「共済から終身医療保険に乗り換えた方がいい」セールスマンの勧誘トークに、50歳会社員の判断は? 手厚い公的保険を賢く使いこなせ
■保険が大好きな日本人
日本は国民皆保険制度が採用されており、全員が健康保険や年金保険に加入しています。年収500万円のサラリーマンは毎月およそ6万円の社会保険料を納めていて、さらに40歳以上になると介護保険も加わります。
それだけの保険料を払っているにもかかわらず、日本人の7割を超える人はさらに民間保険会社が販売する医療保険に加入しているのが実情です。その額は平均で年間4万~5万円と言われており、日本人がいかに保険好きかが分かります。
そもそも健康保険や年金保険などの「公的保険」にそれだけの保険料を支払っているのに、実はその保障内容を知らずに損をしている人も多いのではないでしょうか。せっかく多額の保険料を納めているのだから、公的保険を使いこなさないと損だと言えます。今回は、意外と知らない公的保険の機能を、2つのケースをつかっておさらいしていきましょう。
■高額療養費だけじゃない現役世代向けのしくみ
【ケース1】
40歳会社員(年収500万円)の立花さんは最近、胃の不調をきたすようになりました。医師の診断の結果、手術と2週間の入院療養が必要と判断され、入院から退院までの医療費の自己負担額は50万円となりました。立花さんの加入していた民間の医療保険は入院1日あたり5000円が支給されるもので、手術給付と合わせておよそ20万円が支給されました。
この場合、健康保険の高額療養費制度が利用可能です。公的保険によって窓口負担は現役世代で3割に抑えられていますが、さらに収入などに応じて自己負担の上限が決まっています。今回のケースでは立花さんの負担上限額は82000円程度となると考えられます。また「多回数該当」といって過去12カ月に3回以上上限に達した場合は、4カ月目からさらに上限額が下がるしくみもあります。(この場合は月額44400円)
さらに、病気療養などのために会社を3日以上連続して休んだ場合には4日目以降から「傷病手当金」を受け取ることもできます。支給額は標準月間支給額の3分の2で、さらに支給期間も1年6カ月と手厚くなっています。
このように、一定程度の貯蓄があればほとんどの治療・入院は公的な保険で対応可能です。ただ、高額療養費制度も傷病手当金も本人からの申請手続きが必要な場合が多いため、このような制度を知らない人はせっかくの保障をもらい損ねることもあるため注意が必要です。
一方で、差額ベッド代や保険適用外の治療などを希望する場合は高額療養費の対象とならないほか、収入が多くなると高額療養費の上限も上がるため、収入に余裕がある場合はお守りとして保険加入を検討してもよいでしょう。
■終身医療保険は必要か
【ケース2】
50歳会社員の村田さんは、家系に特に気になるような遺伝性の病気などはなかったため、手厚い保障は不要だろうと考えて、これまでは県民共済だけに加入していました。最近友人から保険のセールスマンを紹介され、一度保険を見直した方がよいとすすめられたので話を聞くことにしました。すると「共済は65歳以降の保障が大きく下がる。本当に医療費がかかるのは65歳以降なので、早めに終身医療保険に乗り換えたほうがいい」と強くすすめられました。
ケース1と同様に、一定程度の貯蓄があればほとんどの治療や入院は公的な保険で対応が可能です。また、所得基準はあるものの、70歳以降の窓口負担割合は減少し、75歳以降は1割になります。また、医療保険と介護保険の自己負担額が年間で一定の金額を超えた場合に「高額介護合算療養費制度」という仕組みも用意されています。
そして、高額療養費制度も高額介護合算療養費制度も「世帯合算」が可能です。世帯で複数の人が病気やケガをして医療機関で受診した場合や、一人が複数の医療機関や介護機関でサービスを受けた場合でも合算できるのです。基本的に個人名義で加入する民間保険とは保障の幅が大きく異なります。
このような公的保険の保障内容を踏まえると、民間の保険会社が提供する医療保険の役割は「医療費を保険で賄うこと」ではなく、「入院・治療期間中の収入を補うこと」と考える事が出来ます。そのため、子どもを養育している世代の方などがお守りとして加入することは経済的に合理性はあると言えますが、年金生活者のように病気になっても収入に変化のない人にとってはあまり意味のない金融商品と言えます。
■緊急予備資金はいくら必要か
本文の中で「一定程度の貯蓄があれば」という言葉が何度か出てきました。「それは具体的にいくらなのか」と疑問に思われている方も多いと思います。
答えは収入の額によって違ってきますが、公益財団法人生命保険文化センターの調査によると、入院治療した場合の自己負担の合計と経済損失の総額は平均30万円ほどとされています。入院が長期化してしまう可能性や退院直後から働くことが難しいことを考慮すると最低でも50万円程度の緊急予備資金は必要でしょう。また、病気以外にも失業したときなどにそなえて生活費の6カ月分の蓄えを持っておくと安心です。
今日ご紹介したような制度をご存じなかったかたは、ぜひご自身の加入している健康保険組合のウェブサイトやパンフレットなどを一度読んでみて下さい。いざという時に知っているのと知らないのとでは結果が大きく違ってくるかもしれません。
(まいどなニュース特約・DJ Nobby)