【高利回りで高リスク!?】短期間で50%以上の損失が出たケースも…FPが解説する“仕組債”のからくり
昨年からニュースで“仕組債”というワードをよく耳にしませんか? その背景には、仕組債のトラブルが多数報告されていることから金融庁が監視を強めていて、実際多くの金融機関で個人向けの販売を停止していることがあります。高利回り、高リスクと言われる仕組債ですが、一体どのようなからくりの商品なのでしょうか。また資産形成に向く商品なのかどうかについて解説します。
■仕組債とは?
そもそも仕組債とはどのような商品でしょうか。
日本証券業協会のサイトに掲載されている解説によると、仕組債は以下のように定義されています。
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「仕組債」とは、文字通り、一般的な債券にはみられないような特別な「仕組み」をもつ債券です。
この場合の「仕組み」とは、スワップ(※1)やオプション(※2)などのデリバティブ(金融派生商品)を利用することにより、投資家や発行者のニーズに合うキャッシュフローを生み出す構造を指します。こうした「仕組み」により、満期やクーポン(利子)、償還金などを、投資家や発行者のニーズに合わせて比較的自由に設定することができます。
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※1 スワップとは、金利(固定金利と変動金利)や通貨(円と外貨)を交換する取引をいいます。例えば、スワップを利用することにより、金利が低下したときに受取利子が増加する(逆に金利が上昇すると受取利息が減少する)ような仕組債を作ることができます。
※2 オプションとは、あらかじめ約束した価格で、一カ月後、一年後など将来に売ったり買ったりできる権利をいいます。例えば、株価があらかじめ定められた価格を下回ったときに、この権利が行使されて、償還金が減額するような仕組債もあります。
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上記を読んでも、聞きなれない言葉が多くとても難解ですね。
もう少し簡単な言葉にすると、仕組債とは一般的な債券の性質と利息に加えて、デリバティブ取引で得られるオプション料(※3)などを合わせることで高い利息を得られる金融商品です。
デリバティブは金融派生商品ともいわれ、株式や債券、為替などの金融商品のリスクを回避したり、リスクを覚悟して高い収益を得ることをいいます。
このデリバティブがとても分かりにくく、内容によってかなりハイリスクになるので、仕組債自体がハイリスクととらえられているようです。
ただし、実際はデリバティブの参照指標やその内容、仕組債自体の償還までの期間、元本割れのリスクの有無などでリスクは大きく違うと考えてください。
上記をふまえた上で、仕組債(全体)の商品性・魅力とリスクを以下で解説します。
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【商品性・魅力】
▽主な参照指標は株価・金利・為替・クレジット(CDS ※4)
▽まとまった金額での投資(100万円以上)
▽高い利息が見込める
▽元本割れの可能性が低い(ように見える)
▽償還までの期間が短いものから長いものまで幅広く、投資家の希望に合わせやすい(例:1年や3年といった比較的償還期間が短いものから、20年や30年といった長いものまでありさまざまです)
▽満期前に償還となり、元本が返ってくる可能性がある(ノックアウト条項 ※5)
【リスク】
▽価格変動リスク
▽流動性リスク
▽元本割れリスク(ノックイン条項 ※6)
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※3 オプション料とは、オプション取引において権利を売った対価として受け取れる収益です。
※4 CDSとは、クレジット・デフォルト・スワップといい、国や企業などの債務不履行に対するリスクを対象とした金融派生商品です。
※5 ノックアウト条項とは、決められた判定日に参照指標を一定水準上回った場合、償還前に元本が返還される条件のことをいいます。償還前に返還されることをメリットととらえることもできるが、同条件で再投資できるかはわからないため、デメリットともとらえられることがあります。
※6 ノックイン条項とは、発行後一度でも参照指標を一定水準以下まで下がった場合、償還時に元本が割れたり、株式などの現物で戻ってきたりする条件のことをいいます。
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商品性や魅力を知ると、一般的な債券とはだいぶ違う商品性だとお分かりいただけましたでしょうか。
仕組債は本来、リスク対象・期間・求めるリターンなどを投資家のニーズに合わせて組成する「オーダーメイド型商品」です。
まとまった金額を償還までの期間保有しておくことができることがメリットであり、商品の内容やリスクをしっかり理解できて、その対価として高いリターンを得ることを目的とすれば、とても良い金融商品なのです。
■問題点
では金融庁はなぜここまで仕組債を問題視しているのでしょうか。
昨年金融庁は金融行政方針の中で、『仕組債は複雑な商品性を有しているため、顧客によっては理解が困難な上、実際にはリスクやコストに見合う利益が得られない場合がある点を踏まえる必要がある。』と指摘し、中でも特に個人向けに多く発行されていたEB債(他社株転換可能債)を取り上げています。(引用:2022事務年度 金融行政方針)
EB債というのは、株価を指標とした仕組債のひとつで、対象になる銘柄の株価が設定時の株価と比べて一定水準よりも下がらなければ高い利息がもらえ、かつ償還時に元本はすべて返ってくるというような商品です。
証券会社が主力商品のひとつとして販売することも多い商品ですが、もし一定水準を一度でも下回った場合は、償還までに株価が戻らなければ株式の現物で返還されることになり、そうなると多くの場合株価が下がっているので、損失が出た状態で償還を迎えます(ノックイン条項)。
一方、株価が上昇した場合はそこで早期償還となる設定がされている場合も多く、高い利息を受け取り続けることもできません(ノックアウト条項)。
いかがでしょう、なかなか複雑な商品内容ですね。
実際、短期間でノックイン(資産があらかじめ決められた価格を下回ること)となり、50%以上の損失が出てしまったなど、想定以上の損失が出てトラブルになるケースが少なくありません。
金融庁は、このような複雑な商品内容であるにも関わらず、販売会社である金融機関の説明が不十分であると指摘しています。
また、販売段階のコストと組成段階のコストが相当かかっており、それらは購入する際に支払う金額に含まれているため、投資家はコストがいくらかかっているかを認識せず購入に至っていることも問題です。
資産運用業高度化プログレスレポート2022によると、EB債の実質コスト(元本と構成価値の差)は、投資元本に対して平均して5~6%程度と推定されるが、実現満期が0.6年程度と短いため、実質コストを年率換算すると8~10%程度に達する、と報告しています。
仮に10%の金利がつくEB債を検討した時に、その裏に同程度のコストがかかると考えると、投資対象として考えるのは少し躊躇しませんか?
実際EB債と他の資産クラスにおいて長期的なリスク・リターンと比べると、EB債のリターンはリスクに合うほど高いとは言えないとも指摘しています。
以上のことからも、仕組債は複雑な商品内容であることに加え、コスト負担が大きいという点を金融庁は問題視し、監視を強めていることがわかっていただけたのではないでしょうか。
結論として、仕組債は限定された顧客ニーズを満たすものであり、一般的な顧客ニーズである長期の資産形成ニーズを満たすことは難しいといえます。
やはり、長期的な資産形成をするには、株式や一般的な債券などといった金融商品やそれらを組み合わせた投資信託を利用することが有効です。NISAやiDeCoといった国の制度もうまく利用しながら、長期的にしっかりとした資産形成に取り組んでいきましょう。
(まいどなニュース/FPオフィス「あしたば」)