中国は日本との関係を諦めるのか 拘束男性の解放要求も…外相会談で浮き彫りになったギャップ

3月、日本の製薬大手アステラス製薬の現地法人幹部の日本人男性が反スパイ法に違反したとして拘束された直後、日本の林外相が中国を訪問し、共産党幹部と相次いで会談した。会談で日中双方は経済や文化など重要な分野で一層関係を強化していくことを確認した一方、日本側は拘束された男性の早期釈放を要求し、東シナ海や尖閣などで続く中国の海洋覇権に改めて釘を刺した。中国側は拘束された男性の処遇について法に従って対処にしていくとし、海洋覇権については日中間での認識ギャップが改めて浮き彫りとなった。

その後、中国共産党機関紙の環球時報は4月3日付の社説で、「日本が虎(米国)の手先とならないことが建設的かつ安定的な日中関係の構築のための前提条件になる。今後日中関係がどうなるかは分からない」と指摘し、中国の外交担当トップ王毅氏も、日本国内の一部勢力が米国追随外交を徹底し、中国の核心的利益に触れる問題で我々を挑発していると不快感を示した。また、邦人拘束の問題についても、中国は日本がこの問題をクローズアップし、歪曲してあおっていると非難している。

邦人拘束から今日に至る一連の動きから、中国側の真意は一体どこあるのだろうか。ここでは3つのポイントを指摘したい。

まず、日中関係を維持、発展させたいという思惑だ。米中対立が不可逆的に深まり、近年は他の欧米諸国の対中認識も厳しくなるなか、大国化する中国としては経済面を中心に経済先進国との対立はなるべく最小化したいのが本音だ。ゼロコロナで国内経済が停滞し、経済成長率も鈍化する今日ではなおさらだろう。活気ある経済成長の維持は習政権3期目の最重要事項でもあり、中国側には日中関係の冷え込みによって国内経済にさらなる打撃が生じることへの懸念がある。

2つ目は、日本の様子を窺おうという中国側の狙いだ。中国政権内部にも強硬派と穏健派があり、これはどちらかと言えば強硬派の意見だろうが、今日、中国側は政治や安全保障で対立するが、経済では安定的な関係を保とうとする日本の姿勢を注視している。昨今、日本企業の間では脱中国を巡る動きが以前より活発化しているが、依然として多くの日本企業は簡単にそれができる状況にはない。中国側もその日本の弱点を認識しており、要は、政治が悪化しても経済関係が維持されるのか、日本側が率先して日中経済デカップリングに動くかどうかなどを注視し、対日関係を見極めようとする思惑だ。

そして3つ目は、何か大きな問題が生じれば日中関係を諦めようという思惑だ。日本が米国と足並みを揃えることについて、中国側が強い不満を抱いていることは上述の社説が証明する。

昨年秋、バイデン政権は中国への先端半導体の輸出規制を強化し、今年に入って日本は先端半導体に必要な製造装置の対中輸出を規制することを発表した。中国側にとっては、正にこれが“虎の手先”になることであり、対日不信を一層強める結果になった。そして、この3つ目の思惑は今後の情勢に照らせばさらに強くなる恐れがあろう。

典型的なケースが台湾有事だ。台湾は中国にとっての核心的利益であり、習政権は台湾統一をノルマに位置づけており、仮に有事となれば、中国側は日本との関係を率先的に諦める決断を下すだろう。そうなれば、中国側が在日米軍基地や自衛隊基地への攻撃だけでなく、サイバー攻撃や偽情報の流布、貿易制裁など多岐に渡り、邦人拘束のケースも劇的に増える恐れがある。

以上のように、今日の中国側には3つの思惑、狙いがある。しかし、我々は時間の経過とともに、3つ目の思惑が現実化する可能性が徐々に高まってきていることを意識するべきだ。

◆治安太郎(ちあん・たろう) 国際情勢専門家。各国の政治や経済、社会事情に詳しい。各国の防衛、治安当局者と強いパイプを持ち、日々情報交換や情報共有を行い、対外発信として執筆活動を行う。

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