レスキュー時にもお腹には3匹の子どもが…「子育てが下手」という理由でブリーダーから遺棄されたチンチラシルバー
保護猫を迎え入れる風潮が広まりつつある一方、劣悪なブリーダーのもとで声にならない叫びを秘めたまま、暗い1日を過ごしている猫はまだまだ多い。えねさんのもとで第2のニャン生を手に入れた夢子ちゃんも、そうだった。
夢子ちゃんは「子育てが下手」という理由からブリーダーに遺棄された、元繁殖猫だ。
■夢の中で出会った、夢のように美しい猫
夢子ちゃんはこれまでに3回ほど出産しており、レスキュー時にも、お腹には3匹の子どもがいた。
悪徳ブリーダーは売り物にならないとの理由から猫を手放すことが多いが、夢子ちゃんの場合は健康面には問題がなく、「子育てが下手だから」という理由での遺棄。だが、何を基準にしての下手なのかは、不明だった。
現に、夢子ちゃんは保護シェルターで生まれた子猫たちのお世話を、ちゃんとしていたそう。
「もしかしたら、夢子ちゃんが子育てしなかったのは、彼女なりの抵抗だったんじゃないかなと思います」
そう語る現在の飼い主・えねさんと出会ったのは、推定2歳の頃。愛猫ラックちゃんの遊び相手になってくれる運動量の多い子を求め、えねさんは妹さんが運営するアニマルシェルター「ラフスペース」へ。
すると、高所から見下ろしていた長毛猫が足元に来て、すり寄ってくれた。
「ポールダンスのように優雅で妖艶な姿にドキドキしてしまい、『うちに来る?』と声をかけました」
シェルターでの名前は、ジュリエット。最初は名前を変えずにいようと思っていたが、夢子ちゃんの姿を見て、えねさんは不思議なことに気づいた。
「お迎えの1週間ほど前、家の中に白いモフモフ猫がいる夢を見ていたことを思い出しました。夢の中で出会った、夢のように美しい猫。だから、夢子にしたんです」
■先住猫の伸び伸びした姿を見て控えめな性格に変化が…
迎えた当初から、夢子ちゃんは手のかからない子だったそう。専用のベッドなど見たことがなかったからか、ふわふわのベッドに案内すると、ゆっくり前足で踏みしめながら、えねさんを見つめ、体を丸くして脱力した後、再び視線をえねさんに向けた。
「その姿は、まるで『ここで寝ていいの?なんか気持ちがいいね、ありがとう』と言っているようでしたね」
また、おやつをあげた時には一口食べた後、じっとお座り。口に合わなかったのかなと思ったものの、「好きなら食べて」と声かけると喜んで食べてくれた。
「食べた後には、ちゃんと『ありがとう』と伝えてくれる。私が与えるもの全てに感謝し、感動する姿は以前暮らしていた場所が、どんなに過酷な環境だったのかを物語っているようで胸が苦しくなりました」
劣悪な環境に身を置いてきた子の中には、心に大きな傷を負っている子も多い。夢子ちゃんの場合は、お尻周りを触られることを異常に嫌がる。
「おそらく、子猫の時に交配をさせられて嫌だったんだと思います。来たばかりの頃は、毛づくろいを一度もしなかった。心を閉ざし、猫として楽しむことを拒否しないと生きていられなかったのだろうと感じました」
ちなみに、夢子ちゃんが自分で毛づくろいをするようになったのは、お迎えして1年以上経ってからだったそう。
夢子ちゃんの傷が癒えていったのには、先住猫ラックちゃんの存在も大きかった。
2匹は初対面後、5秒で鼻チュー。すぐに意気投合し、30分後には、かくれんぼをして遊び始めた。
「対面の翌日、ラックのトイレに2匹のウンチがしてあったのですが、砂を半分ずつ使い、右と左に分けてしてあったのには、びっくりして笑っちゃいました。子猫だったラックは毎日、夢子を毛づくろいするようになりました」
猫らしいニャン生を諦めていた夢子ちゃんは伸び伸びと生きるラックちゃんと出会い、刺激や新しい発見をたくさん得たよう。控えめで自分の感情を殺していたのが嘘だったかのように、ラックちゃんのイタズラやお喋りを真似し、意思表示するようになった。
「夢子ちゃんはラックちゃんが好きすぎて、いつも匂いを嗅いでいます。時々、スイッチが入ると猛ダッシュしておもちゃと遊び、見事なジャンプも披露。信じられないほど高い場所にいて、びっくりさせられることもあります」
そうした変化を目にした、えねさんは命がお金になるペットビジネスの深刻さを痛感した。
「世界的にみても、日本はペットビジネスが盛んになりすぎているので、情報を発信し、民度を高めていくなど、自分にできる活動から社会を変えたい。血統を守るためのブリーダーは必要とは思うので、ペットビジネスが儲からないシステムになり、悪質な繁殖業者が自然淘汰されるようになってほしいです」
ビジネスとしてではなく、かわいがられ、愛され、幸せになるために産まれた--。自分の命をそう思え、伸び伸びと暮らせる猫が増えてほしい。
(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)