西日本豪雨災害で被災した家屋を解体中に保護された赤ちゃん猫 神社に引き取られ幸せに暮らす 先代を継いで2代目“名誉宮司”にも就任
岡山市北区にある伊勢神社は猫の「名誉宮司」がいる神社。初代の「あいちゃん」(オス)が8歳で虹の橋をわたった後、2代目を引き継いだのが、同じ茶白の「てんちゃん」(オス、3歳)だ。2018年7月、岡山県を襲った西日本豪雨災害。てんちゃんは、その10か月後、被害が大きかった倉敷市真備町地区のとある被災家屋を解体中に、当時生後1ヶ月で見つかり、保護された子。先代のあいちゃんのことや、てんちゃんが神社にやってきた経緯などについて、飼い主で権禰宜の見垣佳子さんに話を聞いた。
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西日本豪雨災害後の2019年5月、倉敷市真備町地区で被災した家屋を解体中、解体業者の方がその家のお風呂場のあたりに母猫と生後1ヶ月の赤ちゃん5匹がいるのを見つけ、知り合いの人に頼んで保護したそうです。てんちゃんはその中の1匹です。
保護した方が私の妹の友人だったこともあり、妹から「(てんちゃんを)家族に迎えてみてはどうか?」との話があったのですが、当時、先代のあいちゃんを病気で失って半年くらいしか経っていなかったので、「新しい子を迎えるにはまだちょっと…」と最初は断ったんです。
あいちゃんは元々、神社の裏にある家の人に飼われていたんですが、生後3ヶ月のころ、塀をよじ登って神社の境内に遊びにくるようになり、そのうち家に帰らなくって、飼い主さんから「神社が気に入っているようじゃから、そちらで飼ってください」と、譲り受けた子でした。
宮司の父(安邦さん、84歳)が拝殿で祝詞を奏上するとき、あいちゃんはいつも隣に座り、参拝者がやってくるとスリスリしていたので、氏子さんから「こんな猫は珍しい」とびっくりされて。それで2014年に、父があいちゃんを「名誉宮司」に任命したんです。そのときは新聞や雑誌などのメディアで取り上げられ、話題になりました。
以来、氏子や参拝者の方々から愛されてきたのですが、8歳になったばかりの2018年10月、動脈に血栓(血の塊)が詰まり、脚が麻痺してフラフラになってしまったんです。驚いて病院へ連れていくと、動脈血栓塞栓症とのこと。発症して3日後、天国へ旅立ってしまいました。急なことだったのでショックは大きく、それから心にぽっかり穴があいてしまって…。
半年が過ぎ、妹からてんちゃんをどうか?との話を断った後、当時生後1ヶ月のてんちゃんは新たな飼い主さんに貰われていきました。ところが、そこは妊婦さんのいるご家族で、次第にお母さんのつわりがひどくなり、まだ子猫だったてんちゃんの世話ができなくなってしまい、仕方なく保護主に返されたそうなんです。それを聞いて、それならもう、うちに来たらええがと、譲り受けることを決めました。
引き取ったとき、てんちゃんは歯が生えはじめ、哺乳瓶から離乳食へと移行する時期でした。おっとりとして達観した雰囲気のあいちゃんとは性格が真逆。幼いころはやんちゃで、目を離したら何をするかわからないという感じだったので、あいちゃんの小さい頃を重ね合わせつつ、てんちゃんのお世話で慌ただしい日々を過ごすことになりました。
次第にてんちゃんは、あいちゃんがしていたように、父が拝殿で祝詞をあげるときは父のそばでじっとしているようになりました。
室内飼いなので、ふだんは社務所の中のカウンターの上で寝ていることが多く、参拝者の方々と触れ合うのはガラス越しがほとんど。でも、てんちゃんを見つけるとみなさん、「かわいい!」と写真を撮っていかれます。毎日お参りにこられる方は覚えていて、足元にすりよっていってゴロンとお腹を出して甘えることも。3歳の誕生日を機に、父はてんちゃんを2代目名誉宮司に任命しました。神前ではじっと座っていないときもあるので、まだ修行中ではありますけどね(笑)
あいちゃんが旅立った後、社務所や自宅の中はシーンとして、父との会話も少なめだったんですよ。でも、自由奔放で甘えんぼうのてんちゃんがやってくると、話が弾んで賑やかになり、参拝に来られる方々も喜んでくれています。境内横の自宅庭にはあいちゃんのお墓があり、今もお花を持ってきてくれたり、手を合わせてくださったりする方もいます。
あいちゃんは私にべったりでしたが、てんちゃんは父のことが大好きなんです。夜も父のベッドで大の字になって一緒に寝ているので、高齢の父も幸せそう。こうして再び、猫と一緒に暮らせることに、感謝でいっぱいの日々なんです。
【施設名】「伊勢神社」
【住所】岡山市北区番町2-11-20
(まいどなニュース特約・西松 宏)