売れ残って→繁殖猫…5年間も狭いケージで出産を繰り返してきた味醂ちゃん 世界の広さを知って「お散歩大好きガール」に
味醂ちゃん(6歳・メス)は、もともとスコティッシュフォールドの子猫としてペットショップで販売されていた。しかし、売れ残ってしまい、ブリーダーのところに出戻り、繁殖猫として何度も出産を繰り返していた。
2021年10月10日、保護主に、「普通の猫らしい生活をさせてあげたい。ずっとのおうちを見つけてあげたい」と保護された。詳しい経緯は分からないが、その後、ホームセンターの一角に設置された、譲渡先を探している猫ちゃんコーナーにいたという。
■ホームセンターでの出会い
静岡県に住む斉藤さんは、2021年10月7日、17年間を共に過ごした三毛猫の胡桃(くるみ)ちゃんを老衰で亡くした。一緒に飼っていた7歳の白三毛の桜(さくら)ちゃんは、その寂しさから落ち込み、食事が食べられない日が続いた。
「何か好きそうなごはんはないかな?とホームセンターへ買いに行ったところ、味醂に出会いました」
味醂ちゃんは、亡くなった胡桃ちゃんにそっくりの三毛柄で、同じように耳が折れていた。味醂ちゃんはケージの中から斉藤さんを見て、ずっとニャーニャー鳴いていた。
「スタッフさんに声をかけたら、直接触れられると言われ、キャットタワーのある部屋で対面しました。味醂は、キャットタワーの低い段でも足を滑らせたり、ジャンプして棚に乗る時も目測を誤って顔から壁に突っ込んだりして、そういうおっちょこちょいなところにも惹かれました。手を差し出すとゴロゴロと喉を鳴らして頭を撫でさせてくれました」
「性格は違うかもしれないけど、桜と私の寂しさを埋める存在になってくれると確信し、すぐにお迎えを希望しました」
■流血事件
残念ながら桜ちゃんも食事が摂れないことによる衰弱で、2021年10月16日に胡桃ちゃんの後を追うように逝ってしまった。あと数日で味醂ちゃんをお迎えすると決めて、準備を進めていたところだった。
10月19日、斉藤さんは味醂ちゃんを迎えた。味醂ちゃんはホームセンターにいた時とは全く違い、家では凶暴だった。ごはんを差し出せば血が出るくらいの強さで斉藤さんの手に噛みついた。しばらく物陰から出てこなかったが、そこにいることに気が付かずに近くを通ると、足に噛みついたり引っ掻いたりしてきた。
「お迎えして3カ月ほどは週に3~4回ほどの流血事件がありました。噛みつきには頭を悩ませました。5歳なのに体重が2.8キロしかないことも気にかかっていました。また、暮らしてみて分かったのですが、猫なのにキャットタワーで足を滑らせたりするおっちょこちょいエピソードは、そんな可愛い理由ではなかったことにも気づきました。多分、生まれてから5年間、小さいケージでずっと過ごしていたのだと思います。足の筋肉が全くなかったのです」
■それぞれの個性を大事にしたい
斉藤さんは、味醂ちゃんに穏やかにストレスのない生活を送ってもらうため、すぐに避妊手術を受けさせた。動物病院に行く時に、外の世界に興味を持っているように思えたので、ハーネスをつけて外にも出してみることにした。
「見るもの全てに興味津々。風に舞う葉っぱを追いかけたり、木の上で鳴くカラスを見上げたり。とにかくお散歩が気に入ってしまいました。避妊手術とお散歩のおかげでストレスが減ったのか、噛み癖も治りました。今では私の後をついてまわり、自分から擦り寄ってきてなでなでを催促します」
筋肉もついたのか、後に迎えた醤油くん(ハチワレの男の子)と、天井近くに設置したキャットウォークも踏み外すことなく走り回っている。運動量の増加に伴い食欲も出てきて、いまでは4.2キロのもっちりボディになった。
「味醂はお散歩大好きガールになりました。猫をお散歩させることに賛否あることは承知しています。ただ、5年間も狭いケージの中で出産を繰り返してきた味醂には、いろんな世界を見せてあげて、ふんわりのんびり幸せを感じさせてあげたいと思っています。もちろん、不測の事態に備えて、味醂の安全を確保するため、いろいろ精一杯考えてお散歩しています」
斉藤さんは4匹の猫と暮らしているが、お散歩を好むのは味醂ちゃんだけだ。
「味醂がどうしたいのか、どうしてあげるのがその子にとって幸せなのか、私なりに考えて、それぞれの個性に合わせて生活させてあげたいと思っています」
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)