減らせ迷子犬!鼻紋をAIが解析して個体識別 愛犬家に話題のアプリ 開発元に聞いた
一頭ずつ異なる犬の鼻の紋様(鼻紋)をAI(人工知能)で解析して個体識別できるスマホアプリ「NoseID(ノーズ・アイディ)」が愛犬家の間で話題となっている。スマホのカメラを犬の鼻に近づけてスキャンするだけで犬を特定し、飼い主と連絡をとることができる日本初の画期的なしくみだ。愛犬が迷子になったときや災害など緊急時での活用が期待されており、昨年(2022年)5月に同アプリβ版(テスト版)がリリースされて以来、鼻紋登録数は4200頭(3月末現在)。開発元の株式会社S’more(本社・福岡市)代表取締役の澤嶋さつきさん(32)は「ワンちゃんと飼い主さんがより安心して自由に暮らせる社会を実現していきたい」と意気込んでいる。
「世界で一つだけの鼻」1万頭登録をめざす
犬の鼻の紋様(鼻紋)は、人間の指紋のように成長しても形が変わらないという。そんな「世界で一つだけの鼻」に着目し、NoseIDはAIのディープラーニングを活用して鼻紋を解析し個体識別する。登録数が増えればそれだけAIの認証精度が向上するといい、「認証率は現在、92%まで向上しました。今後100%に近づけていくため、当面は1万頭の登録をめざして、愛犬家のみなさまに登録を呼びかけているところです」と澤嶋さんは話す。
使い方は簡単だ。飼い主は同アプリをダウンロード(無料)し、飼い犬の鼻の動画を撮影。そのとき、鼻紋のほかに、名前や生年月日、既往歴、アレルギー、薬剤服用歴、性格などの情報もあわせて登録しておく。
たとえば、愛犬が迷子になってしまったケース。発見者が犬の鼻をスマホで撮影すると登録済みの犬と照会でき、鼻紋が一致すれば、発見者と飼い主が個人情報を伏せた状態でメッセージを交換できる。周辺エリアのユーザーには愛犬がいなくなった旨の通知もできるため、そのエリアの登録者、サロンや病院などの人たちが捜索を手伝ってくれる可能性もある。また、鼻をスキャンするだけで既往歴や性格など、その犬の情報が瞬時に確認できるため、なんらかの対処が必要なときにも役に立つ。
アプリ開発のきっかけは、ともに同社の代表取締役を務める愛犬家の韓慶燕さん(32)のこんな体験だった。ある日、韓さんの自宅マンションで火災報知機が鳴り響き、韓さんは愛犬を抱えて慌てて自宅を飛び出した。リードを装着する暇もなく、大きな音にパニックになって今にも腕から逃げ出してしまいそうな愛犬を見たとき「もしこの子と離れ離れになってしまったら、どうすればいいのか不安に襲われた」という。犬の鼻紋を用いれば個体識別できることがわかり、鼻紋認証開発に長けた技術者らとともにアプリ開発を行なってきた。
犬猫にマイクロチップ装着を義務づける改正動物愛護管理法が施行されたが、役割はどう違うのか?「マイクロチップは犬や飼い主が誰かを特定するのが目的で、最後の砦として安心な『公助』。一方、NoseIDは迷子犬を発見した人や飼い主さん同士が、登録されたデータを活用することで互いに助け合う『互助』の役割を担います」(澤嶋さん)
福岡市とコラボし、実証実験を実施中
昨年4月には、福岡市と福岡地域戦略推進協議会が行う実証実験フルサポート事業に採択された。これはAIやIoT(モノのインターネット)などの先端技術を活用して社会課題の解決を目指すプロジェクトを全国から募集し、実証実験をサポートする事業。同市内の飼い主に鼻紋登録を促し、鼻紋認証技術の向上を検証するとともに、迷子犬が発生した場合、アプリユーザー同士で解決できるかなどの実証実験を行なっている。愛護センター、ペットサロン、獣医師会など市内160以上の団体から賛同、協力を得ているといい、実用化に向けた取り組みが進行中だ。
また、この春には「ネスレ日本株式会社 ネスレ ピュリナペットケア」が革新的なペットテクノロジーやペットケアのスタートアップ企業を支援するプログラム「Unleashed(アンリッシュド)」に採用され、さらなる認知度向上、鼻紋登録数増が期待されている。
アプリはまだテスト版だが、飼い主に何かあったときに見守ってくれる人と愛犬の情報を共有できる見守り機能や、狂犬病予防接種済票など各種証明書をアプリ内に画像で保存できるメモ機能など、ユーザーの要望を反映したアップデートが繰り返され、日々進化をとげている。ワクチン接種や既往歴などの健康管理情報を一括管理することで、提示が簡単になり、犬同伴可施設が増えるといったことにも繋がりそうだ。
「ワンちゃんを飼っていると、一緒に行きたいのに、飲食店への入店や旅行ができなかったり、引っ越しをするにもペット飼育可賃貸物件が非常に少なかったりと、今はまだ多くの制限がありますよね。登録頭数が増えれば、迷子捜索や災害など緊急時に使うだけでなく、ビッグデータを活用することで愛犬家が抱える様々な課題を見える化し、ニーズを集約して行政や民間企業に伝えることができますし、ペット関連産業の発展にも寄与できると考えています。NoseIDを通じて、ペットと飼い主がより安心して自由に暮らせる社会を実現していきたいです」と澤嶋さんは話している。
(まいどなニュース特約・西松 宏)