8人のマッチョがステージに 灘高で筋肉王コンテストが始まった日 42歳教員が体を張って伝えた筋肉愛
全国屈指の難関校、灘高校(神戸市東灘区)にボディビル先生がいます。体育教師の的場久剛(まとば・ひさたか)教諭(42)はボディビル全国大会に出場するマッチョマンです。
的場教諭に感化された生徒たちが筋トレを始め、灘校文化祭では筋肉美を競うコンテスト「筋肉王」が開かれるようになりました。なぜ全国有数の進学校でボディビルを始めたのでしょう。的場教諭に聞きました。
■柔道日本代表指導した一流ビルダーに触発 ボディビル大会「出れば見えるものがある」
「どうも、初めまして」。灘中学、高校の正門で記者を出迎えてくれた的場教諭はタンクトップ姿で深々と頭を下げました。短パンからのぞく太ももは大腿四頭筋(だいたいしとうきん)が隆起し、深い谷筋を生み出しています。
的場教諭は大阪・清風高校柔道部でインターハイや全国高校選手権に団体メンバーとして出場し、日本体育大学を卒業後、灘中学、高校に体育教員として赴任しました。灘校は柔道の創始者、嘉納治五郎が学校設立に関わっており、柔道教育に力を入れています。当時の灘校柔道部を日体大OBが指導していた縁もあり、後継の柔道指導者として灘校に迎えられました。
当時は柔道家で、ボディビルにそれほど関心はありませんでしたが、大学の先輩でボディビルダーのバズーカ岡田さんに触発され、筋肉増強に打ち込むようになりました。
バズーカ岡田さんは日本体育大学教授として教壇に立ちながら、ボディビルダーとして活躍し、柔道日本代表男子チーム体力強化部門長も務めた理論派ビルダー。2018年秋、灘校にバズーカ岡田さんを招き、生徒に講演してもらった際、的場教諭は「ボディビル大会に出ろよ。出れば見えるものがある」と勧められました。
筋トレを始めてみると、学生時代からのブランクを実感しました。「ベンチプレスが60キロも上がらず、悔しくて『上がるまでやってみよう』とやる気になりました」と振り返ります。灘校トレーニングルームには、「狂気の男」の異名を持つ名ビルダー合戸孝二(ごうど・こうじ)さんも使う「Uバー」のマシンがあり、バズーカ岡田さんが考案したUバーを備えたマシンで限界まで鍛錬に励みました。また、バズーカ岡田さんの助言を受けて、脚を鍛えるスクワットは脚幅、レッグカールはつま先の角度までこだわり、筋肉一つ一つを鍛え上げました。
■灘校生に「やってみたらええやん」
成果は肉体に現れました。山脈のように筋骨隆々に鍛えた肉体で、2019年に兵庫県クラス別(体重別)ボディビル選手権大会65キロ級で優勝。2020年、2021年はコロナや仕事の都合で出場できませんでしたが、2022年に関西クラス別ボディビル選手権65キロ級で4位に入賞し、全国大会出場権を得ました。
日本クラス別選手権ではユーチューバーのサイヤマングレートさんらと競い合いました。予選落ちし、「全国大会では上位選手の圧倒的な筋肉量にレベルの差を感じた。すべてをボディビルに捧げている人たちとの差でしょうか」とトップレベルとの力の差を痛感しつつ、「何位に入るかより、決めたことをしっかりやることが大事。またいつか機会があったら挑戦したい」と話します。
そして、的場教諭の筋肉愛は灘校生に伝わります。2018年冬、トレーニングルームで鍛錬に励んでいた的場教諭は生徒に声をかけます。
「やってみたらええやん」
翌2019年5月、灘校文化祭で筋肉美を競うコンテスト「筋肉王」が初めて開催されました。的場教諭に触発され、8人ほどの灘校生がステージに上がったのでした。
(まいどなニュース・伊藤 大介)