面白いのは、ただそれだけのことなのに、陣営によって反応が全く違うことだ。
完全オープンマインドで事務所まで招き入れてくれる陣営もあれば、慇懃無礼な態度で取材を拒否する陣営、対応自体はにこやかだが「映像を使うなら党本部に連絡を」と釘を刺す陣営も。もっと言うと、香川1区の平井卓也氏(自民党)陣営の取材では、街頭演説の撮影中に「屈強なおじさん」(byプチ鹿島さん)たちから「お前、許可ないやろ」「どこの報道局や」「迷惑行為やな」などと凄まれ、撮影を妨害されるというまさに“ヒリヒリする”やりとりが繰り広げられた。
「候補者の人柄や陣営の雰囲気なんて、こうやって実際に見てみないとわからない」とプチ鹿島さん。ダースレイダーさんも「目の前で喋っている人を見る、そこに集まっている人を見る、手伝っている人を見る…。選挙期間中は、本当にいろいろな人たちがこの社会をつくっているんだということを凝縮して目の当たりにすることができます。選挙取材を通じて、普段はあまり意識しないけど、僕らもこういう社会に生きているんだということを痛感させられました」と振り返る。
■実際に“選挙活動”をやってみた!
当初は2人のYouTube配信番組「ヒルカラナンデス(仮)」のスピンオフ企画という位置づけだった一連の選挙取材だったが、「なぜ君-」の大島監督がプロデューサーとして参戦し、まさかの映画化。東京での封切りを控えた先月11、12日には、本物の選挙カーに乗り込んで都内を街宣するというキャンペーンを行い、話題を振りまいた。
プチ鹿島さん:「作品に自信を持っているからこそ、1人でも多くの人に知ってもらいたいと思いました。それはおそらく、選挙で自分の思いを伝えたい政治家と同じ気持ちです。どこへでも行って、誰とでも話をしたかった。逆に言えば、取材で声を掛けられて逃げまくる、話を誤魔化す候補者のことがあらためて信じられなくなりました。もしかしたら自分の政策に自信がないのかなと思っちゃいましたね」
「それにしても、自分の名前を連呼して、自分に票を入れてくださいと言える政治家のメンタルはすごい。僕らは2日間ですっかり疲れちゃった(笑)」
ダースレイダーさん:「やってみてわかったのは、選挙活動がめちゃくちゃ大変だということ。分刻みのスケジュールで都内の街宣に適した場所を回り、商店街などを練り歩いたんですが、予告した到着時間ピッタリに着くには、ものすごい調整能力が求められました」
「もうひとつ付け加えると、名前を連呼してばかりの選挙カーはとかく『うるさい』と嫌われがちですが、実際に走っている車の中からは細かい話をしても全然伝わらないんですね。まずは『選挙をやっていること』『こういう候補がいること』を知ってもらうため、短いフレーズの連呼になるのはある程度仕方がないんだということが、実感として理解できました」
■最初は軽いノリでもいい
映画の中盤、参院選取材中に安倍晋三・元総理の銃撃事件が発生。「選挙は祭りだ!エモいぞ!!」と、常に笑いを交えて明るく展開していた映画のトーンも急転し、後半は「開かれた選挙制度」の存続を危惧する沈痛な空気が重く立ち込めていく。
ダースレイダーさんは言う。
「個人的には日本は民主主義社会としてまだまだだと思っていますが、どんな候補者であっても街頭に出て、集まってきた人に自分の考えを伝えることができる選挙制度に関してはよくできていると思います。この制度が維持されているうちに、私たち有権者がちゃんと『主権者』になることが大切なのではないでしょうか」
だからこそ、「軽いノリでもいいからまずは選挙に参加してみよう」とプチ鹿島さんは提案する。
「選挙の現場には、人生をかけた人たちの喜怒哀楽が詰まっています。それって、他のジャンルではなかなかないことなんですよね。それを周りの人の熱気も含めてリアルに体験できる。最初はその程度の感覚でいいと思います。『意識高い』とか『小難しい』などと敬遠せずに、できるだけたくさんの候補者の言うことに耳を傾けてみてください。きっと面白いですよ」
「劇場版 センキョナンデス」は全国の劇場で順次公開。2人は精力的に全国行脚し、舞台挨拶を続けている。最新情報は公式Twitter(@senkyonandesu)などで。
(まいどなニュース・黒川 裕生)